第16話 相棒"紫怨"
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ケイ・サガラ(異世界人)
種族:人族 性別:男 年齢:16
ジョブ:勇者(召喚)
魔法属性:火 水 風 土 雷 光 時空
スキル:世界共通言語 神眼 スリ[Lv.1] 身体強化[Lv.5] 武術[Lv.2] 剣術[Lv.2] 回避[Lv.1] 居合[Lv.1] 威圧[Lv.5] 速読[Lv.3] 詠唱破棄 高速思考
称号:私立開豊高校一年生
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これが今の僕のステータス。
前回見たときより、かなり変わっている。
魔法関連は、皇宮の書庫にあった魔法書を大量に読んでいたので、勝手に入手できたんだね。
途中から読む速度が異常に速くなっていったのは、速読スキルを獲得していたからか。
スキルを使って全力で戦ってみたいけど、今それをするのは拙い。
ケイは、スキルを一度切ると丸太の手前まで行き、刀を上段に構えた。
そして、丸太の右斜め上から左下へ流れるように振り下ろす。
所謂、袈裟斬りと呼ばれる基本的な技だが、基本故にその者の実力が簡単に表れる。
ケイが斬った丸太には、切れ目すらなく、ずれ落ちる様子もない。
だがそれから10秒程して、丸太に斜めに線が入り、上半分がゆっくりと地面に落ちていく。
超一流の剣客は、数秒は斬ったことすら悟らせないという。
まさに達人の領域である。
そこに、スキルを使って強化などすれば、人類の域を軽く凌駕してしまうのは必然なのだ。
「す、凄いです!さすが、ケイ様です!」
「ケーイ!かっこいいぞー」
そう言って僕の胸に飛び込んできたリーザを愛でながら、刀を鞘にしまう。
「こりゃ、たまげたわい。ここまで刀を扱える人間は、『アヅチ』でもそうはおらんぞ」
「……アヅチ?」
「なんだ、知らんのか。アヅチ皇国っつう島国が東の方にあるんじゃよ。そこには"侍"ってジョブの、刀を携えた輩が多いのぉ」
へぇ。なんだか昔の日本って感じがするね。
茜を見つけたら、行ってみたいかも。
裏庭で試し斬りをした後、僕たちは工房の中を見て回っている。
バッカスは、取ってくる物があると奥に行ってしまったので、待っている間色々物色していた。
工房の入口付近には、様々な武器類が置いてある。
剣、槍、斧、弓、杖、鞭等々。
だがここでは売らずに、武器屋に卸すか、特別な注文があったときだけってことらしい。
僕が、切れ味の良さそうな短剣を見ていると、バッカスが一本の刀を持って戻ってきた。
「待たせたのう。これが、ワシが昔作った最高の刀じゃよ。未だにこれを越える刀は打てておらん。こいつを十二分に扱える奴に今まで出会えなかったが、お主なら平気じゃろうて」
バッカスはそう言って、僕の前にその刀を見せてくる。
鞘は綺麗な紫色で、縁が黒い。
柄は銀色で、見た目はかなりかっこいい。
それに、この刀から力強いオーラみたいなものを感じる。
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対象:紫怨(魔刀)
説明:鍛治師バッカスが打ったこの世にひとつしかない魔刀。血を吸う毎に斬れ味が増し、斬った相手の魂を削っていく。使い手の精神が弱いと、その者の魂をも削る。
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こわっ!この刀、こわいよ。
なんか、絶対殺す相手以外では危なくて使えないでしょ。
「バッカスさん。この刀、僕にとっては不便な気がするんだけど……」
「ほぉ。鑑定を持っておったか。なーに、こいつを持っても魂を削られなければ、損をすることはなかろう。そのうち、役に立つときがくるじゃろうて」
「そうかな?まぁ、一流の鍛冶師がそう言うなら」
「坊主違うぞぉ。超一流じゃ!」
あ、さいですか。
どっちでもいいけども。
まぁ、くれるというなら貰っておこうかな。
そう思って、刀に手を伸ばそうとしたとき。
「そうじゃのぅ、エンちゃんの頼みじゃし、十万ガントにまけておこうかの」
「金とるの!?」
「なに当たり前のことを言っとるんじゃ。ワシはボランティアじゃないんじゃぞ」
まぁ、それもそうか。
バッカスが譲る雰囲気で取り出してきたからさ。
それにしても、十万ガントってことは百万円か。
このランクの刀にしてはかなり安いから、エンリ効果が凄いってことかな。
でも、手持ちがない。
手持ちというか一ガントも持っていない。
ここは、やっぱり冒険者登録して金稼いでから戻ってくるかな、と思ったとき。
「ケイは勇者で、これから魔王討伐に行くのよ!金取る気かしら?バッカス!」
リーザがバッカスに対して、怒っている。
僕以外と話すとき、口調が変わるんだよね。
そこがまた可愛くはあるのだけど。
でも、それは関係な──。
「なんと!そうじゃったのか!どうりで……。ならば、金などいらぬ。魔王を倒した刀を打った鍛冶師としてワシは後世に語り継がれることになるのう」
そんなことを言って、嬉しそうなエロジジイ。
関係あったのか。
さすが、リーザだ。あとで存分に愛でよう。
無事、武器を入手した僕たちは次の目的地、冒険者ギルドに向かっていた。
刀──紫怨はもちろん僕の左腰に差している。
刀を腰に差して、街中を堂々と歩いてみたかったのだ。
日本じゃ、ハロウィンで偽物を差して歩くのが関の山だし。
ん~。実に気持ちいい。
「ケイ様、ご機嫌ですね。そんなに刀を貰ったのが嬉しいのですか?」
「ほんとほんと!そんなに良いの?それ」
ふたりが不思議そうに聞いてくる。
ふっふっふぅ。刀の魅力が分からないとはね。
「まぁね。早く茜に自慢したいよ。ふたりとも、さっさと魔王を倒してフィーリア王国に行くから」
「うん!」「はい!」
ふたりの元気な返事を聞いた僕は、後ろの方でコソコソと後を付けている者たちを無視して、冒険者ギルドを目指す。




