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第07話 決闘

 

 僕とアシッドは少し間を開けて、部屋の中央で対峙していた。


「剣とか鎧とか貸してやるぞ。どうする?」

「──刀はないの?」

「刀?そんなもん使えるのか?ありゃ、剣に比べて圧倒的に絶対数が少ねえからな、使い手も少ねえし、皇宮にはないぜ。帝都にいる鍛冶師に頼めば作ってくれるかもしれねえが、今は無理だな」


 そっか。じゃあ、ここを出たら刀を作ってもらわないと。

 それ以前にお金を稼ぐ方法を見つけないとなんだけどね。

 両刃の剣は使ったことないけど、まぁなんとかなるでしょ。


「じゃあ、剣を貸してもらえる?」

「剣だな。おい!だれか、坊主に剣を貸してやれ!」


 アシッドがそう言うと、壁際に立っていたひとりの女騎士がこちらにやってくる。

 燃えるような赤い髪に、凛とした力強い雰囲気を纏っているがその動きは優雅で綺麗だ。

 彼女は、僕の前まで来ると鞘から剣をゆっくりと抜き、刃の部分を持って差し出してくる。


「はい。これは安物だから好きに使ってね」


 優しげな口調でそう言ってくる女騎士さん。

 どう見ても安そうには見えないけど。


(あの戦闘バカと決闘だなんて……いくらこの子が強いからって、この可愛い顔に傷でもついたらどうするのよ。もしものときの為にも、回復魔法を待機させとかないと)


 僕はもう16なんだけどな。

 でも、凄く優しい。こんな人もいるんだね。

 僕は少し気になったので、神眼を使った。


 ***

 メリア・ベイ・アースナー

 種族:人族 性別:女 年齢:22

 ジョブ:騎士

 魔法属性:火 光

 スキル:身体強化[Lv.2] 剣術[Lv.2] 槍術[Lv.2] 回避[Lv.2] 騎馬[Lv.1] 所作[Lv.2] 料理[Lv.1]

 称号:バーサス帝国伯爵家長女 バーサス帝国近衛騎士団副団長

 ***


 今まで見た中では、スキルが一番多いね。

 料理スキルとかもあるのか。

 …………おいしいのかな、手料理。

 茜はあまり料理上手くなかったからなぁ、としみじみ思い出していると。


「おい!いつまでメリアを見てんだ!さっさと始めるぞ!」


 あぁ、こういう人の特徴──せっかち。

 よし、なんとなくぶっ飛ばす。


「決闘のルールは?」


「実剣を使用するから基本的に寸止めだ。気絶したり降参したら当然負け。あと俺は魔法を使わない、フェアじゃねえからな。まぁ、スキルからして既にフェアじゃねんだが、坊主のさっきの動きはなかなかだったから大丈夫だろ。それから……風流魔法ふうりゅうまほう!ウィンドサークル!」


 アシッドが最後の言葉を発すると、僕とアシッドを中心に半径10mぐらいの円状に風の壁ができた。

 それは、ゴーゴーと激しい音を立てて、横に流れていく。

 おぉー、これが魔法か。凄いね!

 僕はなんで使えないんだろう……。



 少しして、アシッドが手を払う動きをすると、風の壁がかき消えた。

 すると、床に半径10m近くの円ができていた。

 風の力で床に傷を付けたのか。

 これ──大丈夫なのかな?


「よし、上手くいった!この円の外に出ても負けだ!いいな?」

「うん、わかった。それでいいよ」

「そんじゃ、メリア!審判を頼む!」


「え!?わ、わかりました」


 少し驚いたみたいだけど、メリアは円の外で僕とアシッドの間に立つと、その綺麗な唇を開く。


「なぜ私がこんなちゃば、ンン!では、決闘を始めます。ルールは先ほどアシッド様がおっしゃった通りです。もし危険と判断した場合は我々騎士が介入させて頂きます。双方、よろしいですね?」


「ああ!それでいい」

「それで大丈夫だよ」


 茶番って言わなかった?今。

 まぁ、いいんだけどね。

 それより、ちょっとワクワクしてきちゃった。

 初めての決闘である。



「では、始め!」


 メリアの凛とした声が部屋中に響いた。










 メリアの始めの合図が聞こえても、ふたりは動かなかった。


 日本で達人級の人たちの練習相手をしてきた僕からすれば、アシッドには所々隙が伺える。

 身体強化のレベルが高いと生半可な技は通じないだろうし、スキルの弊害かな?


 そう言えばこの人、盾術スキルがあるのに盾を持っていない。

 頑丈そうな銀色のプレートアーマーに、業物だとわかる剣を右手に持っているだけだった。


(開始と同時に突っ込んでくるかと思ったんだが……こねぇならこっちから行くか!)


 アシッドの心の声を捉えたと同時に彼が動いた。

 床を蹴って一歩目でトップスピードに入り、剣を両手で持って上段から振り下ろしてくる。

 僕も剣を両手に持って、それを敢えて受けてみた。


 ──ガギン!!


 剣と剣が交差する甲高い音が部屋中に響いた。


 それから何度か打ち合うも劣勢気味だ。

 なるほど、これがスキルの効果か。

 一撃一撃が鉛のように重く、隙をつかせない絶妙な動きでもって、僕の剣術と互角で張り合ってくる。


 分が悪いと感じた僕は、アシッドの剣を逸らすと追撃を入れずに、バックステップで後ろへ下がり、体勢を立て直す。


(この坊主、凄えな。本当に召喚したての勇者か?念のため最初から身体強化を全力で掛けたんだが、こんなに防がれるとは思わなかったぜ)


 ──なんかおかしい。

 僕は、力自体はそこまで強くない。

 にもかかわらず、これほどのパワータイプとまともに打ち合えているというのは……いったい。

 だが、数手打ち合っただけで、刃こぼれしてきている。

 両刃の剣にも慣れたし、そろそろ本気を出さないと剣が先に駄目になる。


 僕は、制服のブレザーを脱ぐと円の外に放り投げる。

 ブレザーが舞う動きも計算して剣を交わしていたので傷はついていない。


 そして、剣の柄から左手を離すと、左腰にある鞘に剣をしまう。

 もちろん鞘などはない。

 そういう"動き"ということだ。


 左手で刃を支え、右手で柄を握り腰を少し捻る。

 所謂、居合時の刀を振り抜く構えだ。

 そして、僕は静かになった部屋の真ん中で両の瞳を閉じる。


(なんだその構えは。しかも、目を開けてねえ。何をする気なのかしらんがねじ伏せてやる!)


 アシッドは、剣の先端を前に向けるとそれを自分の顔の横に水平に持っていき、柄を引いて突きの構えをとる。


(スピードを利用して敵の体にぶっ刺す一撃必殺の技だが、反応しなければ寸止めてやるよ)


 周りの騎士たちは、お互いに構えをとったまま動かないふたりの剣士を固唾を飲んで見守っていた。



 先に動いたのは、やはりアシッドだった。

 彼は何かを呟くと、一瞬で相手(僕)との距離をゼロにする。


 先程よりも数倍は速い。

 スピードを利用して剣の柄を押し出し、目の前の人物の体を貫こうとする。

 この場にいる誰もが、若き勇者の敗北を確信した。

 ただ、ひとりを除いて………。








 ふたりの決闘を固唾を飲んで見守っていたフィーネや騎士たちは、これでもかと目を見開いた。


 そこには──剣を振り抜いたままの体勢で唖然としている黒髪の勇者。

 対するアシッドは、騎士をひとり道連れにし、壁を破壊して隣の部屋まで吹き飛んでいた。









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