表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/161

天界にて

私は、久々に妹を訪ねた。


「シーファ、久しぶりね」


「あら、キャティ姉様、お久しぶり。姉様が天界に来るなんて珍しいですわね」


「まあね、たまにはね」


 適当に答え、ドカッとソファーに腰を降ろした。


 シーファの見た目は十二歳くらい。ウエーブがかったパールホワイトの髪を持った、とっても優し気な美少女。実際、性格も穏やか。お母様が作られた同胞の中では一番、話しやすい。だから訪ねた。


「キャティ姉様、はしたないですわよ。そんな大股広げて。もう少し、女性らしくなさいませ」


「疲れてるのよ。少しくらい大目に見てよ」


 私はさらに、ぐでーっとした。


 その、だらけ切った姿を見て、シーファは溜息をついていたが、もう何も言わなかった。私を(たしな)めるのを諦めたようだ。


「姉様は、人間の少年と融合されましたが、その影響なのですか?」


「うんにゃ、ノエルは、ノリは軽いけれど、色々ちゃんとした少年だよ。これは、私、本来の性格」


 私達、十三柱には干支(&それに関する説話)に因んだモチーフがある。


 シーファは羊。


 私、キャティは猫。


 シーファが温厚な性格で、私が、気ままな性格であるのは、それに沿った設定ともいえる。しかし、最近の私を取り巻く状況は、猫だから~ と適当にやっていて良い状況ではなくなっていた。


「シーファ、ドランケン姉様の情報って入ってる?」


 私は、コカ・コーラをコップに注いでくれているシーファの背中に向かって尋ねた。


「ドランケン姉様の、ですか?」


「そう、ドランケン姉様の、よ」


 どうぞ、と、シーファはお盆に載せてコーラを差し出してくれた。ありがと、ほんと貴女、良い娘ね。


 私はコーラを頂いた。あー、美味しい。


「ドランケン姉様、果ての大陸で、ドラゴンを増やしているようなんだけど……。それに関する情報は入ってる?」


「確かに増やしてますねー。ホワイトドラゴンとブラックドラゴンを(つがい)にして、産ませてるようですね。で、その間に生まれたのが、グレイドラゴン。まんまな色ですね」


 そう言って、シーファが笑う。


 うーん、ユンカーが、この前に言っていた以上の情報はないか……、残念。


「あのさー、貴方達。残すドラゴンは二頭、そして、増やしてはダメ。そういう制限をドランケン姉様に課したんじゃなかったの? 私は、バッファ兄様にそう聞いたわよ」


「そうですね、ドラゴンを消した時、そういう通告をドランケン姉様に私達はしました。けれど、私達が姉様にしたのは、残すのは二頭、姉様自身が新たなるドラゴンを作り出すのはダメということです。禁止事項にドラゴン自身の()()()()は入っておりません」


 頭が痛くなって来た。適当な性格の私がいうのもなんだけれど、他の皆も適当過ぎる。


「何なの、そのザルな通告。意味無いじゃない」


「あの時は、仕方なかったのですよ。ドランケン姉様が可愛がっていたドラゴン達を殆ど廃棄、土に戻させたのです。こちらも、あれ以上は強く出れませんでした」


「強く出れませんでしたって、そこは強く出るべきじゃない? ドラゴンは下界生物の懲罰用には強過ぎる、貴方達もそう思ったから、廃棄を決めたのでしょ、生温いわ」


 シーファの表情が変わった、目つきが険悪になった。温厚な彼女にしては珍しいことだ。


「キャティ姉様。貴女にそんなことを言う資格はございませんよ。私達が世界を創り、治めるのに苦労している間、姉様は、お母様の隣で、ぬくぬくとしていたのですから」


 ぐさり。心が呻いた。


「ごめん……」


 私は、謝った。それを言われると返す言葉が無い。でも、シーファも謝ってくれた。


「すみません、姉様。あれはお母様の意向で、姉様の責任ではありませんでした。ただ、皆、羨ましかったのです。お母様に、隣に居続けるようにと言われたキャティ姉様が……」


 心とは、ほんと悩ましいものだ。私も、皆が羨ましかった、神である、お母様に、神としての仕事を託された皆が……。


「お母様には申し訳ないけれど、あの時のお母様の判断は、間違いだったと思うわ。私達、十三柱の間に、目に見えない亀裂が入ったもの。まあ、私のところに現れた亀裂は露骨だったけどね。ドランケン姉様は、あれ以来、口を聞いてくれなくなったわ」


「あー、ドランケン姉様は一番、お母様を慕っておりましたからね。お母様に選ばれたキャティ姉様が許せなかったのでしょう。『どうして、私がいるべき場所にあの子が!』って」


 ドランケン姉様はとても愛情深い、というか、相手に対して、大変思い入れをする。思い入れは、愛の一つの形、本来悪いことではない、でも行き過ぎると……。


 ドランケン姉様の、行き過ぎた思い入れの例を一つ上げよう。


 それはエトレーゼ。


 エトレーゼは、ドランケン姉様が、セルマという女性に、神契(しんけい)の印を与え、作らせた国だ。姉様はセルマを大層愛したそうだ、その寵愛の御蔭で、セルマは、たった一年で前王朝を倒し、新たなる王朝、エトレーゼ王朝を創建出来た。


 しかし、その余りにも早い王朝創建が仇となった。短い時間で作られた王朝故、セルマには信頼できる家臣団が育たなかった。


 『女王などに、国を治める器があるものか!』


 そのような難癖の元、王朝交代により、既得権益を奪われた者達が反乱を起こした。そして、セルマの家臣達は、彼女を守ろうとはしなかった。


 彼らは、ドランケン姉様のバックアップを受け、勢いに乗ったセルマに付き従っただけ。時流がセルマに無いと判断した彼らは、あっさりと自らの主を見放した。セルマの治世は数年もなかった。彼女は、一人の娘を残して早逝した。殺された。


 ドランケン姉様は怒り狂ったらしい。姉様は、自ら反乱者達を壊滅させた、誰一人残さず消し去った。(普通神々が、自ら手を下すことはない。代わりに他の者にやらせる)


 それでも、姉様の怒りは収まらず、姉様は、エトレーゼの男性貴族に呪いをかけた。永遠と続く理不尽な呪いを……。


 『男性などに、国を治める能力があるものか!』


 これ以来、六百有余年。エトレーゼの男性貴族は、まともな眷属の紋章を受けられなくなった。ろくな魔術が使えなくなり、子を為すための道具としてしか見られなくなった。


 エトレーゼの男性貴族達には、とばっちりも良いところだ。そんな、大昔の一部の先祖の所業など、知らんがな! と大声で叫びたいだろう。


 ごめん。うちの姉のせいで、ほんとごめん。


「ねえ、シーファ。ドランケン姉様を、なんとか止めることが出来ないかしら。このままだと、大陸が大変なことになっちゃうよ。ティーゲル兄様にでも、頼んでさー」


 ティーゲル兄様のモチーフは虎。それ故、お兄様は大変強い。シーファは勿論のこと、私など相手にはならない。


「頼むのなら、一緒に頼んでさしあげますよ。でも、ティーゲル兄様は動いてくれないでしょうね」


「どうして? 十三柱同士で争うのは避けるべきだけど、ドランケン姉様の暴走は明らかだわ。動いてくれるわよ。ティーゲル兄様が制止してくれれば……、兄様、十三柱で最強だし」


「ダメですよ。最強なのは兄様ではありません。ドランケン姉様です。お二人が、戯れに戦われたことがございますが、ティーゲル兄様、簡単にのされましたよ」


「嘘……」


 そんな、ティーゲル兄様、あんなに強いのに、同じ猫族として誇りに思っていたのに……。ティーゲル兄様がドランケン姉様に負ける、それも簡単にだなんて。そんなの嘘よ!


「キャティ姉様は『竜虎相搏つ』って言葉のイメージに惑わされているのですよ。お母様の前世の世界では、虎は現実の生き物です。それに対して竜は空想上の生き物、神にたとえられこともある生き物。竜が、空想の世界から出て地肉を得、虎と相対した時どちらが強いか……。おわかりですね」


「それじゃ、私達の誰もがドランケン姉様に勝てないってこと……?」


「そうなりますね。七柱、八柱くらいで一気にかかれば、勝てなくはないと思いますが」


「七柱、八柱……」


 お母様! もう少しパワーバランスを考えて下さいませ、十三柱の中でこんなに差をつけて、どうするんですか!


 私の疲れ切った心にさらに、絶望感が……。


「もう、帰るわ……。お邪魔したわね」


 私は下界に戻る準備をはじめました。


「キャティ姉様。お気を付けくださいましね。ドランケン姉様は、キャティ姉様を昔よりずっと、嫌っておいでですよ」


「昔より? 何でよ?」


「何でって、姉様は、お母様のところから出奔したくせに、お母様が転生なさったら、転生先の、兄弟である少年と融合なさって、傍に行かれたではないですか。私達だって呆れたくらいの行動ですよ」


「あれは、お母様への謝罪のため、そして、人になられたお母様を守るためであって……」


「たとえ、キャティ姉様的にはそうであっても、外からは、姉様が、気ままに行動してるようにしか見えません。ドランケン姉様などは、たぶん、こう思っていられますよ。ちょっと表現がきついですが……」


 ごくりと唾を飲んだ。


「キャティの奴め、なんて恥知らずな。よくもあのようなことをした後で……、出来るなら殺してやりたい」



 私はオールストレームの王宮の自分の部屋に戻って来た。今の姿は当然、ノエルの姿。寝台にゴロンと転がった。何の気力も湧いて来ない。


 僕はもう、アリス達に協力するのは止めておこうか? 


 ドランケン姉様を刺激するだけで、皆に余計迷惑がかかる……。でも、それでは完璧な丸投げだ。


 ドランケン姉様が、あのように好戦的になってしまったのは、僕のせいでもある。姉様は、お母様の傍に居たかった。でも、お母様は僕を選ばれた。悔しかっただろう、でも、なんとか自分を納得させ、ドランケン姉様は世界創世のため下界へと向かわれた。


 それなのに、僕は……。


 やはり、人任せにして良い筈がない。自分が蒔いた芽は、自分で刈り取るべきだ。



 僕は、いえ、()は決意した。



 ドランケン姉様と、きちんと向かい会いましょう。そうすることにしか道はありません。


 


 その翌日。


 エトレーゼの隣国、ザカライア王国とエトレーゼの間に戦端が開かれたとの報告が王宮になされた。


 ザカライアの騎士団が、エトレーゼ側の挑発に乗ってしまったようだ。



 私は、唇を噛みしめた。


 馬鹿なことをしてくれた。こちら側は、まだ準備が整っていない、


 全然、整っていないのに……。


シーファは、お母様コーデの影響のせいか、かなり人間的生活をしているようです。ソファーとかコーラとか。書いていて、天界がこんなので良いのか? と思ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、実は天界はすげぇ滅茶苦茶していますね。。。 ドランケンさんとか一番ぶっ壊れ強いの癖に一番激しいとはヤバ過ぎるでしょう。。。というか、エトレーゼがあんな状況に成ったのは最初から最後まで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ