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第40話 スタンピード

主人公は少しお休みです。

(いや、僕は現在進行形で略奪旅団にお仕置きするところだよ)

 

 時を遡ること2日前、ここは暗黒龍が散ったとされる場所。


 そこに、ひとつの黒い人影があった。


 顔は無くて(、、、)判別できないが、見る者が見れば恐れおののく程の雰囲気を、衣のように纏っている。


 その人物は、さっきからこの辺りを行ったり来たりしていた。

 何かを探しているようにも見える。


「ふむう。やはりあの暴君(、、)が何者かに倒されたというアンネスの読みは正しかったかあ」


 そう呟いた声は男のものだった。


 その男は、辺りに微かに漂っている魔力の残滓を知覚する。

 ここで、膨大な魔力の衝突が起こったことは間違いなかった。


 川の流れのように通じている魔力の残滓に沿って進んでいくと、途中で切れている場所を発見した。


 地面には、焦げた葉や木片が敷かれており、ここで火を焚いたと思われる痕跡があった。


「ふむう。暴君を倒したあと、こんなところで一夜でも明かしたのかあ……」


 そして、男が進んできた方角は北。

 この先には──レイザード王国の商業都市、ラメアがあった。






 ◆◆◆◆◆



 時刻は17時過ぎ。

 陽が徐々に落ち始め、仕事を終えて帰宅してくる人で溢れる夕方の時間帯。

 大通りでは、さらに賑わいを見せ始めたこの街に、最悪が静かに押し寄せていた。



 それに最初に気付いたのは、南門の端に立っている(やぐら)で見張りをしていたひとりの衛兵だった。


「お、おい。なんだあれは」

「あ?何がだ?」

「あれだよ。何かが迫ってきてる」

「……たしかに、なんか来てるな。どっかの騎士団か?」

「い、いや。ありゃあ………」

「「「魔物の群れじゃねぇかッ!!」」」



 その後すぐに、街中に警報が鳴り響く。

 ラメアでは初めての、魔物集団暴走(スタンピード)の報せだった。


 時を同じくして、北門でも同様の騒ぎが起こる。

 ラメアの街は、魔物の群れに完全に挟まれた形で、追い込まれていた。


 街中では、至るところで騒ぎが起き、収拾がつかなくなっている。

 当然だ。初めてのスタンピードで録な対策もされていない。

 そこまで平和ボケしているわけではないが、ここまで大きな事態にはあまり免疫がなかったのだ。


 だが、冒険者は違う。

 彼らは、色々な街や村を渡り歩き、それなりに場数を踏んでいる者たちだ。


 判断力が違う。


 実際に迫ってくる魔物の群れを見たり、人伝に聞いたりして情報を取得し、すぐに西門か東門から街を去る者。

 この街の為にと、冒険者ギルドへ赴き、発注されるであろう緊急依頼を受けにいく勇敢な者と、おおよそこの2パターンに別れた。




 冒険者ギルド・ラメア支部───。


 現在、スタンピードに対するギルド側の判断を聞きに訪れた冒険者でごった返しているギルドに、ひとりの男が入ってきた。


 黒いスーツを着て、両腰に一本ずつ剣を差している若い男だった。

 彼は、歩く速度を一切緩めることなく、人垣をスルスルとすり抜け、受付嬢の前に行く。


 突然目の前に現れた黒スーツの男に驚きながらも、受付嬢は笑顔を作り「只今、依頼の受付・報告等は停止させて頂いております」と言った。

 それに対して男は、懐から"魔法杖が描かれている金糸の紋章"を取り出した。

 ギルドカードよりも一回り大きいそれは、光に反射して輝いていた。


 それを見た受付嬢は、言葉を失う。

 それほどに衝撃的なものだったのだ。


「私の名は、ルーブル。本来は近衛騎士団に身を置く騎士だが、今回は国王陛下の名代として参った。ギルドマスターに取り次ぎをお願いする」


 その男の持つ紋章とは、レイザード王国王家の紋章だった。



 ギルドの応接室に通されたルーブルは、騎士のときの癖で立ったまま、ギルドマスターを待つ。


 数分後、ギルドマスターであるフェデラーが入室してくる。

 彼は、ソファにドカッと座ると、一呼吸置いてから話し出した。


「お前さんが、国王陛下の名代か?随分若いな。それで、このくそ忙しいときに何の用だ?まさか、国王陛下よりのお言葉があるわけでもないだろ?それにしちゃあ早すぎる。大方、この街の領主の件で来たんだろ?だが、今のタイミングで俺のところに来る意味がわからねぇ。どういうつもりだ?」


 余程忙しいのだろう。

 フェデラーは眼光鋭くルーブルを見据えて、早口で用件を問い質す。


 本来、国王陛下の名代に対する言葉遣いとしては失格だが、それが許されるのが、この緊急事態×冒険者ギルドマスターの肩書きであった。

 ルーブルはそれを理解しているのか、表情を僅かも変えることなくポーカーフェイスを張り付けて口を開いた。


「……ルーブルという。たしかに、ラメアに来たのは、領主ガバッド子爵の後任の件だ。その件は、この事態が片付いてから、しっかり国王陛下の名代としての務めを果たすつもりだ」

「ならばなぜだ」

「時間がないから手短に作戦を伝えるが、冒険者勢には南から来る魔物の対応をお願いする」

「?理由を言え。なぜでしゃばってくるッ」

「それこそ質問の意味がわからないな。私は、レイザード王国近衛騎士団団長だぞ?」

「───なッッ!!」


 ルーブルの言葉に、フェデラーは目を丸くして驚く。

 あまりにも予想外だった為だ。


「そ、その若さでか」

「対魔物とはいえ、冒険者だけに任せておけると思うか?今この街には騎士団がいない。私が出るのは至極当然の成り行きだ」


 ルーブルの言うように、今この街には騎士団がほとんどいない。

 ガバッドの護衛として、出ていった為だ。

 さらに、そのガバッドも騎士たちも行方不明らしく、捜索しているが発見には至っていない。

 ザブンとかいう奴隷商人の犯罪に加担していたという証拠も出てきている為、お家はお取り潰しが確定している。



 フェデラーは納得し、話しを戻す。


「それで、南を俺たちに任せると言ったが、北はどうする」

「北は、私が滅殺する」

「!?ひとりでか?今の近衛騎士団団長様は、それほどにお強いのか?」


 フェデラーは皮肉げに、様を付けて聞く。


 すると、終始無表情だったルーブルが僅かに笑った。

 不敵に。


「どうだろうな。やれる自信はあるが、もしかしたら助っ人を頼むかもしれない」

「助っ人だと?」

「あぁ。まぁ、そういうわけで北は心配ない。南から迫る魔物を冒険者の諸君で当たってくれ」

「……わかった。南は任せておけ」


 こうして、北南魔物掃討作戦が始動する。







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