第17話 冒険者登録
タイトルを変更しました。
心を読むのは、あまり重要ではないので。
覚えてない、知らないという方はお気になさらずに。
ケイ一行を、建物の影から観察している者たちがいる。
四人組の男で、チンピラのような風貌をしていた。
「ほんとにあれが皇女なんだろうな?違いましたじゃ、すまさねえぞ」
「間違いない。第5皇女リーザ・ベイ・バーサスの姿絵と一致する。それに、メイドも連れているしな。あれは皇宮のメイド服だ」
「ハハハ。そんなら、絶好の好機じゃねぇかよ。一緒にいる剣を携えているのは女、いや、男か。あれも、顔はなかなかだ。美少年てのも需要があるからな。ツイてるぜ」
「ああ。護衛がいないのは謎だが、たしかに好機だ。奴等が、人のいない所に入ったら仕掛けるぞ」
「「「あぁ!」」」
そしてその更に後方には、黒ずくめの男女がいた。
彼らの身のこなしは、前方にいる男たちとは比べ物にならないぐらい洗練されたものだ。
現に、街中にもかかわらずふたりの姿を捉えられた者はいない。
「どうするの?明らかに、皇女様たちを狙ってるけど」
「陛下から下された命令は、リーザ皇女を陰から守ることだ」
「そうね。じゃあ、あのゴロツキは始末するの?」
「ふふ、いや。良い機会だ。あの陛下を下したという勇者の力を見せてもらおう」
「なるほど。それは私も気になってたわ。本当にあんな坊やがって。……気付いてるのかしら?」
「さぁな。まったくそういう素振りはないからわからんが、もし気付いてなかったとしたら、期待外れだな」
「そうね」
◆◆◆◆◆
帝都リージアの中央に聳える皇宮から東に行った所に、外壁のとなりに鎮座している巨大な建造物がある。
皇宮に次ぐ大きさを誇っているそれは、バーサス帝国冒険者ギルド本部である。
帝国軍全軍を持ってしても、冒険者ギルド全戦力には遠く及ばない。
各国の首都に本部を持ち、それぞれの街に支部を置く超巨大組織だ。
冒険者ギルドは、独自のシステムを構築し、国等の権力に縛られない戦力と発言力を持ち、確固たる地位を築いていた。
僕たちは、そんな冒険者ギルドの前まで来ていた。
この辺りは、血気盛んな人たちが多い。
バッカスの爺さんが言っていたことのないように。
そんなことを祈りながら、僕は冒険者ギルドの門をくぐった。
そこは、僕が知識として知っていたギルドそのままの感じで、嫌いではない雰囲気を放っている。
正面にはいくつかの受付があり、大勢の冒険者が順番待ちをしている。
右側には依頼ボードと書かれた大きなボードに依頼書がたくさん貼り付けられていて、その付近にはソファがいくつかある。
左側には、酒場が併設されていてガヤガヤと酒盛りをしている人たちでごった返している。
既に夕方とあって、ギルド内は人で溢れていた。
来る時間を間違えたかもしれないが、明日には帝都を出るのでしょうがない。
「じゃあ、ふたりも一応登録するんでいいんだよね?」
「うん。身分は隠した方が良いと思うし。それに私、強いんだよー」
そう言って力こぶを作って、強いアピールをしてくるリーザ。
やっぱり、可愛い。
僕がナデナデナデナデしていると。
「おい!ここはガキがくるとこじゃねんだぞ!とっととママのとこへ帰れ!」
そう言ってわかりやく絡んでくる厳ついオッサン。
まだ20代な気がするけど、僕から見たらオッサンだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「僕がいるから、リーザは戦わなくていいよ。それより、ギルド登録ってお金とるの?」
「ううん、お金はいらないよ。再発行は高いけどね」
「そっか。なら安心だね」
そうな風に、僕がリーザを愛でながら楽しく会話をしていると。
「てめぇ、ガキがシカトこいてんじゃねぇ!」
プルプルと体が小刻みに震えている男が、そんなありふれた喧嘩文句を晒しながら、エンリに手を触れた。
おそらく、僕の前にいるエンリを突き飛ばそうとしたのだろう。
だが男は、地面にキスをすることになった。
エンリの肩に触れた瞬間、綺麗に投げ飛ばされたのだ。
「──は?」
ズドォーン!!
「リーザ様が甘えている時間です。邪魔しないでいただけますか?」
(やっとケイ様のお役に立てました。これで、私もリーザ様のように……)
うん。さすがエンリだ。
ちらっと見たら、この男は戦闘系では身体強化スキルしかない。
まぁ、当然の結果だね。
そして、周りの視線がエンリに集まっている。
二回りも体格の違う男を投げ飛ばしたらそうなるよね。
エンリが可愛いというのもあるのかもしれないが。
「凄いよ、エンリ。ありがとう」
僕は素直に感謝を示して、エンリの頭を優しく撫でる。
実は、エンリを愛でるのはこれが初めてだったりする。
そのせいか、エンリの目がトロンとしてヤバい感じだ。
「すげえな、あのメイド。なにもんだ?」
「どっかの貴族の子供か?あのふたり」
「ふん!Dランク風情をあしらっただけで、騒ぎやがって」
周りの冒険者が色々言っている。
ふむ。こんなのが、一人前扱いされるDランク冒険者なのか。
冒険者の力量に少し期待していたのだが、これでは最高のSランクも大したこと無さそうだなぁと、しみじみ思っていた。
「この、クソアマァ!!」
体をまたプルプルさせて立ち上がった男は、そんなことを叫びながら腰に差している剣を抜いた。
抜いてしまったのだ。
「ほぉ。俺がいるギルド内でそいつを抜くとは、覚悟はできてるんだろうな?」
そう言って、薄い服を着ているだけのマッチョな男が割り込んできた。
鎧とかローブを着ている冒険者たちの中にいて、かなり目立つ格好だ。
「ハイドン!?」
驚いた声でマッチョの名前を呼んでいる男。
なんかこのマッチョがDランクの相手をしてくれるみたいなので、僕たちは受付に行くことにした。
ふたりを愛でていたら、いつの間にか前に並んでいた人たちがいなかったのだ。
受付には、茶色のフワフワした髪の毛をポニーテールにしている綺麗なお姉さんがいて、現在進行中のいざこざを呆れた様子で眺めていた。
やっぱり、受付嬢は美人さん限定なんだね。
「すいません。僕たち冒険者登録したいんだけど、ここでできる?」
僕がそう話しかけると、受付嬢は大層驚いている。
「え?えっと、登録ですか?依頼ではなく?」
そんなことを聞いてくる美人受付嬢。
なぜ依頼だと?
(どこかの貴族様の子弟なのに冒険者に?)
なるほど。
エンリを連れてるから、貴族の子供だと思ったのか。
でも、ここで時間を潰しているわけにはいかない。
もう外は暗くなりつつあるし、明日の朝一で帝都を出るつもりだからね。
「うん。冒険者になるために来たんだ。あと、これから宿探さないとだから早めにお願い」
「わかりました。宿でしたら、ギルドがおすすめをご紹介できますが」
「本当?じゃあ、お願いしようかな」
「かしこまりました。では、登録から先に済ませますね。……二人共でしょうか?」
そう聞きながら、下の引き出しから何かの用紙を取り出したお姉さん。
「いや。メイドのエンリもだから、三人だね」
「!?メイドさんもですか?かしこまりました。では、こちらの用紙に必要事項を記入してください。代筆は大丈夫ですよね。あぁ、スキルを書く欄は自由で結構ですよ」
そう言って渡してきた書類の欄内を埋めていく。
名前、種族、性別、年齢、今暮らしている場所、経歴、そしてスキル名を箇条書きする欄がある。
最後の三項目は空欄にした。
宿は未定だし、経歴もないし、スキルは書くのめんどいからね。
リーザとエンリが書き終わるのを待ってから、三人まとめて提出した。
これで無事登録できたらしい。
その後、白のシンプルなギルドカードを貰ってから、冒険者ギルドについての説明を受けた。
「──冒険者には、ランクというものがあり、それが上がれば上がる程、危険で高収入な依頼を受けられるようになります。ランクは下から、F、E、D、C、B、A、Sの七段階あります。Sランクの上にもSSランクというのが一応あるのですが、それは歴史上でもたったひとりしかいなかったので、伝説のランクとされています。そしてランクを上げるには、自分のランク以下の依頼を受けて規定の回数達成するかギルドに貢献する必要があります。後者は稀ですので、基本的には依頼を達成させていれば、ランクは上がっていきます。……何か質問はありますか?」
「う~ん。たぶん大丈夫だと思う。ありがとう」
「いえいえ。依頼ボードのとなりに冒険者に関する本が置いてありますので、わかないことがあれば読んでみるといいですよ。もちろん、私たち受付嬢に聞いてくださってもかまいません」
「うん。時間があったら見てみるよ」
明日には帝都を出ていくから見れないけどね。
ギルドって、他の街でも作り同じなのかな?




