第08話 ひと休みして・・・
僕は居合の構えをとり、アシッドがやってくるのを待った。
そして、アシッドの剣が僕の体に届くその瞬間、僕の剣の切っ先が彼の剣刃を捉え、根元から断ち切った。
いや、断ち切ろうとした。
だが、振り抜きが強すぎて狙いが定まらず、アシッドの右手首に当たり真横に弾き飛ばしてしまったのだ。
結果、アシッドは予想外の角度に飛んでいき、反応できなかった騎士をひとり道連れにして、壁を破壊して隣の部屋にまで行ってしまった。
やばい、理由がわからない。
加減を間違えた?いや、僕に限ってそれはない。
今まで何百万と刀を振ってきた僕が、初めて聞いた轟音ともいえるほどの剣の風切り音。
おかしい。何か変な力が……変な力?
もしかして……。
ステータスオープン!
***
ケイ・サガラ(異世界人)
種族:人族 性別:男 年齢:16
ジョブ:勇者(召喚)
魔法属性:風
スキル:世界共通言語 神眼 スリ[Lv.1] 身体強化[Lv.2] 武術[Lv.1] 剣術[Lv.2] 回避[Lv.1] 居合[Lv.1]
称号:私立開豊高校一年生
***
やっぱり、スキルのせいみたいだ。
レベル付きのスキルがいくつか増えていて、魔法属性も風になっている。
これは──無意識に身体強化とか使ってたということだろうか?
スキルってこんな簡単に取れるものなのだろうか。
……ん?スリってなに?
予想だけど、他のスキルや魔法属性はこちらの世界で経験したか見たかして付いたんだと思う。
ていうか、それしか思いつかない。
なら僕、いつスッた?財布でも盗んだっけ?
ん~ダメだ。わかんない。まぁいっか!
「え、えっと。勝者、勇者ケイ!」
メリアの戸惑いを含んだ決闘終了の声が響く。
僕は、ブレザーを羽織ってから、メリアにぼろぼろになってしまった剣を返す。
「ごめんね、メリアさん。もうこれダメだよね」
「ううん。君が無事でよかったわ」
そう言って、僕の頭を撫でてくるメリア。
あれ?かなり子供扱いされてる?
(あぁ、本当かわいいわ!このまま持ち帰って、結婚しちゃいたいぐらい。強くてこんなに可愛いなら、リーザ様たちがしゃしゃり出てくるわね。なら最悪、側室でも)
……聞かなかったことにしよう。そうしよう。
それから僕は、フィーネからさんざん嫌味を言われた。
曰く、壁の修理代がほにゃらら、床の修理代がほにゃららと。
後者は僕じゃないです。
ていうか、決闘を提案したアシッドが全部悪い!
僕がそう言った所、フィーネは大層ご機嫌に「そうね!そうよね!彼に全部出してもらいましょう!」とか言っていた。
アシッド、どんまい……。
「それで、僕は自由にしていいの?」
「はぁ、そうねぇ。アシッドに勝っちゃうとは思わなかったわ。まぁ、いいわ!好きにおし!リーガン様には私からも言っておきましょう。あまり意味ない気もしますけれど」
「リーガン様って皇帝陛下の名前?」
「あら、リーガン様には様付けなのね。そうよ、アシッドより頭が良くてアシッドよりも格好良くてアシッドよりも戦闘好きですわ」
この人、アシッドにそんなに恨みがあるんだろうか。
旦那が大好きなだけかな?
ていうか、意味ないって言っちゃってるよ。
「フィーネさんが言ったのをなぞっただけだよ。ところで、この世界ってお風呂とかあるの?」
「お風呂ですの?もちろんありますわ!淑女には大切ですもの!平民では余程の金持ちぐらいでしょうけど。あぁ、高級宿ならあるところもありますわね」
「そっか。じゃあ、もう遅いし風呂入りたいな。ここに一泊してもいいよね?」
「あら。探し人というのはいいんですの?」
「よくはないけど……。疲れてるときはしっかり休憩しないとね。それに、環境がガラッと変わったからゆっくりしてストレスを溜めないようにしないと」
「そう、しっかりしてるのね。では、メイドに部屋まで案内させましょう。メリア!メイドを連れてきてくださる?」
「その必要はございません、フィーネ様」
メリアが返事するよりも早く、そう言ってこちらにやってくるメイド服を着た女性。
銀髪のショートカットで、ピンク色のメイドカチューシャを着けている美少女。
彼女は、上品で綺麗な所作で素早く近付いてくる。
ふむ、本物は違うね。
あのオタクの町に沸いている似非メイドとは全然違う。
これは、阿久斗が見たら興奮してうるさそうだ。
他にも、騎士やメイドがドアから入ってきている。
どうやら、先程の爆音を聞いて駆けつけて、中にいた騎士から経緯を聞いているようだ。
「あら、エンリ。あなた、リーザのお世話はいいの?」
「はい。そのリーザ様から、勇者様を連れてくるようにと仰せつかっているのです」
「あの子、勇者を自分の配下にしたいのね。でも……あの子には無理ね」
フィーネは、「でも」のあとに横目でチラッと僕を見てきた。
配下?なにそれ、おいしいの?
リーザってさっきも聞いたね。だれだろ。
「そのようですね。この場にいた騎士から経緯は聞きました。あのアシッド様を倒す程の勇者様となると、陛下が黙ってない気がしますが」
「それは後で私とアシッドが話しますわ。エンリは彼を客室まで案内してくださる?」
「かしこまりました。では、勇者様行きましょう」
皇宮の長い廊下を、僕はエンリという名のメイドさんの後ろを歩いていた。
メイドのステータスは騎士とはまた違うのかな?
ちょっと失礼して。
***
エンリ
種族:人族 性別:女 年齢:18
ジョブ:使用人
魔法属性:水
スキル:所作[Lv.3] 料理[Lv.3] 家事[Lv.3] 武術[Lv.1]
称号:バーサス帝国皇族専属メイド
***
僕とふたつしか違わないの?めっちゃ大人びている。
それに、名字がない。
貴族とかじゃないと、ベイなんちゃらってのが無いのかもね。
あと、武術スキルとかもある。
戦闘メイドってやつだろうか。
さっきの部屋にいた騎士たちも[Lv.1]が多かったから、スキル取得するのって大変なのかもね。
「勇者様。こちらのお部屋になります。どうぞお入りください」
お、着いたみたいだね。
部屋が多すぎて迷いそうだよ。
「うん。ありがとね」
僕はその部屋に入ると、少し驚いた。
大きな窓が付いており、そこからは美しい庭園が見渡せる。
綺麗な花たちが規則正しく咲いていて、それは一種の芸術のように日の光を浴びて輝いていた。
部屋の中には、おしゃれな家具が並んでいた。
ベッドにクローゼット、机の上に置いてあるランプ。
小さいトイレまで完備していた。
思ったより結構趣味が良くて、寛げそうだった。
「そこのクローゼットの中に着替えが入っております。どうぞご自由にお使い下さい。では、お風呂の準備ができましたらお呼び致しますので、それまでお寛ぎ下さい」
そう言うと、エンリは部屋から退室した。
僕はさっそく着替えることにして、クローゼットの中を漁る。
白と茶色のシャツに、黒の柔らかい素材でできているズボンを履く。
結構動き易くていいね。
軽くストレッチしたあと、ベッドにダイブした。
横になって寛ぎつつ、これからどうしようかと考えていると、目が開けずらくなっていき、気づいたら寝入ってしまっていた。
「勇者様。勇者様……起きてください」
そのよく透き通るような女性の声を目覚ましに僕は目を覚ました。
自分で思っていたより疲れていたのかもしれない。
一応、悪意にはどんなときでも反応できるように特訓していたので、敵地かもしれない場所で寝ていても大丈夫ではあるのだけど。
僕はまだ眠い目を擦りながら、返事をする。
「あ、ごめん。寝るつもりはなかったんだけどね」
僕がようやく目を開けようとしたとき、予想外の声が僕の耳に届く。
「ほぉ、お前さんが今代の勇者か。あまり強そうには見えんが、アシッドを倒したというのは本当か?」
えっと、誰?
***
リーガン・ベイ・バーサス・エンペラー
種族:人族 性別:男 年齢:45
ジョブ:魔剣士
魔法属性:火 水 風 雷
スキル:所作[Lv.1] 身体強化[Lv.4] 剣術[Lv.4] 盾術[Lv.2] 武術[Lv.3] 威圧[Lv.2] 槍術[Lv.2] 騎馬[Lv.4] 指揮[Lv.5] 詠唱省略 魔力プール[Lv.2] 速読[Lv.2] カリスマ 善悪の魔眼
称号:バーサス帝国第12代皇帝
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まじか…………。
[スリ]スキルの取得は、カイルから首輪を気付かれずに奪ったためです。