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第24話 隻眼の女魔法師

 

 ケイが暗黒龍と対峙していた同刻──。


 ここは、大陸の東方に位置する魔法大国・レイザード王国。

 その南東に構える商業都市"ラメア"。

 レイザード王国の商業全般を取り仕切る重要都市である。

 様々な物流がここを経由し、金が集まってくる王国の主要拠点。

 そんな都市だ。

 いつもなら、あちこちで元気な声が飛び交い、大きな賑いをみせている。

 だが、今この街にいる人々は、かつてないほど沈み、ピリピリとした空気が漂っていた。


 その原因は、数日前の夜に一組の冒険者パーティがもたらした情報だった。

 それは、『辺境の村がふたつみっつ消えていた』という、とても信じられるようなものではなかった。

 そこで、ラメアの冒険者ギルド支部は、翌日の朝に調査隊を派遣した。

 その時は、どうせ見間違いか村の場所を記憶違いでもしていただけだろうと考えられていた。

 焦燥しきった顔で今にも倒れそうになりながら、一人の調査員が帰還するまでは……。

 その調査員は虚ろな目をして、こう話したという。

『あ、あぁ、あれは、間違いなく暗黒龍だ。仲間があんなに簡単にやられるなんて……』


 5人いた調査員は、ひとりを除いて全滅したのだった。









 ◆◆◆◆◆




 冒険者ギルド、ラメア支部──。

 その一番奥にある会議室では、現在緊急の会議が開かれていた。


「だから!どうしようもねえだろって!逃げる以外に方法はねんだよ!」


 ──バンッッ!!


 そう怒鳴り散らして、机を思いっきり叩いた青年がいる。

 彼の名は、フェデラー・スイフト。

 このラメア支部のギルドマスターである。

 若いながらも確かな実績を持ち、Aランクまで支部最速で駆け上がった人物である。

 Sランクにもなれる素質はあったのだが、現役を引退し今の地位に着いた。


「冒険者ギルドは、いつから逃げ腰集団になったんじゃわれい。こういう時の為に、お主らがおるんじゃあねぇのかい」


 そう言うのは、白髪でメンチを切っている老人。

 ヤクザの元締めでもしていそうな風貌をしているこの老人の名は、ガンド。

 ラメアに本店を置く大手商会、ガンド商会の代表だ。

 その他にも、ラメアでの有名人が勢揃いしていた。


「だから何度も言ってるだろ!相手は暗黒龍なんだよ!あんただって知ってんだろ!」


 ガンドのメンチにも一切怯むことなく、逃げを提案するフェデラー。

 しかし、ガンドも譲れない。


「ふん。そんなこたぁ百も承知じゃ。じゃが、おめぇここがどこだか忘れたわけじゃあるめぇ。逃げるなぞたとえ死んでもできんつうことじゃ」

「たしかに、ここは王国の主要都市だ。堕ちれば、帝国との戦争にも、主に物資面で大きな影響が出るだろう。だが、ヤツが徐々に近付いているのは確かだ。戦力もまだ整ってないってのに、迎え撃つのは自殺行為だって言ってるだろうよ」


 ここから逃げるつもりは微塵もないガンドは、一向に姿を見せず話にも出てこない人物を思い出す。


「ところで、あの成金野郎はどうしたんじゃ。使えなくても呼んだんじゃあねえのかぃ」

「ガバッド子爵か。ハッ、もちろん逃げたぜあの野郎は。領主の仕事を一切合切放棄して、誰よりも早くな!」

「「「うわぁ~」」」


 さすがにこれには、この場にいる人々もドン引きである。

 街で最も偉い人物が、一目散に逃げたのだから当然の反応だ。



「やはりか。まぁ、奴はどうでもいい。今はこの窮地をどうやって脱するかということじゃな。街も活気が無くなっているし、さっさと手を打たなければならんじゃろう」

「かと言って、援軍は望み薄ですよ。今は、帝国との小競り合いが激化していて、この国の戦力は西に集中していますし。早くてもあと5日はかかるかと」


 そう。レイザード王国の主要都市にもかかわらず、戦力が少ないのは、そういった背景が存在するからだ。

 このままでは、帝国と戦っている背後から、暗黒龍に国を堕とされかねない。


「暗黒龍は数百年前にも確認され、ふたつの国が滅んだという。とてもではないが、現状の戦力でどうにかできる存在ではない」

「そんなら、この街を捨ててええゆうことかいのぅ。この街には、ワシの魂が乗っとるんじゃ。おいそれと──」


 バンッ!!


 突然ガンドの声を遮って、ドアが思いっきり開く。

 そして、ひとりの男が大慌てで飛び込んできた。


「ギルマス!リアンヌ……隻眼のリアンヌが来たぜ!」

「……リアンヌだと?本当か!?」

「あぁ。"サフラン"を連れて援軍に来たようだ!」

「早すぎる。しかも、リアンヌだと?いったい──」


 今度はフェデラーの言葉を遮って、後ろから来た人物が報告した男を蹴り飛ばす。

 その人物は、机に激突し気を失った男を一瞥してから、腰に手を当てて偉そうに呟く。


「ここね。暗黒龍の対策会議とかいう、無意味なことをやってる輩がいるのは」


 冷たい瞳で会議室内を見渡している女性。

 彼女の名は、リアンヌ・メーデン。

 レイザード王国最強の魔法師団"サフラン"を率いる隻眼の魔法師である。



 フェデラーは気を失った男を一瞥してから、目の前の女を観察していた。


(紫の髪を靡かせ、黒いマフラーをしている。そして、片目に眼帯を着けている女。間違いねぇ。隻眼の姫こと、リアンヌ・メーデンだ)


「これはこれは。王国でも三指に入る程の魔法師であるリアンヌ様に来てもらえるとは。だが、無意味なこと、とはどういう意味だ?」


 最初は少しへりくだるフェデラーだが、徐々にその視線が鋭くなっていく。

 結構な登場をされ、あげくにさっきまでの議論が、無意味と言われたのだ。

 フェデラーでなくとも、不愉快になるというものだろう。


「どうせあなたたちにできることなどたかが知れているのだから、無意味ということよ。おわかりかしら?おぼっちゃん」

「なに!?」

「どうせ逃げるか籠城するかの二択だったのでしょ?実に無意味なやり取りだわ」


 心底つまらなそうにそう言うリアンヌ。

 彼女の言葉は、ある意味正しい。

 さっきまでまさにここで、不毛な論争をしていたのだから。


「──ッ!?それ以外にどんな選択があるというんだ!」

「さぁ?私に聞かれても困るわ。雑魚の取れる選択なんて」

「雑魚?俺が雑魚と……そう言ったのか?」


 まさに一触即発。

 剣呑な雰囲気を漂わせるふたりに、周囲の者も緊張感に包まれていく。

 そんな空気の中、リアンヌの部下らしき人物がやって来た。


「リアンヌ様。出撃の準備が整いました。いつでも行けます」


 そう報告してくる部下に、リアンヌは頷きを返す。



「出撃だと?まさか……」

「えぇ。暗黒龍は、私たち"サフラン"が引き受けるわ。あなたたちは、街を封鎖してせいぜい怯えていなさい」


 リアンヌは最後にそう言うと、部下を伴いさっさと会議室を後にした。




「あの女……本気か!?」

「ホッホッホッ。あのお嬢さんとて、倒せるとは思っておらんじゃろうて。そんなことよりも、滅多に王都を離れない魔法師団"サフラン"が来たゆうことは、何かを企んでおるやもしれんな」


 そう言うと、会議室を出ていこうとするガンド。

 だが、その背中にフェデラーが待ったをかける。


「ガンドの爺さん。それはどういうことだ?」


 その問い掛けに、ガンドは廊下に出てから首だけで振り返り。


「南西には、一向に崩せない帝国の砦があるじゃろう」

「ッ!?まさか、彼女、王国の狙いは──」

「まぁ、お主はギルドの人間じゃ。そこはあまり考えない方がよいぞ。とりあえずあのお嬢さんの言うとおり、警備隊と連携して街の封鎖と、もしものときの為の迎撃準備をしておくだけでよかろう」


 その言葉を最後に、ガンドの姿は見えなくなった。



「前から思ってたんだが……。あの爺さん、本当に商人か?」








 ◆◆◆◆◆



 商業都市"ラメア"の南門に、濃い紫色のローブを着た集団がいる。

 彼らこそ、世界中にその名を轟かせるレイザード王国最強の魔法師団"サフラン"だ。


「リアンヌ、おせーぞ!さっさと暗黒龍をぶちのめしに行こうぜっ!」


 リアンヌに悪態をつく、意思の強さを感じさせる瞳をしている少年。

 昔、リアンヌが拾ってきた孤児である。

 拾ってきた理由は、もちろん魔法の才があったからに他ならない。

 少年にとって、リアンヌとは姉のような存在であり、魔法の師匠でもあった。


「すまないな、ゲン。だが、倒しに行くのではない。誘き寄せ、帝国に大打撃を与える」


 そう口にしたリアンヌの視線は、バーサス帝国のある西を向いていた。

 その瞳に憎悪の炎を燃え滾らせて……。









評価ありがとうございます!

これからも、当作品をよろしくどうぞ。

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