第25話 ケイvs暗黒龍②
考えるより先に体が動き、僕はなんと火のブレスをぶった斬っていた。
さすがに、これにはかなり驚いた。
剣圧でロウソクの火を消したりしたことはあったけど、辺り一面の炎を斬るなんてことは不可能だった。
「なんか、この世界に来てからどんどん人間離れしていってる気がするよ」
「ガギィヤァ!?」
暗黒龍もあまりのことに驚いてるみたいだ。
今なら見れるかな。
ステータスオープン!
***
ケイ・サガラ(異世界人)
種族:人族 性別:男 年齢:16
ジョブ:勇者(召喚)
魔法属性:火 水 風 土 雷 光 闇 時空
スキル:
戦闘系→身体強化[Lv.6] 武術[Lv.4] 剣術[Lv.2] 回避[Lv.3] 居合[Lv.3] 威圧[Lv.5] 高速思考 刀術[Lv.3] 手加減[Lv.4] 索敵
魔法系→詠唱破棄 魔法威力上昇[Lv.3] 魔力プール[Lv.1]
生産系→なし
生活系→世界共通言語 スリ[Lv.1] 速読[Lv.3]
その他→神眼
称号:Fランク冒険者
***
闇の属性が増えている。
たぶんギルドでの決闘の時のあれかな。
そして、もうどの行動でレベルが上がってるのか、さっぱりわからない。
まぁ、あんまり気にしないようにしようかな?
あっ、そう言えば動物(ケイの中ではドラゴンも動物扱い)にも読心スキルって有効なのかな?
(な、なぜ我輩のブレスが……こんな下等生物の分際でッ)
おぉ。面白いねこれ。
もしや植物の心の声も聞こえたりするのかな?
ぜひ後で試してみよう!
(我輩のブレスを防ぐなどあってはならんッ!)
そう聞こえたと同時に、また巨大な魔力の波動を感じる。
またブレス?
防がれた技を何度も繰り出すなんて、三流のやることだよ。
「ギィギャャアアアアアアァァァァ」
暗黒龍は先程よりもニ回りは大きい闇色のブレスを放ってきた。
僕がまた刀で斬ろうと思った時、それに気付いた。
なんとブレスが通った場所が瞬時に朽ちているのだ。
地面は完全に水分を失い、干上がり所々崩れていく。
「これは……もしかして腐敗化ってやつ?」
スキル腐敗化。
その名の通り、あらゆるものを腐らせることができる。
自身の技に効果を付加し、相手の武器などを腐敗させ使用不可にさせたりする。
これが本来の腐敗化の使い方だが、先天的にこの能力を持っている生物は回りの空気すら汚染する。
その為、高位の魔物がこれを持っていれば、まさに手がつけられなくなる。
「やばっ。これ逃げ道ないし……上か」
僕はまた倒れそうだなぁと思いながら、力強く地面を蹴る。
次の瞬間、僕のいた場所は完全に朽ち果てた。
「さて。結構高く跳んだのはいいけど、着地したらミイラになるねこれ」
このままでは、結局暗黒龍の腐敗化の餌食になる。
だが、そこはやはり闘いの天才。
一発逆転の手を狙っていた。
(フハハ。ほれ、我輩が作った死の空間へ落ちろ!)
暗黒龍は完全に仕留めたと思い、油断しまくっていた。
空中で、徐々に地面に近付いている中、僕は紫怨をゆっくりと鞘にしまう。
──チィンッ!
鍔が鞘に当たった際の、小気味良い音が響く。
僕はそれに安心感を得て、滝に打たれる坊主の如く自身を精神統一させていく。
そして………。
「ワープポータル!」
ケイは暗黒龍の背後に一瞬で現れ、右手で握っている紫怨を抜き放つ。
「現代式抜刀術、破雲流参の型・"焰"」
抜き放った紫怨の刀身が、高速の抜刀によって空気摩擦を得て、急激に熱を帯びる。
そしてそれは、通常の数十倍もの切れ味となって、暗黒龍に襲いかかる。
ビュンッッ!!
紫怨を抜き放った体勢のケイと、慌てて上空へ飛び立った暗黒龍の側を、巨大な尻尾が舞う。
鋼鉄では比較にならない程の硬度を誇る暗黒龍の尻尾を、なんの抵抗もなく斬り飛ばしたのだ。
「ガギャヤアアアアアアアアァァァァァァァ」
上空を物凄い速度で飛翔し、眼を血走らせて怒り狂っている様子の暗黒龍を見据えて、僕は溜め息をつく。
「はぁ。踏み込みが甘かったか。胴体ごと真っ二つにするつもりだったのに」
そこで僕は膝をついた。
どうやら魔力が本当に限界に来ているらしい。
さすがに魔力は見れないかなと思いつつ、なんとなく意識すると……。
***
対象:ケイ・サガラ
保有魔力 : 25/18,000
魔力プール : 3,000/3,000
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あっ、見れたよ。
って、僕の魔力もう少しでゼロだし。
これ、ゼロになったらどうなるのか。
後で、ふたりに聞いてみようか。
そこで僕は、魔力プールの存在に気付いた。
感覚に従って、それを弄ってみると……。
***
対象:ケイ・サガラ
保有魔力 : 3,025/18,000
魔力プール : 0/3,000
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やっぱり思った通りだった。
このスキルは、予備の魔力を蓄積しておけるものだね。
体の倦怠感が綺麗になくなり、スッキリしたので伸びをしていると──。
「ガギィヤァァアアアアアアァァァァ!」
遥か上空で、頻りに暗黒龍の声が聞こえてくる。
ギャアギャア煩いなぁ。
「さてと。あれ、どうやって落とそう。待ってたら来るかな?空飛べる魔法でもあればいいんだけど、生憎僕が見た魔法書にはなかったし……お?」
僕がひとり呟きつつ、これからどうするか考えていると神秘的な光景を目にする。
暗黒龍の尻尾を根元から切断して切り株みたいになっていた所が、徐々に長く太く伸びていく。
それはまるで、尻尾を切られた蜥蜴が必死に生きようと、より頑丈に生やしていくようだ。
そうして暗黒龍の尻尾が完全に再生した。
「たしか"自己再生"とかいうのがあったね」
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対象:自己再生
説明:魔物固有スキル。魔力を消費して、自身を再生させることができる。スキルレベルに応じて、再生速度や消費魔力が変動する。また、怪我の度合いでも消費魔力は変動する。
***
ふむ。魔物限定か。
まぁ、人間の腕とか生えたらキモイしね。
そんなどうでもいいことを考えていると、暗黒龍が轟音を立てながら急降下してきた。
「ギャヤアアアアアアアアァァァァ」
今度はブレスではなく、体当たりしてくるようだ。
もうこいつも魔力を使いすぎたのかもしれないが、これも十分ヤバい。
あの速度と巨体では核ミサイルに匹敵し、ブレス以上に厄介となる。……普通ならば。
「ようやく降りてきたね。それじゃ、魔力も回復したことだし、全力で行こうか」
ケイは、肩を回しながらスキルを全解放し、無意識に抑えていたあらゆる要素を自身に加算していく。
そもそも大体のスキルとは、ある一定の経験値を越えるとレベルが上がり、それに応じて強化幅がどんどん増していくものだ。
つまり単純にスキルレベルが増えると、足し算でその技能が扱いやすく、また、強くなっていく。
このスキルレベルが同じ相手、或いは高い相手との戦闘で勝る為には──。
「流雷魔法、ヴォルトウェアー」
そう呟いた刹那、無数の雷鳴が轟き、天から雷が落ちる。
その速度は秒速凡そ200kmにも達し、魔力と自然が生み出した巨雷である。
その雷は、空気を切り裂き轟音を立てて、容易く暗黒龍の片翼を貫くと、ケイが右手に持つ紫怨へ到達する。
その速度で紫怨に直撃した瞬間、急激にその速度を殺し、刀身を電気が帯び始める。
この世界で、"纏"と呼ばれる魔法技術である。
その名の通りの技で、自然属性の魔法を、身体や物に纏うことで、様々な能力を引き出すことができる。
もちろんケイはそんな技など知らず、思いつきで成功させてしてしまったが。
これは一流の魔法師でも、会得するのにそれなりの年月を要する高等技術だ。
雷を武器に纏うのも、下手をすれば自滅しかねない程難しいものである。
「これは……綺麗だ」
紫怨の刀身が、白に近い紫色の雷を発している。
それはバチバチと音を鳴らしながら、強烈に辺りを照らし、神秘的に輝いていた。




