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第19話 最高級宿屋『流氷亭』

 

 僕が無表情で前に出ていくと、前にいたふたりの男は慌てて剣を抜く。


「おっと!下手なことはすんじゃねえぞっ。お仲間が大事ならな」


 そう言って、後ろにいる男たちに目で合図を送ると、リーザとエンリを人質にしようと動き出した……だが。


 ──ガンッ!!


 後ろの男たちは、見えない()()に思いっきり頭をぶつけていた。


「──ッ!?なんだこれは!」

「ま、前に進めねぇ!」


 喚きながら、見えない壁を剣で叩きつけている男たち。

 しっかり魔法が効いてるみたいでよかった。


 それから僕は、目の前で呆気に取られている男に一歩で接近し、容易く意識を刈り取ると、立て続けにとなりにいる金髪の男に向けて蹴りを放つ。

 金髪の男は間一髪右腕で防いだが、メキッという音をたてて横にすっ飛んでいった。

 30mぐらい行っただろうか、ちょうど障害物がなかったからね。

 手加減スキルのおかげで、他スキルの加減が上手いことできるようになってよかった。



 僕が後ろを振り向くと、こちらの男たちは未だに僕が張った魔法と格闘していた。

 それに呆れながら──。


「無駄だよ。それは、空間障壁魔法"スペースバリア"という魔法だからね。それを壊すには、僕が捻出した以上の魔力を込めるしかないよ」


 僕がそう言ってあげると、ふたりの男は互いに顔を見合わせて意思疏通を図ると、僕を挟み込むように展開した。


「なら、お前を殺しゃあいいんだな」

「俺たちの優しいお願いに背くとは、死んで後悔しろクソガキ」


 そう言うや否や、剣を構えて前後から突貫してくるふたりの男。

 えーなにそれ。ショボすぎて欠伸が出るよ。


 僕は"紫怨"の柄に手を伸ばし、鞘ごと引き抜くと、前から来る男の首筋に叩きつける。

 その男は、あっさり意識を手放し、ゆっくり前のめりに倒れてこようとする。

 僕はそれを冷めた目で見ながら、右足を軸に回転し、背後から来た男の後ろを取る。


 ──ザシュッ!


 人体を斬った際の独特の音がして、鮮血が舞う。

 後ろから突貫してきた男が、意識を失い倒れようとしていた男を斬ったのだ。

 僕はその光景を男の後ろから眺めながら、口を開く。


「うわー、こわいよ。突然仲間割れするなんて、どこらへんが優しいの?」


 僕が棒読みでそう話しかけると、男は憤怒の表情で振り返り、刃からポタポタと血が落ちている剣を僕に向けてくる。


「殺すぅ!」


 そう言って、今度は横に剣を構えて突貫してくる男。

 さっきよりも鬼気迫る感じだけど、正直ウザイよ。

 僕は男が来るのを待たずに一歩踏み込むと、(こじり)を相手の腹に突き刺す。


「ガァハッ!」


 男は大量に吐血し、超スピードで飛んでいくと壁に思いっきり激突し、めり込んだまま項垂れ動かなくなった。

 あ、ヤバい。つい……。

 僕は"紫怨"を腰にしまい、男が死んでいないか確認しに行った。

 ふぅ。危ない危ない。

 内臓がイカれてそうだけど、死んではいなかった。

 殺しだけは未だにしていないという自負があるからね。

 因みに、さっき斬られた男も死んではいない。

 死んでは……ね。





 その後、発動中の魔法を解除すると、リーザとエンリが目をキラキラさせて近付いてきた。


「ケーイ!かっこいいぞー!」


 そう言って、飛び付いてくるリーザをキャッチしていつものように愛でる。

 あ~癒される。


「ケイ様。いつの間に、あんな魔法まで?」

「あぁ、書庫でね。魔法書を読み漁ってたら身に付いたよ。あれ、イメージが明確にできれば簡単だね」

「…………規格外ですぅ」


 規格外?なんか向こうの世界でも言われてきた言葉だ。

 自分では、普通に生きてるだけなんだけどなぁ。


「エンリー。ケイを召喚したその日に、あのパパが白旗を上げたのよ。今さらよ」

「たしかに、その通りです。結局、なぜ私が水の魔法を使えることを知ってたのかも分からずでしたし」

「あぁ、あれね。神眼ってスキルがあるから、それで見たんだよ」

「神眼ですか?初めて聞くスキルです。……リーザ様はどうですか?」

「私も聞いたことない。神って付いてるから、凄そうだね」

「女神さんから貰ったスキルだからね。鑑定みたいなものだよ」

「「女神様から!?」」


((女神様からは、貰えなかったはずじゃ……))


 凄い。さすが、仲の良い主従だね。

 心の声まで息ぴったりだ。


「カイルおじいさんの鑑定では見れなかったみたいだね。そんなことより、少しやりすぎたかな?」


 僕が倒れている男を横目で見ながらそう聞くと。


「ぜんぜん!むしろ、殺されなかっだけツイてるよ」

「そうですね。そ、それよりも、ケイ様。凄く格好良かったです//」

「そっか。エンリもありがとね。さてと、じゃあ、行こっか」


 なぜだか、さらに目がキラキラし出したふたりを連れて、宿屋へ歩き出した。


 結局、後ろの方でコソコソしてるのは、別口だったかぁ。









 ◆◆◆◆◆



 俺のコードネームは、スレイ。

 皇帝陛下直属の闇集団、ナンバーズに所属している暗殺者(アサシン)だ。

 今回の任務は、例の勇者と共に旅立ったリーザ皇女を、できるだけ陰から護衛することだった。

 だが俺は、暗殺者だ。

 人を守るというのは専門外。

 そこでこの任務のパートナーに選んだのが、同じナンバーズの治癒師シグスだ。

 治癒魔法に秀でた人材で、もしものときの為にということだ。

 だが──。


「凄いわね、あの勇者。時空系の魔法を使ったわよ。これは、私たち必要ないかもしれないわね。……スレイ?」

「……あいつ。俺たちに気付いていやがった」

「ほんと!?この距離よ?私たちの気配に気付くって……」

「間違いない。金髪の男を蹴り飛ばした後、俺に視線を合わせてきやがった。まるで、お前も来るのか?って言われてるようだった」

「そう。……やっぱり化け物なのね」

「陛下から聞いていた通りということだな。だが、ここで大人しく帰るわけにはいかない。任務は必ず完遂する」


 その言葉を最後に、ふたりの男女は闇夜に紛れていく。









 ◆◆◆◆◆




 僕は、宿屋の前で唖然としていた。

 いや、宿屋っていうかホテル?

 それも、日本の某五ツ星ホテル並みにデカい。

 西洋のホテルという感じで品が凄いし、巨大な立て看板には、【貴族様御用達。最高級宿屋『流氷亭(りゅうひょうてい)』】と書いてある。

 もちろん、このクラスのホテルに泊まったことはあるので萎縮しているわけではない。

 ただ、懐が心配なんだよね。

 決闘で稼いだ?お金もそんなに多くはないし。

 あのお姉さん、余計なことを……。


「どうしたの?早く行こっ!」

「ケイ様。早くしないと寝るのが遅くなってしまいますよ」


 ふたりは全然気にせず、宿屋に入っていく。

 ここにはよく来るのかもしれないな。


「まぁ、足りなくてもなんとかするか」





 僕たちが宿屋に入ると、そこは天井が高くだだっ広いロビーだった。

 僕がキョロキョロ周りを見回していると、奥にある受付から、白黒のスーツをピシッと着こなしたイケメンが、流れるような動作で近付いてきた。


「ようこそ、『流氷亭』へ。当宿屋へお越しいただき誠にありがとうございます。支配人のハーウェンと申します。本日はお泊まりでよろしいでしょうか?リーザ様」


 スルスルと入ってくる綺麗な声でそう言う支配人。

 やっぱり、常連なのかな?


「ええ。一部屋ツインで空いてるかしら?もちろん一番大きなお部屋ね」


 普段、僕と接するときとは全然違う態度と言葉遣いで話すリーザ。

 なんかこれ、ギャップ凄いね。

 それに、ツインか……。

 ま、まぁ、ベッドが別なら大丈夫かな?

 ふたりは一緒に寝るのか。それともメイドは別なのか?

 僕が色々想像している間にも話は進む。


「かしこまりました。それでは、お部屋までご案内致します。どうぞこちらへ」


「あぁ、その前に。ここってどのくらいかかるの?」


 僕の簡潔な質問に対して。


「リーザ様のご友人からお金などとるつもりはございません。常日頃から贔屓にさせて頂いておりますので」


 あぁ、なるほど。大丈夫というのはこういうことか。

せっかく稼いだけど、Dランク冒険者の持ち金程度ではどうにもならないし、ここはお言葉に甘えよう。

 あの決闘が無駄になった気がしなくもなかったが、あって困るものでもないので、特に気にしないことにした。








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