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私達の王

 エルシミリアとノエル殿下の結婚式の翌日、私とコーデリアは、王宮、アレグザンター陛下の下へ参内(さんだい)した。


 参内した理由は、勿論、これからのことを話し合うためだ。


 陛下とは、早く話をしたかったのだが、昨日は全く出来なかった。陛下も私達も、式に招待していた各国要人への対応に忙殺された。突然の神の登場に、彼ら彼女らは不安の塊になっていた。


 沢山の質問や要望が、私達を襲った。曰く、『あの新しき神は、本当に真の神なのか、信用して良いのか?』とか、『キャティ神様は、オールストレームを守るというが、同盟諸国はどうなのか?』とか、『今起こったことなど、国に帰って説明できない。オールストレームが責任を持って、うちの国で説明してくれ』とか……、『もう嫌! 王権を放棄するから、うちの国を併合して下さい、お願い!』とかまであった。


 ほとほと疲れた。



「おはようございます、陛下。尊き神々の一柱を、息子に持たれた気持ちは如何ですか?」


 あの後、キャティ神様は、ノエル殿下との融合を人々に見せつけた。勿論、「ノエル殿下=キャテイ神」を周知させるための見せかけだけのものではあるけれど、そのシーンは前世のCG映画ばりに美麗で、素晴らしいものだった。聖堂前広場にいた王国民の熱狂はさらに高まった。


「五月蠅い。そなたも、立場は殆ど同じではないか。神を義弟に持った気分はどうだ? 言ってみろ」


「んー、そうですねー。エルシミリアもとんでもない玉の輿に乗ったもんだなー、私も負けてられないなー、ですかねー」


「玉の輿? 暢気な例えにもほどがある。その玉は大き過ぎる、あまりにも大き過ぎるではないか、そなたは、それについて何も思わないのか?」


 私は陛下の心労を思って、軽い冗談から入ったのだが、陛下は、それに付き合ってくれなかった。もう冗談につきあう余力もないのだろ。失敗だったかと思うと気分が暗くなった。


 私は素直に謝った。


「場に沿ぐわない発言でした。申し訳ありませんでした、陛下。」


「父上、アリス姉様を叱らないでやって下さいませ。アリス姉様は、とても責任を感じていらっしゃいます。キャティ神様に、最初に神剣を賜ったのはアリス姉様です。でも、それを活かせず、キャティ神様、自らがお出ましにならざるを得ない状況を作り出してしまったことを、本当に悔やんでらっしゃるのです。それは、わかってあげて下さいませ」


 コーデリアが、陛下の下へ寄り、切々ととりなしてくれた。最近、コーデは私に対して優しくなった。ルーシャお姉様に続き、エルシミリアも嫁いだ今、私の下に残る姉妹は、コーデ一人。だから、これはとても嬉しいことだ。


 陛下はコーデリアの頭を撫でられた後、こちらを向かれた。その眼差しはいつもの陛下の眼差しに戻っていた。私の好きな優しい眼差しに……。


「すまなかったな、アリスティア。少々疲れていてな、気を廻せなかった」


「いえ、陛下が悪いのではございません」


 陛下も謝ってくれた。でも、謝られると益々申し訳ない気がして、気分がさらに暗くなった。でも、気分が……などとは言っていられない。今後のことを、ちゃんと陛下とお話せねば!


「陛下、これからのことはどうされるのですか?」


 陛下の答えは、予想通りのものだった。


「これからか。私は退位しようと思う、国王の座をノエルに譲る。これは宰相とも昨日話し合った、バーソロミューは強く反対したが、最後には納得してくれたよ」


「まことに不敬かと存じますが、私は陛下の御退位には絶対に反対でございます」


「何故だ? ノエルはもうただの第二王子ではない。キャティ神様でもあるのだ、私のような人如きが上にいて良い訳がなかろう。私は辞めるよ、辞めて臣下としてキャティ神様をお支えする」


「アホか、いつからそのようなアホになってしまったのだ。アレグザンターよ」


 ユンカー様がいつの間にか、部屋に入って来ていた。三人とも全く気付いていなかった。あのコーデでさえ、目をパチクリさせている。ユンカー様、貴女は忍者ですか?


「二人が来ていると聞いて、来てみればこれだ。ヨボヨボになってるならともかく、まだまだ働き盛りなのに、臣下になってお支えするとは何だ。お前は、王としての気概はないのか!」


「そうは言いましても、大祖母様。ノエルは、いえ、キャティ神様は神々の一柱なのです、最早、我々人の出る幕ではないのではありませんか?」


 ユンカー様はこめかみに手を当て、首を振られた。ダメだ、こりゃ、と言う感じ。


「アリスティア、このアホに説明してやれ」


 お鉢が廻って来た。ユンカー様は、あまり喋るのを好まれない。要するに面倒臭がりである。


「陛下、恐れながら申し上げます。キャティ神様がこちらにおられたとしても、オールストレームは安泰ではございません。エトレーゼにドラゴンを与えたのはドランケン神。彼女は神々の中でも最強の神。キャティ神様とて、ドランケン神に打ち勝つのは無理かと存じます」


 アレグ陛下の顔が蒼白になった。


「そのようなこと初めて聞いた。アリス、そなたは誰に聞いたのだ?」


 私がドランケン神が最強の神であることを知っているのは、コーデに聞いたから。でも、それを話す訳にはいかない。ノエル殿下の融合だけでも、陛下は結構いっぱいいっぱいな状態なのに、娘のコーデリアが元々は、この世界の真の神、十三柱を作りし()()だなんて知ったら……、可哀そう、可哀そう過ぎる。


 ここは適当に流そう、適当な嘘をつこう。


「キャティ神様から聞きました。天羽々斬(あまのはばきり)を賜りました時、キャティ神様はおっしゃいました。『エトレーゼにドラゴンを与えしは、ドランケン神。彼女は私より強い、だから彼女には出て来て欲しくない。なんとしても、この神剣を使い、人の間で、()()()()()()、決着をつけよ。そうするしか、オールストレームや、その同盟諸国には道はない』と……」


 いったん言葉を止め、陛下の顔を見てみた。陛下の表情は益々険しくなっていた。


「でも、キャティ神様は、最早、人のレベルでの解決は無理と判断されたのでしょう。だから、自ら表に出て、私達と完全に道を共にする未来を選択下さいました。はっきり言いましょう、神々が我々下界の者のことを、これほどまでに思って下さることなど滅多にあることではございません。私達は、とんでもなき幸せ者にございます。」


「確かに……、確かにそうであるな」


 陛下は、感慨深げに頷いてくれた。


「陛下、これ以上キャティ神様に負担をかけてはなりません。それに……」


 じっと、陛下の目を見据えた。


「オールストレームは人の国、人々の国です。決して()()()などではありません。王は人であるべきです。アレグ陛下が、これからも王であるべきなのです。陛下、王位にあるということが、如何に大変であるか、私でも少しは想像出来ます。でも、それでも、位にお留まり下さいませ。これからも、王として私達を、オールストレームの民を導いて下さいませ。お願いでございます。貴方は私達にとって掛け替えが無いなのです!」


「父上、私からもお願い致します。どうか……」


 コーデリアも一緒に頼んでくれた。そして、ユンカー様も……。


「アレグよ。私は長い年月を生き、オールストレームの変遷を直に見て来た。お前は歴代の王と比べても、全く遜色がない。いや、一二を争う王と言っても良い。お前のような子孫を持てて、私は誇らしい。だから自信を持って王を続けろ。人々を守れ、導け。もし、間違いそうだった、私が止めてやる。心配するな」


「大祖母様、ありがとうございます。頂いた言葉、一生忘れは致しません」


「私の言葉なんぞ、すぐ忘れて良い。それより、この世界最高の美少女が二人も、お前を慕ってくれているのだ。そちらに感動しろ、このバカ者が」


 コーデも私も、少し笑ってしまった。ユンカー様が、珍しくアレグ陛下を褒めたと思ったら、すぐに「バカ者が」。ユンカー様は、ほんと変わらないな。神々が出て来てるような事態になってでさえ、全く変わらない。


 私は以前、私の人生の師匠的な人がいるとしたら誰だろうと考えてみたことがある。先ず一番に頭に浮かんだのが、オリアーナ大叔母。そして次に浮かんだのが、ユンカー様。私は多分、この二人を超えられないだろう。どんなに頑張っても……、まあ、超える努力はするけどね。


 この後、陛下は、弱気な姿勢と見せたことを謝ってくれ、国王を続けるとちゃんと言ってくれた。私とコーデは手を取り合って喜んだ。


 アレグ陛下が国王を続けることは、これで決まった。次に問題になったのはノエル殿下の扱いである、仮にも神と融合されているお方、ただの第三王子のままという訳にはいくまい。どうしたものか……と、三人が悩んでいると、ユンカー様があっさり言われた。


「皇太子で良いだろう、皇太子にしておけ」


 こけそうになった。


「ユンカー様ー。皇太子って次代の王ですよ。さっき私は言いました。人の国の王は、人であるべきだと。ユンカー様も賛同してくれていると思っていたのですが、そうではないのですか?」


「賛同はしてるさ。だが、ノエルはキャティ神と融合したとはいえ、元々人だ。問題ないであろう。大体あいつは、人に過ぎんエルシミリアにデレデレじゃないか、この前の聖堂前から去る時を思い出してみろ、エルシミリアをお姫様抱っこして、嬉しそうに帰っていったぞ。あんなの神として扱う必要はない。人扱いで十分だ」


 あー、あれか。あのパフォーマンスはやり過ぎだった。エルシーの顔が真っ赤だった。確かに、お姫様抱っこは、多くの女子にとって憧れではある。だけど、あの大観衆の前でされるのは……。絶対、友達や知人に囃し立てられる。年をとっても絶対囃される。


 エルシー、ご愁傷様。これからも頑張って生きるのよ。合掌。


 などと、しょうもないことを考えていると、突如、部屋の扉が開き、慌てふためいたサミュエルが、陛下の第三従者のサミュエルが、青い顔をして駆け込んで来た。


「陛下、侵入者です! 大広間に、突如、少女が、一人の少女が現われました!」


 突如、現れた? 瞬間移動? でも、王宮内への瞬間移動は結界で弾かれるようになっている。結界はユンカー様が張ったもの、ちょっとやそっとの術者では、絶対突破できないしろものだ。それを突破してって……。それに、少女って……。


 嫌な予感がする、嫌な予感しかしない。


「もっと、ちゃんと報告せよ!」


「は、はい。その少女は、陛下とアリスティア様に面会を求めております。近衛の騎士達が駆けつけ、取り押さえようとしましたが、少女の腕の一振りで薙ぎ払われました。その騎士達の中には、近衛の騎士団長もいたのです。あのような恐ろしい使い手、私は未だ、見たことがありありません。ああ、なんて恐ろしい……」


 サミュエルは、汗びっしょり。震えさえ起こしている。陛下が怒鳴った

 

「しっかりしろ、サミュエル! 名前は? 名乗らなかったのか!」


「名乗りました。その少女は、自分のことを、ルシア・エトレーゼ。エトレーゼの女王だと申しております!」


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、簡単に言うと、キャティ神様の身分を改めて全国に伝えたという事ですね。確かに頭を抱える事項でしょうねw エルシさんは大変ですね。 ルシアが来たか。まぁ、逆によく長い間に放置しても来な…
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