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オリアーナ大叔母様との対決

 エリザベートです。


 お茶の用意が出来たので、オリアーナお姉様や皆を、呼びに行きますと、え? そんなのはメイドや従僕の仕事だろう、ですって? いえ、いえ、自ら動いてこそ価値は創出されるのです。人任せはいけません。特に大切な人達に向けてはね。これ大事ですよ。テストに出ます。嘘です。


 とにかく呼びに行きますと、

 なんということでしょう! 私の最愛、もとい 憧れのオリアーナお姉様と、我が愛娘のアリスティアが前庭で魔術戦をするなどという、とんでもない事態になっているではありませんか。世の中、一歩先は闇と申します。神々の操る運命の糸の不可思議さは、愚かな人の身には予見出来ることではございません。


 ああ、こんな、お喋りしてる場合ではありませんでした。事態は緊迫しております。早く動かねば! 私は、メイド達に命じます。


「あなた達、テラスへお茶とお菓子を運ぶのです。急いで!」



 アリスティアです。


 どうしてこのようなことに、なったのでしょう。私の日々の行いが悪いのでしょうか? ウサギ小屋の庶民が、伯爵令嬢、高貴なお嬢様になったのです。令嬢、お嬢様らしからぬ、至らぬ振る舞いが多々あったことでしょう。いや、もしかしたら、それしか無かったかもしれませんが、ですが、それでも、このような奈落に突き落とされる謂われは無いと思うのです。


 私の前方に、ピッチャーとキャッチャーくらいの距離で、悪魔、もとい オリアーナ大叔母様が立っておられます。その立ち姿はとても麗しく、力強いものです。体幹が鍛えられた武人はやはり常人とは違います。

 右手には白銀に輝く長剣。鞘は、後方へ投げ捨てられました。


『小次郎、敗れたり。勝つ者が何ゆえに鞘を捨てるのか!』


 いえ、相手は、小次郎さんではありません、オリアーナ大叔母様です。それに鞘を外しておくのは、失くす心配が無いのなら、理にかなっています。腰でブラブラして戦闘では邪魔なだけです。


 大叔母様は、元王都第一騎士団副団長です。お父様曰く、「天才」だそうです。先ほど、大叔母様のオーラを見ました。あれは最早、人間のものとは思えません。「人外」です。人外と言えば、魔獣ですが、あれなら話は簡単です。領の騎士達に一言いえば良いのです。


「騎士達よ、魔獣どもを蹴散らしておやり」


 命令するだけの簡単なお仕事です。でも、相手は魔獣などのような、ちんけな相手ではありません。


「騎士達よ、そこの異世界宝塚をボコボコにしておやり、半殺しでもよろしくってよ」


 駄目です、オルバリス騎士団は壊滅です。治安悪化、強盗夜盗 蔓延、流通崩壊。経済崩壊。オルバリス伯爵家は終わりです。


 泣きたいです。私が覚えた戦闘魔術は「風の斬撃」のみ、それも二回に一回しか、まともに放てない体たらくです。勝てる訳がありません。悲惨な状況です、こんな状況に陥れた神々を、いえ、神々は悪くはなく、今回の諸悪の根源はエルシミリアなのですが、慕ってくれる可愛い可愛い妹です。こんなことで憎んではいけません。責任転嫁です、悪いのは神々です。


「訪れよ! 神々の黄昏(ラグナロク)!」

「我が秘められし魔眼の力に、ひれ伏すがいい!!」


 すみません。厨ニ病に逃げてしまいました。なんの解決にもなりませんし、今は恋したくもありません。

 

 ああ、私がこのような苦境に陥っているのに、私の家族は何をしているのでしょう。恨めし気な視線を、お父様、お母様、エルシミリアに送ります。


 優雅に午後のお茶、してんじゃねぇーよ!!


 これでは令嬢どころか、ただのヤンキー少女です。こんな私に誰がした?




 ロバートです。伯爵です。オルバリスで一番偉い人です、ほんとですよ。


 可愛い我が娘、アリスティアよ。これは父も通った道なのだ。あの頃は、ほんと辛かった。うん、うん。




 エルシミリアです。


 お母様の、淹れて下さるお茶は、ほんと美味しいです。わたしもこのように淹れたいのですが、全く上手く淹れられません。何かコツがあるのでしょうか。今度、お母様に、きちんとご教授願おうと思います。


 え? アリスティアお姉様のことを心配しないのか ですって?


 全く、心配しておりません。アリスティアお姉様の魔力量は伝説クラスの「プラチナ上位」かつ、「神契の印」を賜るほどに、神々に愛されたお方です。あそこに突っ立てる、男か女だかわからない大叔母様などに、負ける訳がありません。時間は有限なのです、意味あることに時間を使わねば。


「お母様、茶葉はティオール産が一番だと思いませんか?」




 エリザベートです。


 アリスティアが、こちらに視線を送ってきます。やはり、アリスティアでも、さすがにオリアーナお姉様が相手では、不安なのでしょう。ここは母として、なんとか娘を勇気づけねばなりません。笑顔を作り、両手のコブシをグッと握りしめ、肩の高さに持って来ます。


 ガンバ!


 あ、アリスティアが地面に膝をつきました。

 ○| ̄|_ になっています。足でも攣ったのでしょうか? 心配です。




 オリアーナだ。


 アリスティアを見ていると、少々可哀そうに思えて来た。この娘、ちゃんと家族に大事にされてるのか?


 駄目だ、人の心配してる場合ではない。外には余裕を見せてはいるが、私も今は綱渡り状態なのだ。アリスティアのオーラを見た時、衝撃が走った。まず、マーブルなオーラに驚いた、そしてもっと驚いたのが、光の質だ。長年、多くの人や生き物のオーラを見続けて来た私には分る。


アリスティア(この娘)はこの世界の者ではない!」


 オーラの光には、「質」というものがある。色が違うだけではないのだ。その「質」がアリスティアは他の者とは全く違う。異界から来たとしか思えない。異界とは神々の力さえ、及ばない世界。そういう者を相手にして怖じ気づくなと言うのは少々無理が過ぎる。それに、あの娘の魔力量は「プラチナの上位」。私の方は「シルバーの上位」、話にならない。


 しかし、これから私は、あの娘達を鍛えねばならない。弟子になる者相手に、びびってる場合ではないのだ。絶対勝つ、年の劫を見せてやる。


「そろそろ始めよう。お前はまだ、魔術初心者だから詠唱の時間をやる。殺す気で打ってこい!」


「わかりました。大叔母様! では、本気の本気でいきます!」


 アリスティアが真剣な顔になり、スーッと息を吸い込んだ。



『 ###! ############! 』



 嘘だろ! 高速詠唱! どこが初心者だ!


 斬撃が来る! でかい! 速い! こんなの最早、騎士団団長クラスじゃないか!!


 くそ! ちゃんと適正な位置に当たってくれよ。防隔の魔術を仕込んだ鎖帷子、着て来てはいるが、怪我で済んだら御の字! 当たれ!!


 ギャン! 金属音が響き渡る。




 嘘でしょ! 風の斬撃の刃を剣で弾いた…… 大叔母様は人間ではない、怖い……。


 せっかく、二分の一の幸運に恵まれたのに、勝ったと思ったのに。


「なんで、剣ごときで魔術の刃を跳ね返せるんですか! おかしいです! 大叔母様は何なんですか!!」


「はっ、無知もはなはだしい。魔力が作る力場にも重心ってものがあるんだ、それを崩してやれば良いだけだ、柔よく剛を制す! 覚えておけ!」


「あなたは嘉納治五郎ですか!!」


「そんな、外国人みたいな名前の奴は知らん!」


 斬撃の刃は弾かれた、けれど、まだ操作可能だ。イメージしやすいように、右手をぐるんと振る。斬撃の刃は、楕円を描き、大叔母様が剣を持たない左側の後方から襲い掛かる、体勢的に弾くのは難しい筈だ。

 刃が大叔母様に迫る、斬撃が大叔母様を薙ぐと思えた瞬間、大叔母様が視界から消えた。


「!」

 

 いや、消えたのではない。

 実は、人間の目は一点しか見ていない。私は大叔母様の上半身を注視していた、だから、瞬時に体を屈め伏し、回避動作を行った大叔母様が消えたように見えたのだ。理屈を言えば簡単だが、人が出せる速度で実現できると思えない。ほんと人外だ、この人は。


「教えといてやる! 円運動は遅いんだよ! 速いのは直線だ!!」


 オリアーナ大叔母様は、獣のような瞬発力で跳び出し、一気に距離を縮めて来る。斬撃の刃は、どこに! 駄目だ、あんな所に!


 間に合わない!!



 オリアーナ大叔母様の麗しい顔が、眼前にあった。大叔母様の左手は手刀の形となり、私の首元に当てられている。冷や汗が流れ落ちた。


 大叔母様が囁く。


「お遊びは終わりです。明日から、鍛えますよ、しっかり学ぶのですよ」


高速詠唱の表現ってどうしたら良いのでしょう。全く分かりません。

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