第05話 神眼のスキル
年始は休みなので2日連続です。
僕は気がつくと、だだっ広い部屋にいた。
天井にはいくつものシャンデリアが部屋の中を明るく照らし、床には幾何学模様のアニメ等で見る、魔法陣のようなものが描かれている。
窓などはなく、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
そして左右の壁際には、腰に剣を携えた騎士風の男女がずらっと並んでいる。
正面の一段高くなっている所には、華美な椅子に座ってこっちを見下ろしている、赤みがかったブロンドの美女がいる。
この女性の斜め後ろには、豪華なプレートアーマーを着た男が控え、鋭い眼光で正面を見据えていた。
この人が一番強そうだ。
その段差の前には、灰色のローブを着た老齢の男がいる。
プレートアーマーの男同様に鋭い眼光で、僕を無遠慮にじろじろと見てくる。
召喚した勇者がどういう人物か見極めたいのかもしれない。
そうして周りを一通り確認した僕は、異世界に来たんだと実感した。
その直後、僕が今の状況を知覚するのを待っていたのか、椅子に座っている女性が口を開いた。
「ようこそバーサス帝国へ、勇者殿。私はバーサス帝国皇后、フィーネ・ベイ・バーサスですわ」
詫びも無しにそう自己紹介してくる女性──フィーネ。
皇后ということは、皇帝の正妻を意味する。
この場では、一番偉いということであろう。
「僕は慧、相良慧。よろしくね!」
僕が軽い調子でそう挨拶すると、左右にいる騎士たちがざわつき始める。
「凄いな、さすが勇者だ。怖いものしらずか?」
「フィーネ様に対してあの態度。俺たちだったら首が飛ぶぞ」
「かわいい顔して、凄いわね。度胸だけは一級品だわ」
フィーネも少し眉根を寄せている。
僕の話し方は昔からだし、特に直すつもりもない。
それに、違う世界から勝手に喚んでおいて、第一声が「ようこそ」というのは、いささかふざけている。
まぁ、おかげで茜がいる世界に来れたから感謝もしているけど。
それから、フィーネは騎士たちを静かにさせると、前に佇むローブの男に話しかけた。
「ずいぶん生意気ね。カイル、この勇者殿の力はいかよう?」
「はい。私の鑑定で見えたスキルは、"世界共通言語"のみですな」
「え?どういうことかしら?勇者殿には女神様よりあらかじめ言語以外のスキルをひとつ授かっているはずですのに」
「そのはずですな。なぜでしょうか」
なにやらふたりで話し始めてしまった。
スキルか……。
そういえば、具体的にどんなスキルか教えてもらってなかった。
茜と会える喜びですっかり忘れていたよ。
自分でスキルを確認する方法はないんだろうか?
僕は以前聞いた話しを思い出して、それを試してみることにした。
ステータスオープン!
***
ケイ・サガラ(異世界人)
種族:人族 性別:男 年齢:16
ジョブ:勇者(召喚)
魔法属性:なし
スキル:世界共通言語 神眼
称号:私立開豊高校一年生
***
心で念じてみると、脳内にウィンドウのように自身のステータスが表示された。
思いもよらぬところで、阿久斗の情報が役に立った。
あぁ、阿久斗というのはオタクの友人の名前。
ラノベやアニメ、ゲーム等の知識が凄く、自身も有名なラノベ作家らしい。
あいつ元気かな……いや、今はいいか。
ゲームとかでよくあるHPとかMPはないらしい。
少し残念だが、それよりも気になることがある。
向こうの世界のままになっている称号。
これ変更できないのかな?……できないようだ。
それから、この"神眼"っていうのがアレイラがくれたスキルで間違いない。
さらに詳しく見れないかなと、"神眼"の文字に意識を向けると──。
***
対象:神眼
説明:鑑定系最上位スキル。神からの直接授与以外では得られないスキル。ありとあらゆる生物や物事を見抜く。また、下位の鑑定系スキルではこのスキルは見抜けない。
統合スキル:読心 遠視 透視 夜目
***
案の定、詳しく出た。
何か思ってたのと少し違う気がするけど、便利なのには変わりない。
僕は、心の中でアレイラに感謝した。
それから、ローブの男──カイルが鑑定で見れなかったのはこの効果のようだ。
一通り、スキルを確認してみた。
透視スキルはやっぱりというか服が透けて見えた。
透視スキルを使ったまま女性騎士を見てみた。
意外と着やせするタイプでなかなか大きく、ああいや、なんでもないです。
訝しげに見られてしまった。ごめんなさい~。
しかも、何も考えずに見ると体内まで覗けてしまう。
普段このスキルでは人を見ないようにしないと。
覗きなんてしないからね!絶対だよっ、茜!
それから読心スキルというのがかなり使えるということがわかった。
みんなの心の声がだだ漏れだった。
意識を向けないと心の声だらけで騒がしかったので、ひとりひとりに使うように心がけた。
遠視スキルもかなり使える。
部屋の中は全てよく見えるので、透視スキルと併用してみた。
すると、壁をすり抜けて巨大な中庭が見渡せた。
そこには、優雅にお茶をしている貴族風の女性たちが見えた。
その先には、巨大な鉄壁があり要塞のようにこの建物を守っているのだとわかる。
さらにすり抜けて見ると、西洋風の街並みが広がっていた。
見てるとどこまでもいってしまうので、スキルを解除する。
最大距離がどのくらいなのか謎だね。
夜目スキルは、今は特に変化がなかった。
まぁ、スキル名からして夜とか暗いところで効果があるんだと思う。
スキルの実験中にもふたりの会話には耳をすませていたがそれがようやく終わりそうだ。
「とりあえず、ジョブは勇者なのね?女神様から与えられる最初のスキルがなかったのは痛いけれど、鍛練をしっかりすれば常人よりもスキルの取得は早いはずですわね?」
「はっ!その通りですな!」
「でしたら、すぐに例のものをつけてさしあげて」
「かしこまりました」
フィーネとの会話を終えたカイルは、懐から首輪のようなものを取り出した。
「勇者殿。これはバーサス帝国の勇者を示す首輪です。これを着けますな」
カイルは無骨なそれを僕の首にはめようとしてくる。
思いっきり怪しく感じた僕は、さっそく神眼を発動させる。
***
対象:隷属の首輪
説明:装着者の行動を縛る魔法の首輪。装着させた者には絶対服従。装着させた者の命令で首輪を縮小させることが可能。外すには、装着させた者の意思あるいは隷属解除専用の闇魔法"リリース"が必要。装置させた者が死ぬと、一番近くにいる者に権利が譲渡される。
***
まぁ、こんなことだろうとは思ったよ。
読心スキルを使わなくてもわかるね。
説明もせずに首輪をつけて、バーサス帝国に逆らえないようにするということかな。
"リリース"とかいう魔法が使えればわざと着けられるのもありだけどね。
僕は魔法属性がなかったからなぁ。
少しムッとした僕は、素早くカイルの手から首輪を奪うとそれを着けてさしあげた。
「なっ!?」
カイルの驚いた声が部屋に木霊した。