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教皇コルネリオ

 昨日は到着が遅かったので、ちゃんと見れなかったが、エイスト教の総本部に隣接するメイラルフ大聖堂は、壮大な大伽藍であった。


 おっきー、でっかーい、そうごーん!


 我ながら、何たる語彙力の貧しさ。最近本読んでないな。もう少し勉強して教養をつけよう。エルシーがよく言ってる。魔術馬鹿になってはいけない、ほんとにそうだ。


 王都ノルバートにも大きな教会はあるが、相手にならない。大人と子供。いまいちイメージの湧かない方は、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂を思い浮かべて欲しい。あんな感じ、ほんと壮大で、煌びやか。


 ちなみに、私はローマなど行ったことはございません。家、貧乏やったし、享年十五歳やから、日本から出たこと無いし、殆ど関西から出えへんかった。


 くそ~ 関西最高! 関西LOVE!(自棄)


 そう言えば、最近、関西弁、大阪弁、使ってないな。はっきり言って、この西洋ファンタジー風異世界に、関西弁似合わへんねん。関西弁喋ってると孤独を感じるんや、独りぼっちの異邦人、そんな感じになるねん。関西弁スピーカー、プリース! どっかにおらへんの? 無理やな、こんな異世界におる訳ない……って、おるやん!


 コーデリア! コーデ、平行世界の私やから喋れるやんか! でも、コーデが関西弁喋ってんの聞いたことあらへん。あいつ、何で喋らへんの? 生粋の大阪育ちのくせに。あ、わかった。わかってもうた。あいつ、東京とかに行ったら、即、東京弁に直すタイプやな。平行世界の私のくせに許せんわ、裏切もんや、関西人の風上にもおいとけん奴や。今度、おおたら、言うたる。


 コーデリア! 貴女は関西人としての誇りを持っていません、関西人失格! 箕面の猿に襲われるがいいわ!


「アリス、何をぼーとしているの? 早く、教皇様のおわすマイラル宮に行きましょう。謁見の時間に遅れなどしたら大変ですよ」


「アリスティア嬢は大聖堂に見とれていただけですよ。初めて見る者は必ずそうなります」


 ノエル殿下が庇ってくれた。適切な擁護、のらねば損だ。


「ノエル殿下の仰るとおりです。ルーシャお姉様は見慣れてらっしゃるでしょうが、私は違います」


「そうね。アリスは初めてだったわね。もう少し眺めていましょうか」


「いえ、大聖堂の威容は十分堪能しました。参りましょう」


 ルーシャお姉様は枢機卿の娘であるし、聖女として高名でもあったので、十二聖国には何度も訪れているし、教皇猊下とも懇意にしてられる。それ故、今回の訪問では副特使に抜擢された。陛下の名代である特使はもちろんノエル殿下。私は、まあ、おまけ。


『世界には、色々な国がある。少しずつ見ておきなさい』


 とのこと。陛下は、ほんと気配りの人。感心するし、感謝もするけれど、もう少し大雑把な方が良いと思う。絶対気疲れするよ、早く老けてしまう。



 ノエル殿下が、目録を読み上げておられる。


「……絹反物 五十反。アルマイト絨毯 十巻。マイスブール製銀食器 三十セット、魔術薬 二百錠……オルライト金貨 三百枚、同銀貨 千枚」


 うーむ、普通の伯爵家の年間予算を軽く超えてる。宗教が儲かるってほんとだね。


「エイスト教、及び教会の発展のため、献上させて頂きます。どうぞ、お納め下さいませ」


「オールストレームのエイスト教に対する貢献は、真に素晴らしきもの。神々もさぞ、御満足なことであろう。礼を申す。アレグザンター殿には、コルネリオが大変感謝しておったとお伝え下され」


「勿体なきお言葉。しかとお伝えします、猊下」


 こうして、教皇猊下へのお礼が済み、エトレーゼへの対戦打診も、猊下はすんなりと了承してくれた。ほんと謁見はスムーズに進んだ。というか進みすぎ。まるで流れ作業のよう、そのせいか、今日の教皇猊下は心ここにあらずの感があった。


 謁見がひと段落すると、コルネリオ猊下が申された。


「司祭、枢密の間を使う」


 ルーシャお姉様も、ノエル殿下も、私も、三人とも、ビクッとなった。


 枢密の間、文字通り、密談用の部屋である。猊下には何か大切な話があるのだろうか? とんでもない話でないことを祈ろう。今は、対エトレーゼで手一杯。これ以上、揉め事は抱えたくない。特に、神々関連とか、勘弁! ほんとに、ほんと。


「昨晩、私の部屋に、一柱の神が降臨なされた」


 もう、嫌。この世界の神々は降臨し過ぎ、また、神なの~。


 教皇猊下はルーシャお姉様だけに話したかったようだが、ルーシャお姉様が、私達を「信用のおける者達です。大丈夫です」と請け合ってくれたので、ノエル殿下と私も、猊下のお話を聞くことが出来た。


「私は、神々にお会いしたのは初めてだが、本当に圧倒的な存在であられた、押し寄せてくる神圧に、なすすべもなく、跪くだけ。あの時ほど、己の存在が卑小に思えたことはない」


「猊下、それは私とて同じでございます。神々にとって私達は、海辺にある砂粒のようなもの、仕方ございません」


 ルーシャお姉様が、憔悴気味の猊下を御慰めした。


 コルネリオ猊下は、六十半ばくらい。この世界ではかなりの年配である。茶色の髪に、灰色の目。細面の学究肌タイプ、あまり宗教家には見えない。


「まあ、そうであるな。その辺りはわかっておるつもりだ。だが、その一柱が未知の神、そして、私に与えた使命がな……」


 私達三人は、猊下の思わぬ言葉にざわついた。

 未知の神? まさか……。


 猊下は昨晩のことを語ってくれた。



「貴女様は……」


「我の名はキャティ、十三番目の神」


「じゅ、十三番目!」


神々(われら)は本来、十二柱ではありません。我を入れて十三柱なのです。教皇コルネリオよ、よく聞きなさい」


「…… 何でございましょう」


「我は、これから眷属を増やしてゆきます、これにより、既存の十二柱を信仰するエイスト教との間に、大きな不整合が生じるでしょう。その不整合を解消するため、エイスト教を新しくしなさい。我をいれた十三柱のためのものに作り直すのです」


「キャティ神よ、恐れながら申し上げます。エイスト教が始まって一千年以上、教義はガチガチに固まっております。私、一教皇如きが簡単に変えれるものではございません。私には到底無理でございます」


「そのようなことはわかっています。ですが、努力なさい。我は努力しないものは嫌いです。これは神命です。そなたは受けるしかないのです」


「………… 拝命いたします」


「宜しい。では、これから、そなたも我の眷属です。我の命令は絶対、よく覚えておきなさい」


 コルネリオ猊下の昨晩の記憶はここで終わっており、朝、起きてみると左手の手首に見たことも無い紋章が刻まれていたとのことだ。


 私はいてもたってもいられず、猊下に頼んだ。


「猊下、失礼なのは重々承知です。その新たに刻まれたという未知の紋章を、見せていただけませんか。お願いでございます」


「ああ、別に良いが」


 猊下はあっさり見せてくれた。それは同じだった。私の右手に刻まれている紋章と同じ、キャティ神の眷属の紋章だった。


「キャティ神とは本当の神なのであろうか? もし、そうでなかったら私はどうしたら……」


 コルネリオ猊下は途方にくれていた。当たり前だ。突然、見も知らぬ者が現われ、


 私は神、命令を与えます、眷属にします。


 では、やってられない。でも、本物。キャティ神は本当に神々の一柱。


 私はお姉様に目配せをした。お姉様は無言で頷いてくれる。最近のルーシャお姉様とはアイコンタクトで大概のことは伝わる。本当の姉妹でも、なかなかここまでには至れない。嬉しい。


「猊下、ご安心下さい。キャティ神は偽物なんかではございません。本物の神々でございます」


 ルーシャお姉様は聖女として、神々にもっとも近き人と崇められている。その聖女が、本物と言ってくれている。これは心強い、心強い筈だ。


「アリスティア、あなたのを猊下に見せてあげて」 


 私は頷き、ブレスレットを外しにかかる。


「猊下、これは家族以外に見せたことはございません。どうぞ、ご覧下さいませ」


 右手首の裏を、猊下の前に差し出した。


「同じ、同じだな。私の左手に新たに刻まれた紋章を全く同じだ」


「そうです。キャティ神の紋章です。私の双子の妹、エルシミリアも同じ紋章です。猊下と、私、そして私の妹は、キャティ神の眷属、猊下は一人ではございません。ご安心下さいませ」


 私は精一杯、教皇猊下を勇気づけようとした。これから、対エトレーゼで大変なのに、仲介役の教皇猊下が、混乱されているような状態は避けたい。猊下にはなんとしても、腰の据わった揺るぎない状態でいて貰わなければ!


「そうか、ゲインズブラントの双珠、神々の巫女、と称えられるそなたらもか。良かった、ほんとに良かった。安心したよ」


 コルネリオ教皇猊下は、本当に喜んでいた。


 猊下は一神学生から、教義の研究で頭角を現し、ついには教皇にまで上り詰めて御方だ。それなのに、今までの研究や業績を崩壊させるかもしれない未知の神が、現われた。そして、勝手に眷属にされ、無茶な命令を賜ってしまった。


 こんなの絶望ものである。人生終わったと思ってしまうだろう、それでも仲間が、私とエルシミリアのような小娘でも仲間がいると思うと、どんなに救われることだろう。人はそんなに強くない。たった一人で、果てしない荒野に突き進むなんてことは出来はしない。ほんとに一人で出来たとしたら、その人は英雄。


 尊敬はする、素晴らしいと思う。だけど親近感は持てない、近くにいたいとは思わない。


 こうして、コルネリオ教皇猊下との謁見は終わった。

 

「コルネリオ猊下、私達は同じ神の眷属。何かお困りのことがあればご連絡下さいませ。微力ながら、妹ともども、精一杯、協力させて頂きます」


 私達はマイラル宮を後にした。


 私は帰りの馬車の中で、キャティ神のことを考えていた。教皇猊下によれば、キャティ神は眷属を増やす意向を示していたという。それならば、私の以前からの考え、「エトレーゼの男性貴族に、二つ目の紋章を!」に賛同してもらえる可能性は高い。結構いけそうだ。


 しかし、これは後で良い。エメラインの姉達を排除してからで良い話だ。今は、彼女達を退け、クローディア陛下にエトレーゼを再統治してもらう、そのことに集中しよう。


 私達がオールストレームに戻って五日後。

 

 十二聖国から、エトレーゼが対戦を受諾したとの連絡が届き、対戦の詳細も猊下の仲裁のもと、決定した。


 対戦日はバッファ月、三十日。

 場所はオークヘルム平原。オールストレームとエトレーゼの中間地点。


教義の変更は難しいでしょうね。うーん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっ、確かにこの世界の神々は降臨し過ぎの気がしますね。而も大体も私欲まみれの気がしますw 大きな教義の変更は難しいだと思います、中々の難題が押し付かれましたね。
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