第21話 胸騒ぎ
執筆に飽きてきたので、投稿が遅くなりつつあります。
もし毎回読まれている方がいましたらすみません。
「頼むっ!俺を弟子にしてくれ!」
3人の少年を担いで部屋に戻り、数分経って目を覚ましたリークの第一声がこれだった。
「やだよ。僕にはすることがあるんだから」
「そこをなんとか!俺は強くならなければいけないんだ!」
そう言いながら、土下座をしてくる。
おう。この世界にも土下座文化があるのか。
本当に向こうの世界と似てる所が多い。
「どうして強くなりたいの?」
僕がそう尋ねた瞬間、リークの顔に憎悪の色が表れた。
怨恨か……。
あのときの僕もこんな顔をしていたのだろうか。
「ある魔族を殺したい。俺に呪いをかけて……俺の、姉を、辱めたアイツをおぉ」
目を血走らせて、奥歯を強い力で噛みしめながらそう吐露するリーク。
なるほど。それは十分すぎる理由だ。
昔からモノを教えるのはあまり得意じゃないんだけど。
「弟子は取る気ないから却下。でも、丁度魔界に行く所だから教えながら一緒に行くのなら別にいいよ。あぁ、リーザたちも一緒だけど」
「ほ、ほんとか?──ッ!リーザ様とい、一緒に……」
「あれ?ケイの友達……じゃないよね。ん?たしか、フラウ辺境伯の?」
そう言って、リーザが部屋に入ってきた。
髪の毛がツヤツヤしていて、心なしか肌が綺麗になっている。
色気2割増しだね。
さすがに12歳に欲情はしないけど。
「リ、リリリ、リーザ様?ま、まさか一緒の部屋!?」
リークは心底驚いた様子で僕を一睨みすると、リーザに向き直り恭しく礼をした。
「辺境伯フラウ・ベイ・ヘイヤードの次男、リーク・ベイ・ヘイヤードです。リーザ様におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
「うむ。お主も変わらず元気そうだ」
尊大な態度でそんなことを言うリーザだが、僕に撫でられながらなので威厳も何もない。
そして、リーク以下3名の僕への殺気が凄い。
ここらへんで、やめておくかな。
そう思って手を離そうとしたとき、リーザの上目遣いが僕の両目を射貫いた。
無理。手が磁石のようにくっついて離れない。
この瞬間、リーザは茜以上の愛でられ上手だと判明した。
◆◆◆◆◆
夕方、僕と茜はファミレスに寄っていた。
「ねえ、慧。もし私が殺されたらどうする?」
テーブルで向かい合っている茜に、突然そんなことを聞かれた。
ふたりで映画を観に行った帰りに寄って、ずっとおしゃべりをしていたが、茜が突然こんな質問をしてきたのには、もちろん理由がある。
観に行ってきた映画というのが、愛する人を殺された主人公が、悲しみに暮れて自棄になっていたとき、ひとりの女性と出会い、心を癒され、その人と恋に落ちていくというラブストーリーだった。
それに影響されて、こんなことを聞いてきたのだろう。
「僕がいる限り、その前提は成立しないよ」
僕がそう答えると、茜はムスッとした。
なんか変なこと言っただろうか。
「そういうことじゃないんだけどなぁ」
茜がボソッと何かを言ったが、聞こえなかったので「なんて?」と聞こうとした時、突然得体のしれない巨大な殺気が襲ってきた。
「ッ!?」
本能に従い、茜を抱いて壁に隠れた刹那。
ファミレスの窓を突き破って、巨大な火の玉が無数に飛来した。
ヒュー!ヒュー!ヒュー!
ズドン!ズドン!ズドン!
火の玉がファミレスを蹂躙する。
それははまさに地獄絵図だ。
幾つもの悲痛な叫びが飛び交い、足元には火の玉が直撃したのか原型を留めていない人型の物体がある。
煙は徐々に広がっていき、このままここにいれば待っているのは"死"。
僕は直ぐに脱出しようと、胸の中に抱いている茜に視線を向けると。
そこには、血塗れで悲しそうに僕を見上げている茜の顔があった。
「守ってくれるって言ったのに……」
「茜!!」
──ガバッ!
朝。僕は物凄い勢いで飛び起きた。
その勢いで、額に張り付いていた汗が飛ぶ。
「はぁ、はぁ、はぁ、夢か……」
なんて突拍子もない夢だよ。
ファイアーボールが飛んでくる前までは僕の記憶で、今思うと根拠のない自信が凄い。
僕にとっての黒歴史かもね。
それにしても……今のは本当にただの夢?
最後に見た茜の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
なんか嫌な予感がするな。
そもそも、なぜ僕は茜の無事を確認もせずこんなにのんびりしているんだろうか。
魔王だってそうだ。
そんなの排除するより、茜を保護するほうが先じゃないか?
同じ世界にいると聞いて変な安心をしていなかったか?
ここは、異世界だ。何が起きても──。
「ケイ様。……大丈夫ですか?」
僕が思考に沈んでいると、透き通るような女性特有の綺麗な声に不安が混じったような声音で問いかけられた。
顔をあげるとそこには、心配そうに僕の顔を覗き込んでいるメイドのエンリがいた。
僕がそれを見て妙な安心感に浸っていると、彼女は水の入ったコップを差し出してきて、それを受け取り喉を潤した。
「エンリ、おはよう。早いね」
「おはようございます、ケイ様。主より先に起きて準備するのはメイドの務めですので」
そう言って、僕の横でモゾモゾしているこれを横目で見た。
これとはもちろんリーザだ。
エンリの方で寝ろとは言ったんだけどね。
「エンリ。コロコロ変わって申し訳ないけど、予定を変更したい。詳しいことは後で話すけど、とりあえず、行き先はフィーリアを先にするよ」
「かしこまりました。前にも言いましたが、私はおふたりに付いていくだけです」
「そっか。ありがとね、エンリ」
ボフン!!
瞬間的にエンリの顔に火がついた。
茹で蛸のように真っ赤っかだ。
「わ、私はリーザ様の、準備があり、ありますので、しちゅっ、し、失礼しますぅ」
顔を両手で隠しながら、そそくさと洗面台の方へ行ってしまった。
……可愛いなぁ。
いやいや違う違う。
いつも愛でまくっているから、ついのんびりになるんだよね、うん。
さてと。ここからは全力で行く。
2度と失わないために。
なぜか宿屋でエンリの手料理を食べた僕たちは、受付でチェックアウトして一階のロビーにいた。
「うん、わかった。アカネを仲間にするのが先だもんね」
そう言ってウキウキしているリーザ。
茜の話しをよくしていたので、もうリーザの中では友達になってるんだろう。
「そういえば、この宿ってなんで『流氷亭』っていうの?」
僕がふと素朴な疑問を口にすると。
「ふふふ!よく聞いたわねっ!私が教えてあ・げ・る」
そう言って可愛くウインクしてくるリーザ。
君はそれ言いたいだけじゃないの?
「『流氷亭』とは、この宿屋の支配人ハーウェン様が、心の底から畏敬の念を抱いてる"美氷の女帝"が使う技からとっているそうです」
「ちょっ、ちょっとー!私が教えるって言ったわよね!?」
リーザがエンリの頬をペチペチ叩いている。
僕はリーザの頭を押さえて動きを封じつつ、エンリに質問する。
「美氷の女帝?」
「えっと、はい。美氷の女帝アイリーン・ベルエール様。超希少属性"氷"の魔法を扱う帝国の最強戦力です。私は数回会ったことがあるのですが、とても、その、危険なお方です」
「へぇ。そんな人がいるのか。一度会ってみたいかも」
「むー。やめたほうがいいよ、ケイ。あいつ、珍しい物が好きだから目をつけられるよ」
えっと……。
それは僕が世にも奇妙な人種だと言いたいのかな?ちみは。
とりあえずリーザのこめかみをグリグリしていると。
「リーザ様、おはようございます!今日も良い天気ですね」
無駄にニコニコしているリークがやってきた。他のふたりは見当たらない。
「ケイ、痛い~はーなーしーてー」
このぐらいで許しておくかな。
あ、そうだ。魔界は後回しにしたんだったよ。
「リーク、ごめん。一緒に行けなくなったよ」
「な!?なんでだ!魔界まで連れてってくれるんじゃ」
ニコニコ顔から一転、悲しそうな顔になったリーク。
表情豊かだねー。
「その前に行く所ができたんだよ。だから、その用事を終わらせたら戻ってくるよ。そしたら魔界へ行こう」
「ほ、ほんとか?本当に戻ってくるか?」
凄い疑いの目で見てくるリーク。
う~ん。たしかに忘れてそうではある。
事実、さっきまでリークの存在を忘れていたし。
「わかった、こうしよう。エンリ、今の約束のこと覚えといてくれる?」
「かしこまりました」
「うおーい!そういうことじゃねー!」
なにか叫んでいるけど、これで戻ってこれるじゃん。
あ、そうだ。これもやっとかないとね。
抗魔散出魔法、マジックアウト!
さてと。これで元通りなはず。
***
状態:健康
説明:通常な状態。体に異常は特になし。
***
うんうん。うまくいった。
面白そうだから、解除したのは内緒にしとこうかな。
次会ったときのステータスが楽しみ。
僕たちはリークと別れ、『流氷亭』を出て路地裏を歩いている。
当然のように、後ろの方にふたり程尾行しているのがいる。
まだやってたのか。ご苦労様で~す。
でも悪いけど、ここまでだよ。
「ふたりとも、手、繋いでくれる?」
「「え!?」」
「嫌?嫌だったら服の裾とかでも」
「ぜんぜんオッケーだよ~ふふふ」
「い、嫌なんかじゃありません!し、失礼します//」
よし。
それじゃあ、ぶっつけ本番だけど行ってみるか。
ふたりと手を繋いだ僕は、頭の中でイメージする。
空間転移魔法、ワープポータル!
ケイが心でそう念じた瞬間、3人は忽然と姿を消した。
まさしく全力で、茜を迎えに行ったのだ。
そしてこの後、バーサス帝国の心臓・皇宮が大騒ぎになるのだが、それは3人には関係のない話しである。
これで一応、1章は終了です。
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