対価無しはありえない
今回、とっても短いです……。
2021.11.23 時間の流れを少々変更。
アリスティアお姉様が帰られた後、すぐにドアがノックされました。ユリアでした。
「エルシー。貴女の想いが通じたわね。おめでとう」
そう言ってユリアは、わたしを抱きしめてくれました。ユリアの姿は前世のお姉様の姿。先ほど、お姉様に抱きしめてもらったばかりです。ですから、今日一日で新旧お姉様に抱きしめてもらったことになります。嬉しくも妙な気分、とても妙な気分です。
わたしはユリアにお礼を言い、後で彼女に確かめようと思っていたことを口にしました。
「ねえ、ユリア。貴女がお姉様の背中を押してくれたんでしょ? そうなんでしょ」
さきほど、わたしの自虐的な言葉に怒って手を振り上げようとしたお姉様が、不自然な状態で固まってしまうことがありました。あの時は体の具合でも悪いのかと心配したのですが、落ち着いて考えてみると、あのお姉様の固まっていた時間は、ユリアと心の中で会話していたのでしょう。
「さあ、どうだったかしら。よく覚えていないわ」
「覚えていないって、半刻もたっていないじゃない」
わたしのツッコミに「フフッ」といたずらっ子ぽい笑顔を返すユリアを見ていると、切ない気持ちがこみ上げてきます。お姉様を愛しているのは彼女も同じ筈なのに、こんなに温かい笑顔を、わたしに向けてくれています。わたしが彼女の立場なら同じことが出来るでしょうか? 無理です。わたしの心はそんなに大きくはありません。
「ユリア、ごめんね。アリスティアお姉様の一番になりたいのは貴女も同じなのに……、ほんとうにごめんなさい」
「そんなこと謝らないで、これは自業自得。二兎を追う者は一兎をも得ず」
「二兎を追う者?」
「あら、エルシー。覚えてないの? 私の主は二人、アリスティアと貴女。そう言ったじゃない」
大切な主……、嬉しい言葉です。照れ隠しに、つい、茶化してしまいました。
「ええ、まあ確かに言ってくれたことはある。けれど、一番の主はアリスティアお姉様。わたしは二番目。おまけみたいなもんでしょ」
「バカ言ってない」
ふひっ!
軽く頭を叩かれました。アリス姉様と違い、今一つ快活になりきれないわたしの性格のせいでしょうか。お姉様以外で、このての愛情の示し方をしてくれるのは彼女だけです。
「貴女も一番よ、どちらがとか無いから」
胸になんとも熱いもの、泣きたくなるような切ない気持ちが込み上げて来ます。
アリスティアお姉様から、私の一番は貴女、と言ってもらえました。そして、ユリアにまで……。わたしはなんて幸せ者なんでしょう。
ユリアは、さあ、もう一度という感じで両手を広げてくれ、わたしは再び彼女に身を預けました。安心感がわたしを包みます。ユリアは、お姉様の心、それも感謝の心が産んだ付喪神……。
「私はアリスと貴女を守るよ、この身に代えても二人の未来を絶対守って見せる。だから心配しないで、ね、エルシー」
「ありがとう、ユリア……」
ほんとうにありがとう。
でもね、わたしはアリス姉様と一緒に未来を築けるなんて思っていないよ。そんなこと出来る訳ない、いえ、して良い筈がない。わたしはアリス姉様を助けるため、お姉様が生き残る確率を高くするために、ノエル殿下の好意を利用した。そして……、
殿下はわたしの最愛が、自分でなくても良いと言ってくれた。そんな人を裏切れる? 裏切って良いの?
わたしは殿下と共に生きて行くよ。王族として生きて行く。生きて、アリスティアお姉様の暮らす、このオールストレームを支えるの。(まあ、これはキャテイ様とコーデがドランケン神に、わたし達がルシアに勝てたらだけど……)
だから、これからもアリス姉様を助けてあげてね。わたしの分まで……、
貴女のなさけない妹の分まで。お願いよ、
ユリア姉様。
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数日後、オールストレーム王国王都ノルバートは二頭のドラゴン(ホワイトドラゴン、ブラックドラゴン)の急襲を受けた。
エトーレゼとの休戦協定は、終了まで一か月以上を残していた。
アリスティア(野乃の転生)、ユリア(野乃の心から生まれた付喪神)、コーデリア(平行世界の野乃の転生)。エルシミリアの人生は野乃まみれと言っても過言ではありません。幸せなのか、不幸なのか。
2021.10.30 あまりにも更新が出来てないので、陳謝SSを活動報告に書きました。ご興味のある方は見てやって下さいませ。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1831895/blogkey/2886190/
馬鹿話です。最近の「転生伯爵令嬢~」は、こういうの書けるところなくて……。