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第09話 バーサス帝国皇帝

 

 (とき)は、ケイが目を覚ます一時間程前まで遡る。


 ここは、バーサス帝国皇宮の最上階にある一室。

 この部屋でひとりの男が積み上げられた書類と格闘していた。

 銀色の髪で、彫りの深い顔立ちをしている初老の男だ。

 彼の名は、リーガン・ベイ・バーサス・エンペラー。

 バーサス帝国第12代皇帝である。



 コンコン。

 ふいにドアをノックする音が聞こえる。


「入れ」


 ガチャ。

 ドアを開けて誰かが入ってくる。

 リーガンは書類に目を通しながら入ってきた人物に話しかける。


「決済ものが多すぎるぞ、少し減らんのか」

「リーガン様。(ワタクシ)ですわ。アシッドもおります」

「おぉ、なんだ、フィーネか。ふたり揃ってどうかしたか?」


 リーガンはフイーネの存在を認めると、やっと休憩できるとばかりに机の前にある向かい合っているソファの片方にどかっと座った。

 ふたりは苦笑いしつつ反対のソファに座る。


「相変わらずお忙しそうですわね。実は、先程勇者を召喚しまして」

「ああ、そうだったな。どんなやつだ?使えそうか?」

「それが……」

「リーガン。それは俺から話す」


 アシッドがそう言うと、勇者を召喚してからの経緯を話し出した。





「──なに?カイルが負けたのも信じがたいが、お前が負けた?喚んだばかりの小僧にか?」

「あっはっはっ。ありゃ完敗だったわ。直前まで勝ったと思ってたんだが、気付いたら壁に激突してたわ!約束を破って風の魔法も使って速度を上げたってのに、剣筋もまったく見えなかった!一対一じゃ、リーガンでも厳しいんじゃねぇか?」

「ほぉう──」


 途端にリーガンの目付きが鋭くなる。

 眼力だけで人が殺せそうなほど鋭い。

 このリーガンの顔を見て、フィーネとアシッドは慌てる。


「だ、だからな。あいつには俺との約束で自由にしていいことになった。だから、明日には」

「ふん。そんなもんお前とその勇者の決闘だろう。俺は負けてねえ!お前を倒すほどなら、東方諸国のハエどもの掃除にも役立ってくれそうじゃねぇか!よし、俺がそいつを倒して直属の部下にしてやる!」


 リーガンはそう一息に言うと、立ち上がりずかずかと部屋を出ていこうとする。


「ちょ、ちょっと待て!立会人を立てた決闘だ。そんな簡単に約束を──」

「お前だって破ったんじゃないのか?」

「あ………」


 フィーネは盛大にため息をつくと、心の中であの黒髪の少年に謝った。










 ◆◆◆◆◆



 僕が目を覚ますとそこには、この国の皇帝がいた。

 その皇帝は、鋭い目で僕を凝視してくる。

 アシッドを倒したと聞いてわざわざやって来たのだろうか。

 あのふたりがどうにかするんじゃなかったっけ?


「俺は、リーガン・ベイ・バーサス・エンペラー。このバーサス帝国の皇帝だ」

「それはどうも。僕は相良、ああいや、ケイ・サガラ。よろしくリーガンさん」


(話で聞いていた通り生意気なやつだな。こいつがアシッドを……人は見かけによらんな。まぁいい、こいつを倒して軍事利用させてもらうか)


 は?軍事利用?

 何よりも優先される目的のあるこの僕を?

 僕はその心の声を聞いて、ずっと働いていた理性を飛ばす。


「お前も僕の邪魔をするって?」

「──ッ!?」


 刹那、ケイの拳が空を切り裂きリーガンの鼻先で寸止めされた。

 音を置き去りにした超速の右ストレート。

 そして、遅れてきた風圧がリーガンの髪をもの凄い勢いで後ろへ流す。

 少しでも力を抜けば、背中から壁に激突する。

 もし直撃していれば、首から上が無くなっていたかもしれない。

 そう思わせるほどの、威力を孕んでいた。


「次は当てるけど、どうする?」


 それから数分もの間、リーガンは唖然とケイを凝視し続けていた。



(な、何が起きた。瞬きなどしていない。気付いたら目の前にこいつの拳があった。これから戦おうと思って来たんだ。あいつに勝ったというし油断などもしていない。それを……)


 リーガンはひとり思考の迷路をさ迷い、ようやくゴールに行き着く。


「ふふ──ふははははははははっっ!面白い!あいつらはとんでもないもんを喚んだらしいな!この俺が反応すらできんとは!いったいどうなってんだお前は?」


 え、そんな反応?

 とんでもないもんとは失礼じゃないか?


「はぁ、ここまで笑ったのは久々だな。……いいだろう。善悪の魔眼で悪人じゃないことはわかってるからな。あぁ、ここで言う悪人ってのは俺の害になる奴のことだ。お前はそのうち、俺の利になる行動をしてくれるかもな。つーわけで、しばらく皇宮に滞在してくれても構わん。もちろん嫌ならさっさと出てってもいい。ただし、出ていく前にひとつ確認させてくれ」


 善悪の魔眼か。そんなのがあったね。


 ***

 対象:善悪の魔眼


 説明:魔眼スキルのひとつ。効果は善人か悪人かを見分ける。その判断基準はスキル所持者によって異なる。

 ***



「確認?」

「あぁ。もし他国に行った場合、その国にお前は力を貸すか?つまり、国同士の戦争に介入することがあるか?」

「そういうことか。つまり、バーサス帝国からしたら僕を相手にしたくないわけね」

「そうなるな。今の帝国で俺より強いのはひとりしかいない。そいつでもお前に勝てるかは怪しい。だからお前がでしゃばってくるってんなら、その国との戦争は避けたほうがいいと思ってな」


 でしゃばってくるって……。

 まぁ、成り行きでどうなるかはわかんないけど。

 ていうか、僕に勝てるかわからないぐらい強い人がいるのか。


「もし僕が気に入るような国や町があったら守るためには戦うかもしれない。攻めはしないと思うけどね、余程のことがない限りは」


 僕は語尾を少しトーンを落として話した。

 つまり、僕が怒るほどのことをするんじゃないぞと。


「う、うむ。そうか、わかった!それだけ聞いておきたかったんだ。ああ、風呂だったな!皇宮の風呂は最高だぞ!ゆっくりするといい」


 最後にそう言うと、ご機嫌そうに部屋を出ていった。

 殺されかけたのになんで機嫌がいいのか。

 なんか嵐のような人だったよ。

 疲れた~。











 ◆◆◆◆◆



 空気のように部屋の隅で一部始終を見ていたメイドのエンリは、頬をほんのり赤くして勇者様──ケイを見つめていた。


 か、かっこいい!


 いつ動いたのかわからなかったけど、あのリーガン様が負けたの?

 さっきからずっと勇者様から目を離せないでいた私と、ふいに目が合う。

 突然のことに、心臓が跳び跳ねたように錯覚した。


「あれ、エンリさん。お風呂の準備できたの?」


 …………はっ!だめよ、エンリ。

 ちゃんと仕事をしないと!

 私は心を強引に切り替え、努めて平静を装う。


「はい。それにしてもさすがは勇者様です!まさかリーガン様が戦意を失って帰っていくとは思いませんでした!」


 いけない。こんなこと言うつもりじゃなかったのに。

 あ、勇者様が苦笑いしてる~。

 かわいい……じゃなかった。


「お風呂ですね!ご案内しますので付いてきて下さい」





 私は皇宮の廊下を、勇者様を連れて歩いている。


 さっきは全然気にならなかったのに、今は勇者様に後ろ姿を見られてると思うと……なんだろう、顔が熱い。

 熱でも出たのだろうか。

 案内しなくてはいけないお客様がいるのに、風邪をひくなどメイドとしてあるまじき行為だわ。

 早くお風呂まで案内して、ちゃんと仕事を成功させないと。


 主に仕えるメイド一筋のエンリにとっては、人生で初めて生まれた感情に内心物凄く戸惑っていた。









なんか皇帝が尻尾巻いて逃げた感じになってしまいましたが、この人はとんでもなく強いです、はい。

いずれこの人の無双シーンは書きたいですね。


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