第23話 ケイvs暗黒龍①
茜「クシュッ。花粉が・・・ムズムズするぅ」
慧「ほら。チーンして」
茜「チュンッ。えへ、ありがと」
慧「明日風強いみたいだし、僕が守るよ」
茜「風から!?」
それは突然やって来た。
僕が酷い倦怠感に逆らわず、ゆっくり休んでいると、脳内に存在する危機感知に土足で踏み込んでくる奴がいたのだ。
これで目を覚ますなという方が無理である。
もう少し休みたかったんだけど、さすがにこのままじゃ死ぬ。
僕はそう判断すると仕方なく飛び起き、一瞬でリーザとエンリを両脇に抱え、すぐさまこの場から退避した。
次の瞬間、暗黒龍のブレスがここら一帯を消し飛ばす。
転移した場所から凡そ2kmの地点。
見晴らしのいい高台に3人はいた。
「ふぅ。今のは危なかったよ。あいつのブレスで土煙が舞っててよく見えないや。おっ、リー」
「ケイ……ケイーー!」
泣きじゃくっているリーザと目が合い、話しかけようとしたら、僕の声を遮って胸にダイブしてきた。
それを、そっと優しく受け止める。
そのまま顔を埋めてくるリーザの肩が、小刻みに震えていたので、リーザの背中へ手を回し、落ち着かせるようにゆっくりと撫でていると。
「ケイ様ーー!よがっだでずぅ~」
そう言って今度は、背後からダイブしてくる少女が。
「え、エンリ?まさか、泣いてるの?」
「な、泣いてまぜぇ~ん」
思いっきり泣いてるじゃん。
こんなに感情を表に出すエンリは初めてだ。
それほど怖かったってことだろう。
そう思うと、沸々と怒りがこみ上げてきた。
「ただでは帰さないよ。トカゲもどきが」
ケイはそう呟くと、遠視スキルを使用して未だに土煙が上がっているその先を視界に収め、どうしてやろうかと一人考えていた。
実は彼女らが一番怖かったのは、ケイが突然倒れたことだったりするのだが、そんなことは一切気付かずに、全てを暗黒龍のせいにしていた。
前後から抱きつかれて、段々苦しくなってきた僕は、なんとかふたりを離し、今後のことを話し合っていた。
「リーザとエンリはここで待ってて。あのドラゴン、ギャフンと言わせてくるから」
僕が、ちょっと買い物行ってくる!みたいなノリでそう言うと、ふたりはすぐさま反応した。
「危険すぎます!相手は"暗黒龍"なんですよ!」
「そうよっ!いくらケイでも、あれは……」
やっぱり、ふたりは反対らしい。
たしかにあれはヤバそうだ。
さすがの僕も、あの怪物が相手ではどうなるか見当もつかない。
おまけに、今の僕には恐らく魔法が使えない。
そんな状況で、「あれを倒せる」とか言う程バカじゃないつもりだよ。
でも僕には、日本で鍛えた心と身体、技術がある。
そしてなによりも、あんなトカゲもどきから逃げるような男が、茜に釣り合うはずもない。
「でも、最初に遭遇した魔物で自分の力を試すって言ったよね?」
「でも"暗黒龍"ですよ!いくつもの物語に登場する最凶の……はぁ。申し訳ありません。私はメイドですので、これ以上文不相応なことは申しません」
僕の顔をまじまじ見て、何かを諦めたようにため息をついたエンリ。
なんかデジャヴを感じたよ。気のせいかな?
「文不相応なんかじゃないよ。エンリは、ちゃんと心配してくれてるんだってわかってるから。ありがとね」
「し、心配だなんて、そんな//」
頬をほんのり朱に染め恥ずかしがったかと思えば、すぐに元のキリッとした顔つきに戻ると、一礼してリーザの背後に下がる。
本当にこの子は、切り替えが早いなぁ。
「私もケイを心配してるからねー!」
そう言いながらまた抱きついてくるリーザを愛でつつ、ようやく今の力を試せると内心嬉しく思っていた。
なんだかんだ、この少年も十分戦闘好きである。
「じゃあ、ふたりとも。すぐ戻る」
「「がんばって!」」「下さい!」
◆◆◆◆◆
僕は単身、転移した地へ戻っていた。
暗黒龍はというと、さっきから魔物のようなものをムシャムシャ食べている。
油断しきっていて、こっちにはまだ気付いていないようだ。
さて。それじゃ、ちょっと拝見するよ?
***
暗黒龍
性別:♂ 年齢:1288
魔法属性:火 風 呪 闇
スキル:
戦闘系→身体強化[Lv.8] 威圧[Lv.6] 熱源感知[Lv.6] 腐敗化[Lv.6] 回避[Lv.6] 自己再生[Lv.6]
魔法系→詠唱破棄 魔力プール[Lv.5] 魔法威力上昇[Lv.6]
生産系→なし
生活系→飛行[Lv.7]
その他→狂乱
***
…………。
これは、さすがに予想外だよ。
スキルレベルが普通に6以上あるし。
なるほど。最凶……か。
これ、倒せるかな?追い払うのもキツそうな気がしてきたよ。
「とりあえず、自分のステ……ッ!?」
自分のステータスを確認しようとした時。
突然、僕の直感が警鐘を鳴らす。
その感覚に従い、咄嗟にその場を離れると。
ビュガンッッ!!
地面に巨大な亀裂が入った。
恐らくは風の魔法。
上空に風の刃を形成し、僕のいる真下へ振り下ろした。
えげつないな、この威力。
僕がその魔法に驚いていると、食べ終えた暗黒龍がのっそり立ち上がると、ギョロッと視線を向けて威圧してくる。
並みの人間なら、この威圧だけで意識を刈り取られるぐらいの凄まじいものだ。
「これは油断できな──」
「ガギャオオオオオオオォォォォォゥゥゥ!」
また暗黒龍が咆哮をした後、その口元にどんどん魔力が集まっていくのがわかる。
これは、さっきのブレスか。
でも、今度は逃げるつもりはない。
茜を守る為には、全てを蹴散らして進む。
「紫怨。ようやくお前を振るうときがきたよ」
僕は、鞘からゆっくりと紫怨を引き抜き、下段に構えた。
さあ。来るならどうぞ。
そう心の中で挑発した次の瞬間、暗黒龍の口から極太のブレスが放たれ、一直線に迫ってきた。
──のだが。
「──ッ!?火のブレス!?これはさすがに焼け死ぬ!」
それは、予想外の火炎ブレスだった。
先程とは違い、"火"であるため、かすっただけでも大火傷となる。
無意識にスキルを全力で発動させ、横に回避する。
思ってた以上に簡単に回避できたことに自分で自分に驚いていたのだが、そこまで暇はなかった。
少し油断していた所に、もう一発の火炎ブレスを連続で放ってきたのだ。
「……まじ?」
一瞬焦ったが、体は素早く反応した。
流れるように綺麗な線を描いた紫怨の刀身が、迫り来る猛火を一刀両断にしたのだ。
──その火炎ブレスは、僕を避けるように両側を貫き、後方で爆ぜた。
そう。まさしく今、火蓋が切られたのだ。




