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無題

作者: 高森和光

 目的地の最寄駅で、改札を通らず反対方向の電車を待っている。れっきとした不正乗車だが、この際どうでもいい。というか、どうしようもない。財布を忘れたのだ。気づいたのは二駅ほど前でのことだった。乗り越しになるので、その分のお金を出しておこうと鞄に手を突っ込んだ。しかし、いくら弄っても財布が出てこなかった。定期券のチャージ額は70円で、到底運賃には足りない。現金でないとチャージできないのでもう為す術なし。家に帰る以外の選択肢は無かった。『忘れたと早とちりしただけで実は鞄の奥にあるのでは』と期待し即落胆すると、ちょうど二駅分が過ぎて降りる駅に到着し今に至る。自宅から一時間半ほどかけてやって来たここでの滞在時間は、わずか五分足らずだった。

 プラットホームの反対側に入ってきた電車に乗り、空いた座席を見つけたが、タッチの差でサラリーマンに先を越されてしまった。人間大したことでなくても、不運が続くとすぐ悲観的になるらしい。座席を確保できてホッとしているサラリーマンの目の前で、深くため息をついてしまった。よほどこちらが酷い顔をしていたのか、そのサラリーマンはばつが悪そうに席を立って空いた席を手のひらで指した。ふと我に返って、自分がみっともないことをしたことに気づき、軽く頭を下げて断りを入れ、隣の車両に逃げるようにしてその場を去った。さっきのフルーツバスケットはなんだったのかと思うくらいに隣の車両は空いていて、僕はドア横の端の席に腰を下ろした。 

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