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第33話 ゴブリン掃除

 

 リオラという狐獣人の少女を助ける為に、サーシャとふたりで件の洞窟の前に来ていた。


「ここが例の洞窟?」

「うん。気を付けて。わんさかゴブリンがいる。ロードも」

「うん。じゃあ、いこうか」


 リーザの治癒魔法で傷は癒えたようだけど、体力はほとんど回復していないらしく、今は木の棒をつきながらなんとか歩いている状態だ。

 あのふたりと一緒に、一本道の脇でザブンを見張っていて欲しかったのだけど、サーシャ自身が頑なに付いて行くと言ってきかなかった。なので、こうしてフラフラとしながらも僕の後を付いてきている。


「大丈夫?やっぱり、外で待ってた方がよかったんじゃない?」

「大丈夫。もしものときは、私がリオラを助ける」

「そっか。じゃあ、急がないとだし失礼するよ」


 サーシャを右腕でヒョイッと抱える。


「ッ!!」

「舌噛まないでね」


 そのまま僕は洞窟内を疾駆する。

 サーシャがリオラと別れてから既に2時間近く経っている。時間との勝負だ。このまま、サーシャの歩く速度に合わせていたら日が暮れるからね。間に合ってサーシャの笑顔を見たいし。

 そんなことを考えながら、新幹線もビックリする程の速度で疾走していると。


 視線の先に、通路を埋め尽くす程のゴブリンの大群が現れる。

 その数は到底、100や200では収まっていない。

 そのあまりの数に驚いて急停止すると、スキルを使用して奥を覗く。

 最深部にもうじゃうじゃといて、そのさらに奥には一際巨大なゴブリンがいた。


「うそ………まだこんなに」

「こんなにいるのか。対大勢ではまとめて蹂躙できる魔法を使った方が楽なんだけど、できるだけ魔力は温存しておきたいし。ごめんね、サーシャ。後ろからゆっくりでもいいから付いてきて」


 そう言ってサーシャを地面に降ろすと、紫怨を抜く。

 暗黒龍とやり合ったというのに刃こぼれひとつしておらず、それどころかガンガン威圧を放っている。

 刀が斬りたくて斬りたくてしょうがないとでも言うように。



「──ふっ」


 その"相棒"の欲求に応えるように、軽やかな動きでゴブリンどもに接近すると、横一文字に振るう。

 血が吹き出し、前にいた十数匹のゴブリンが崩れ落ちる。

 そのまま勢いを一切弱めることなく、前にいるゴブリンからまとめて斬り伏せていく。

 ただの1匹も自分の後ろには行かせず、迫り来る壁のように徐々に通る道ができていく。

 うん。これぞ、ゴブリン専用ルンバ。なんてね。



「グギギギィィ」

「グギィギ」


 ふいにゴブリンどもが、両端に寄り始めた。

 すると、この集団の最後尾で弓を構えている数匹のゴブリンがいた。

 ゴブリンアーチャーとかいうらしい。本当に種類豊富だね君たち、と思っていると。


 数本の矢が飛んで来る。

 もちろんゴブリンアーチャーが放った矢だが、なかなかに嫌らしいところを狙っているようだ。

 首元に1本、両足に1本ずつ、肩付近に2本、そして動かなければまず当たらない左右に1本ずつ。

 計7本。狙う場所といい、今の連携といい、頭いいねこいつら。

 と、そんなことを呑気に思っていられるのは、まったく動じていない証拠であるのだが。


 おもむろに近くにいたゴブリンの腹に紫怨を刺すと、それを僕の体の前に持ってくる。


「ギギギギギィィィィ」


 僕の盾になって、いくつかの矢が刺さったゴブリンはあっさり絶命する。


「ふふ。両脇にいくらでも盾があるんだから、あんまり意味ないね」


 紫怨を縦に振って、刺さっていたゴブリンを飛ばし、もう一度矢を放とうとしていたゴブリンアーチャーに直撃させる。


「グギッ!?グギギギギイィィィ」



 そうしてまた、何事も無かったかのように手前の奴から屠っていく。

 矢の軌道が通らないような動きで、ゴブリンを盾にしつつ進んでいった。









 ◆◆◆◆◆



 ──無双。


 まさに今はその言葉がぴったり当てはまるであろう。

 それは、僅か数分の出来事であった。

 総数凡そ1000匹の多種多様なゴブリンが屍となって、血の海を形成している。

 辺り一面、文字通り真っ赤に染まった洞窟内を、こちらも真っ赤に染まったひとりの少年がスタスタ歩いている。


「クリーン」


 瞬間、その少年の体が元の色を取り戻した。

 ただし、その表情は苦虫を噛み潰したように歪んでいる。

 怒りを理性で抑えているようにも見える。

 それもそのはず。

 少年の視線の先、地面には至るところ傷だらけで服がビリビリに破け、半裸で倒れている獣人の少女がいたからだ。

 目は開いているが、生気がほとんど感じられない虚ろな瞳をしていた。


「君が───」


「リオラー!リオラッ!しっかりしてッ!!」


 後ろからやって来ていたサーシャが、リオラに飛び付き抱き起こす。

 しかし、リオラは何の反応も返さない。


「リオラ!ねぇ、リオラ!起きてよ、ねぇ。リオラァ」


 そのとき、リオラの手がピクッと反応した。

 とても小さい反応だったが、サーシャは見逃さない。


「ケイ………!!」

「うん。少し離れて。エクストラヒーリング」


 突如、眩しい光がリオラの全身を包み込む。

 欠損を含むありとあらゆる怪我を瞬時に治癒する超高位回復魔法。

 これにより、リオラの全身から全ての傷が癒える。

 体力が回復すれば、サーシャのように立ち上がることもできるだろう。

 だが、問題はやはり精神面だ。

 いくら体は回復しても、魔物に穢されたという事実は一生消えない。


「リラックス」


 心身を落ち着かせる効果のある魔法。

 これを掛けると少しだけ穏やかな顔になったが、それでも心ここにあらずといった感じは消えない。


「今は、リオラを連れて端に。あれが来る」

「……凄い。傷が一瞬で──ッ!!わかった。気を付けて、あれは見えない攻撃をしてきたから」

「大丈夫。こっちは気にしないで」


 そう言うと、少年は奥からやってきた怪物(?)を見据える。









 ◆◆◆◆◆



 ***

 ゴブリンロード

 性別:♂ 年齢:145

 魔法属性:火 風

 スキル:

 戦闘系→身体強化[Lv.4] 威圧[Lv.3] 棍棒[Lv.3] 手加減[Lv.2] 指揮[Lv.2] 熱耐性[Lv.3]

 魔法系→詠唱破棄 魔力プール[Lv.2] 魔法威力上昇[Lv.3] 魔力操作[Lv.4]

 生産系→繁殖[Lv.3]

 生活系→超聴覚[Lv.2]

 その他→鉱堅の身体

 ***


 ふむ。たしかにこれじゃ、サーシャは勝てないね。

 スキルだけ見れば、暗黒龍には及ばなくてもリーガンやアシッドに並び立つ程だ。

 サーシャの話では、Sランクの魔物という話だし。

 だがそうなると、暗黒龍のランクは何だよって話になるんだが、それは今は置いておこう。


「グギャァ」


 ゴブリンロードは目を血走らせて、魔力がどんどん膨れ上がっている。

 もうこの洞窟にはこいつしかいないし、あとは簡単なお仕事である。


「グギッ!」


 僕の目にはしっかりと映った。

 それは、魔力を圧縮してできた濃密な塊。

 それが僕に向けて迫ってくる。


 見えない強力な攻撃ってこれのことか。なんのことはない、ただの魔力だ。

 しかし、魔法の適正がなければこれを認識するのは難しい。いや、たとえあったとしても、大抵の人間では避けることも難しい。

 それほどの速度と魔力で、当たれば確かに首が飛んでもおかしくはない攻撃だった。

 色々思考を巡らせたが、この間1秒にも満たない。

 高速思考スキルのおかげだ。


 見よう見まねで、僕も魔力の塊を作り出し相殺した。

 辺りを強烈な衝撃波が襲うが、躱すよりかはいい。

 まぁ、後ろのふたりの周りには、スペースバリアを作っているから、今程度の攻撃ではヒビも入らないのだが。



 紫怨を構えると、一瞬で肉薄し斬りつける。


「──おっ?」


 しかし、手応えが薄くて実際小さな切り傷しかつかなかった。

 棍棒を振り下ろすゴブリンロードの足元を掻い潜り、再び斬りつけるが、またほとんどダメージには至っていないようだった。


「あれ?こんなに硬いの?こいつの体」


 一旦距離をとって、原因を探るとすぐに発見した。


 ***

 対象:鉱堅の身体

 説明:時の経過と共に、身体が硬度を増していく。目安として、100年でミスリル級、200年でオリハルコン級、300年でアダマンタイト級の硬度へと変化する。

 ***


 よくわかんないけど、とにかく年を取る程硬くなっていくということかな。

 このミスリルとかオリハルコンとかどういう意味だろう?なんか硬い物なのかな?

 あとでエンリにでも聞いてみよう。


 ニヤリと不適な笑顔を見せ、次々に魔力の塊を放ってくるゴブリンロードを見て、なんだか少しイラッとした。


(こ、のて、、いど、、、かるぃ、かる、、ぃ)


「へぇ。軽い……のか」


 その魔力の塊を全て相殺すると、高く跳躍し紫怨を頭上から振り下ろす。

 だが、ゴブリンロードは不適な笑みを崩さず、やれるもんならやってみろとでも言わんばかりに棍棒を肩に担いで、どっしり構えていた。


 ───ズバンッッ!!


 斬りつけて数秒。

 ゴブリンロードはさらに不適な笑みを浮かべると、棍棒を振りかぶり──。

 だが次の瞬間、ゴブリンロードの頭のてっぺんから股にかけて縦線が入る。


「誰もさっきのが本気とは言ってないよ」


 そう呟き紫怨を仕舞うと、綺麗にふたつに別れながら倒れるゴブリン最上位モンスター。

 最後まで僕のことを獲物だと考え、余裕をこいていたSランクモンスターは、こうしてあっけなく地に沈んだ。








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