第15話 出発とエロジジイ
翌日、僕は、リーザ、エンリと共にリーガンの書斎を訪れていた。
「それで、話しってのはなんだ?まぁ、察しはついてるが」
リーガンが軽く溜息を吐きながら、そう聞いてくる。
察しがついてるなら話しは早い。
「今日、皇宮を出ようと思う。もちろん、このふたりも一緒に」
僕がそう言うと、リーガンの目付きが鋭くなる。
「なに?ふたりもか?それは、連れてってかまわん!と言うと思うか?」
「うん。リーガンは僕の力の一端を見た。ふたりを連れてっても特に問題はないはずだし、僕との繋がりを守るためには良いと思うけどね」
「ハハハ、たしかにな。よくわかってんじゃねぇか。いいぞ、連れてっても。だが、リーザに手ェ出すんじゃねぇぞ」
そう言うと、リーガンの強い殺気が、僕を叩きつけてくる。
だが、そんなの知らないとばかりに立ち上がろうとしたとき。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「俺だ、リーガン!入るぜ」
そう言って部屋に入ってきたのは、アシッドだった。
「ん?なんだ、坊主、いたのか。話し中だったか?わりぃな!」
僕にそう言うとズカズカと部屋に入り、となりに無遠慮に座ってくる。
悪いとか絶対思ってないよね。
「いや、今終わったとこだから。じゃあ、リーガン、僕たちは行くよ」
そう言って、腰を上げようしたとき、僕の肩をアシッドに抑えられた。
「まぁまぁ。坊主も聞いてけよ。魔王に関する話しだぞ?興味あんだろ」
あぁ、そういえば、アシッドは魔王討伐に行ってたんだっけ。
すっかり忘れてたよ。
あれ?魔王の配下だっけ?まぁ、どっちでもいいか。
「え、特にないけど」
「じゃあ、エルフになら興味あるか?」
「──ッ!?」
エルフ?
魔王に関する話しなのにエルフが関係あるの?
「ハハハ。こっちには興味ありそうだな」
エルフの話しとあっては、茜のこともあるし聞いといた方がいいかな。
「じゃあ、少しだけ。どうでもよかったら出てくから」
「あぁ、やっぱりもう行くのか。その様子じゃ、リーザ嬢もか」
アシッドはリーザに少し視線を移すと、すぐにリーガンの方に向き直る。
「意外と早かったな、アシッド。それで、どうだった?」
リーガンにそう尋ねられ、アシッドは事の顛末を話し出した。
「──その後、ミザイアへ向かったら、街ん中には、少しの魔物しかいなかった。そんときは、あのダークエルフの行動が謎だったんだが、昨日調べてわかった。ありゃ、時間稼ぎだったぜ。街にいた30人近くのエルフの奴隷が死体で見つかった。ミザイアにいた魔物も陽動だな。奴等の狙いはエルフだった」
「そうか。他の街でも似たようなことがあったな」
「あぁ、他国の冒険者ギルドに問い合わせてみたが、最近、エルフの被害が異常なくらいに高くなってるらしいぜ」
「となると、やはり魔王の狙いは──」
「リーガン」
僕はたまらずふたりの会話に割って入る。
「なんだッ!?」
(おいおい。何殺気立ってんだ。リーザとエンリが苦しそうじゃねえか)
僕はそのリーガンの心の声を聞き、瞬時に自分を落ち着かせる。
「リーザ、エンリ。ふたりとも、ちょっと席をはずしててくれない?すぐ終わると思うからさ」
僕が、優しい声を心掛けてそう言うと、ふたりは僕がなぜ怒っているのかわかっていたようで、頷くとすぐに部屋を出ていった。
「さて。それで、リーガン。その魔王って奴の狙いがエルフだって?」
(このガキは……ふたりが出てった途端にさっき以上の殺気を放ちやがって!いったい何だってんだ)
「あ、ああ。まず、間違いない。アシッドが戦ったというダークエルフの目的かもしれないが」
「そう。わかった。僕がその魔王を倒そう。ついでに、そのダークエルフとかいうのも。どこにいるの?」
僕がそう言うと、ふたりは口をあんぐり開けて固まってしまった。
ようやく再起動したふたりから、魔王アゼルヴァイスのいる場所を聞いた僕は、ふたりにお礼と挨拶をして部屋を出た。
「まさか、リーザも連れていくのか!?」と聞かれたが、僕がこう返したら黙って見送ってくれた。
「僕の周りが、最も安全な場所だ」と。
リーガンの書斎を出た僕は、リーザ、エンリを連れて皇宮を出ていく。
「ごめん、リーザ。先に魔王討伐に行くことになったよ」
「大丈夫だよ。アカネが狙われるかもしれないもんね」
「うん。エンリも悪いね」
「いえいえ。リーザ様とケイ様が行く所に付いていくだけですので」
僕たちがそんな話しをしていると、皇宮の門に辿り着いた。
皇宮ってこんなに大きかったのか。
日本の有名な城を、ふたつ重ねたぐらい大きい。
そして門の前には、見送りに来てくれた人たちがいた。
フイーネ、ロイド、メリア、カイル等々。
全員と握手して、一言二言交わしてから、皇宮を出ていく。
ここでは、メリアの心の声が凄かったと言っておこう。
◆◆◆◆◆
僕たちは、バーサス帝国帝都『リージア』のよく舗装された道を歩いている。
西洋の街並みにどこか近代的な建築が合わさって見事に調和されている、美しい街だ。
目的がなければ、何年か住んでみたいと思わせられるほどだった。
僕たちは、エンリの案内で、帝国一と名高い鍛治師の工房を訪れた。
さすがに丸腰で、魔王討伐に行く程舐めてはいない。
ちゃんとした刀を手に入れてから行くつもりだ。
「ごめんくださーい!バッカスさんはいらっしゃいますか?」
扉を開けて、エンリがそう言うと。
中から、口ひげをボウボウに生やしたおじいちゃんが出てきた。
おじいちゃんと言っても、筋肉が凄く眼光も鋭い。
未だ現役だと言わんばかりに、逞しい体つきをしている。
「おぅ。エンちゃんじゃねぇかい。またアシッドの坊主のお使いかいな?」
途端に鼻の下を伸ばすおじいちゃん。
なるほど。エロジジイか。エンちゃんって……。
武道の世界にも、こんなのたくさんいたっけなぁ。
「いえ。今日は、ケイ様の為に刀を打ってほしくて、こちらに参りました」
「──ケイ?」
途端におじいちゃんは、胡散臭そうに僕をジロジロ見てくる。
そして、僕の品定めが終わったのかようやく口を開いた。
「お前さん、見かけによらず出来そうだの。無知な輩が、挑んでは返り討ちにされおる、ありがちな展開がよく発生しそうな坊主だわい」
それを、人はテンプレという。
ってやかましい!このじいさんめ!
「ほほほ。お前さんならまぁええかの。エンちゃんの頼みだしの。………リーザ様かいの?」
「お久しぶり。相変わらず、元気みたいね」
今頃、リーザに気付いたおじいちゃん──バッカスは大慌てでリーザに深いお辞儀をしている。
まぁ、この小動物は皇女だからこれが当然の反応か。
「いやーたまげたわい。まさか、リーザ様がこんな所に来られるとはのう」
「私のことは気にしないで。それより、ケイに良い武器をお願い」
「それはそれは。わかりました。じゃあ、坊主!裏庭に来い」
そう言ってスタスタ歩いていくバッカスの後ろを付いていきながら、神眼を発動する。
***
バッカス
種族:人族 性別:男 年齢:82
ジョブ:鍛治師
魔法属性:火 土
スキル:身体強化[Lv.4] 回避[Lv.2] 剣術[Lv.2] 斧術[Lv.4] 鍛冶[Lv.4] 武器鑑定[Lv.3] 鉱石鑑定[Lv.3] 錬金術[Lv.2] 魔法付与[Lv.2] アームレスリング
称号:バッカス工房店主
***
おぉ、さすが年の功。
平民なのにアシッドを坊主呼ばわりできるわけだよ。退役した元騎士とかかな。
このアームレスリングって何だろう。
***
対象:アームレスリング
説明:任意発動型の腕力強化スキル。一定期間、腕力のみを大幅に上昇させる。3時間のクールタイムが必要。
***
ふむ、なるほど。
鍛治師とかだったら案外便利なのかもね。
工房の裏にあったのは、20m四方はありそうな大きな庭だった。
庭の隅には、倉庫や色々な道具が置いてある。
地面には、案山子や丸太が間隔を開けて立っていた。
「ここが、うちの裏庭だ。ほれ、これ使ってあの丸太斬ってみい」
そう言って、バッカスが渡してきたのは打刀と呼ばれる一般的な日本刀だ。
この世界でも刀に出会えるとは、少し感動した。
「それは、見習いが打った安もんだから、気にせんでええぞ」
僕は小さく頷くと、鞘から刀をゆっくりと引き抜く。
ん~。この感じ、たまんない!
よし、さっそく試し斬りさせてもらおうかな。
僕がそう思ったとき、ある光景がフラッシュバックし、嫌な予感がした。
ステータスオープン!
***
ケイ・サガラ(異世界人)
種族:人族 性別:男 年齢:16
ジョブ:勇者(召喚)
魔法属性:火 水 風 土 雷 光 時空
スキル:世界共通言語 神眼 スリ[Lv.1] 身体強化[Lv.5] 武術[Lv.2] 剣術[Lv.2] 回避[Lv.1] 居合[Lv.1] 威圧[Lv.5] 速読[Lv.3] 詠唱破棄 高速思考
称号:私立開豊高校一年生
***
………やっぱりか。
なんか体が超軽いと思ってたんだよね。
このまま、全力で斬らなくてよかった。




