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使用人部屋にて

「エルシミリア、あそこは、暗いから気をつけるのですよ」

「はい、お母様。でも、灯火の魔術は使えますので大丈夫です」


 深夜、わたしはお母様の部屋を出た。


「アリス姉様、今日の晩は、わたしはお母様の部屋で寝ようと思います」

「あら、もう十歳なのに、エルシーは甘えんぼさんですね。ふふ。では、私も」

「ダメです、姉様は自分の部屋で寝てください。今晩のお母様はわたしが独り占めです」


 ガーン!


「そ、そんな。仲間外れだなんて……よよよ、エルシーは私が嫌いなの?」


 わたしは、今晩、アリスティアお姉様に内緒で、使用人部屋のある一室に行くつもりであった。私とお姉様の部屋は隣同士。わたしが深夜に部屋を出たとしても気付かれないとは思うけれど、万一のことも考え安全策をとった。


 使用人部屋へ続く廊下は暗い。わたしは灯火の魔術の術式を唱えた。

 上を向けた右手の掌の上に、青い炎が、ふんわり浮かぶ。意識を集中しよう、でなければ、まだ紋章を取得していない、わたしでは術式を維持できない。


 紋章取得前の貴族は、魔力を持ってはいても魔術を使える者は殆どいない。しかし、術式を覚えれば使うことは可能。便利だからこれだけは覚えておきなさいと、お父様に言われ、わたしとアリスティアお姉様は灯火の魔術の術式を教本とにらめっこしながら学習した。

 お姉様は昼食前には、ほぼ完璧になっていたけれど、わたしは、まる一日以上かかった。今でも、集中しないと、すぐ小さくなって消えてしまう。双子なのに、この差は何なの……と落ち込んでいると、お父様が慰めてくれた。


「エルシミリア、アリスティアと比べるでない。お前だって優秀だぞ、私なんぞ三日かかった。十分凄いぞ」


 お父様の慰めはありがたかったけれど、それでも一抹の悔しさは否めなかった。でも、就寝中のお姉様の隣に、炎が浮かんでいるのを見た時、呆れて、悔しいなどの気持ちはどこかへいってしまった。こんなこと、お父様だって出来はしない。


 目的の部屋が見えて来た。コレット、眠っているところ悪いけれど、起きてもらうわよ。扉の前に立ち、なるべく音が小さくなるようにノックする。


 コン!コン!


 思っていたより早く扉は開いた。コレットは眠りが浅いのかもしれない。後にコレットが話してくれたのだけれど、扉を開けた時に、青い炎に照らされ、闇夜に浮かび上がる私の顔を見た時、闇の精霊ハーディが来たのかと、心臓が止まる思いであったらしい、炎の色が悪かったのかもしれないが、失礼千万。


「エルシミリアお嬢様。こんな時間に、どうしてこんな所へ」

「ごめんなさいね。コレットにどうしても今晩中に話しておきたいことがあって、いいかしら?」

「もちろんです。お入りください」


 コレットがランプを灯す。私は一脚ある椅子を進められ、コレットも座るように言うと彼女はベッドに腰を掛けた。


 コレットがこの部屋、使用人部屋の一室にいるのは、コレットが外苑の村からやって来ていて、まだ宿が決まっていないのを知ったアリスティアお姉様が、選考結果が出るまで泊まっていくように勧めたからだ。


 わたしは、コレットに伝えなければならない。お姉様がコレットを侍女に決めたこと、でもその侍女は単なる侍女ではなく「挺身侍女」であることを。


 契約魔術を使用することは使用人達には知られたくない。だから、最初はお母様が直々に話すつもりだったそうだが、「わたしに話させてください」と言って代わってもらったのだ。


 わたしは、アリスティアお姉様が、この()に何故ここまで入れ込むのか知りたかった。コレットは、お姉様にとって何なのか? わたしには平民なのに魔力がある点(これは希少価値としては凄いことだけれど)以外、特段に魅力があるとは思えない。


 まず、コレットに、彼女の不可解な状況を説明してもらおう、お姉様がコレットの何に惹かれているのかは、それで見えて来るかもしれない。


「コレット、あなたはどうして領都(タルモ)にやって来たの? どうして伯爵家(うち)の侍女選考会に紛れ込んでしまったの?」


 わたしは真っ直ぐ、コレットの顔を見て問いただす。


 コレットは、一瞬、目を見開いたが、すぐに視線を落としてしまった。ほんの少しの間、沈黙が二人の間を支配したけれど、コレットはゆっくりと視線を上げ、そして微かに微笑んだ。


 この娘、笑うと結構可愛いな。


 コレットの微笑みが消える。


「十日前、私の父と母は貴族に殺されました」


灯火の魔術の炎は熱を持たない設定です。でなければ、就寝中に使うなど怖くて無理。

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