プロローグ
朽ち果てた王城跡にひとりのプレイヤーが立っていた。
黒髪に長髪純白の衣を羽織り、腰に差した2つの紅き鞘に収められた刀…その雰囲気から熟練者と誰もが感じる程だ。
そうここは、魔法も魔物も存在する仮想現実世界「ガルバロスオンライン」の中なのだ。
仮想現実世界「ガルバロスオンライン」…少し前に全世界で大ヒットした。オンライン・フルダイブヴァーチャル・RPGの数ある中一つ。
ストーリーもそこら辺にあるような王道RPGで、突如と現れた魔王により魔物が狂暴化し人間世界を襲い始めた事により人類が滅亡の一途を辿る、それを阻止する為に立ち上がったのが…全世界にいるプレイヤー達と言うストーリーだ。しかしその設定にリアル差を出す為、ゲーム内で死んでしまうと今までプレイデータを失ったしまう事で糞ゲーとして有名なゲームである。
そして、目の前にはこのゲームの裏ボスとも言われ幾度者のプレイヤーが挑み未だに討伐されていない超高難易度モンスター終焉魔龍アジダハが、立ちはだかっていた。
<アジダハは三つ首のドラゴンで不死に近い生命力の持ち主、鉄より硬い鱗は如何なる名剣も刃が立たない>(各ステータス値が高い値で安定しているため、強さは魔王に匹敵する。)
「よくぞここまで辿りつけた事を褒めてやろう。強き者よ我にその強さを見せよ」
面をゆるがすような低く恐ろしさを感じるような声で放たれた。
そしてその声が消えたと同時に咆哮が周囲に鳴り響いた。
「マジかよ!?早く動け!!」
アジダハの咆哮は、【覇剛な咆哮】とも言われ普通の魔物やモンスターの咆哮は、ステータスにある聴覚スキルと闘気スキルに一定以上達していれば効かないのだが…【覇剛な咆哮】はレベルMAXで全てのスキルコンプしていても関係なく、数秒間プレイヤーを気絶状態にし防御力低下を引き起こす最悪の咆哮なのだ。
「とんだチートモンスターじゃねぇか!」
咆哮の状態維持が解かれるその時、男の目にアジダハの三つ口角からこぼれ落ちる炎の破片が見えた。
それは、正しくこのフィールド全体を紅蓮に染め上げるほどの業火【獄炎のブレス】を放つ前触れだった。
広がる熱風に王城跡か分からなくなるくらい黒炭になり男の体力は、残りわずかだった。
「ギリギリ耐えたか!」
わずかに微笑みを浮かべた男の左足が地面を蹴る。
それは、瞬きほどの瞬足でアジダハの足元に潜り込み岩のような足の付け根に光が過ったような斬撃を入れた。
血飛沫が舞い上がると同時にアジダハは、巨大な尻尾を鞭のようにしならせて、男に向けて振り下ろす。
凄い衝撃がフィールドに轟くが、男は寸前のところで回避する。
そうそれは、奇跡でもまぐれでもない【侍】このジョブだけが使える【見切り】と言うれっきとした技なのだ。しかしこの技は、あたり判定がかなり難しく普通の人間には反応できない。その為素早さに特化してる【侍】とは言え…防御力が魔法職よりも低いこの仮想現実世界「ガルバロスオンライン」で【侍】のジョブを使う人は滅多にいない。
アジダハが次の行動に移ろうと動いた時には、男はそこに居なく…既にアジダハの胴体の下に潜っており刀が下向きの柔らかい腹部を切り裂き、派手に血飛沫が舞った。
その攻撃によってアジダハは、多くバランスを崩し片膝を地面に落としす。
その瞬間を男は、見落とす事はなかった。
「おおおおッ!!」
男は、腰に下げてるもう一つの刀小太刀をもう片方の手に持ちアジダハの長き首を空気を蹴るが如く上へ上と駆け上る。
そして駆け上がる男を赤く光る4つの目が狙う。
男が一本の頭の上に着いたその時、ひと瞬きほどの時間だったしかし…目の前には鋭い牙が無数に生えた黒い壁がそこにはあった。
そう、正しく大きく開いたドラゴンの口…怒り狂ったアジダハが男を喰らいにかかって来ていた。
勢いよく閉まる口から牙と牙がぶつかり合って火花が飛ぶ。
アジダハは、どうだと言わんばかりに咆哮を放つ。
だか、その時だった。
アジダハの赤い瞳にあの男の姿が映り込んだのは…
男は赤い瞳に小太刀を突き刺し華麗に舞うが如く長き首をくるりくるりと駆け下り、男が通った道は激しく血飛沫をまき散らしていった。
それから、何時間戦っていただろうか…
戦いの終わりは突然訪れた。
巨大なアジダハの体が、力なく崩れ落ちた。
「やっと終わったかぁ…さぁて!ドロップ品はなにかなぁ♪」
「…」
「誕生の玉?はあ!?あんなに苦労したんだから超レアものなんだろうけど…アイテム使用できるみたいだが、アイテム効果が書いてないだけど…」
男は【誕生の玉】を手に持ちながらアイテム一覧(持ち物)を開きアイテム名と効果を見ていた。
しかし、普通のアイテムであればアイテム一覧でそのアイテムの効果・持続時間・使用タイミングが書かれている。
だが、【誕生の玉】には【使用】ボタンのみ出ている事に男は、更に動揺してたのである。
男は数分【使用】ボタンにカーソルを合わせたままアイテムを使用するかしまいかを考えていた。
「よし!一か八か何が起こるか分からないが使ってやってみるか!!」
男は、力強く【使用】ボタンを押した。その時、【誕生の玉】が神々しく光輝いた。
「……?」
「何も起こらないよな…?ステータスが変わってるとか!?」
男は、期待に胸を膨らませてステータス一覧を参照したが変わっているところは見受けられなかった…男は、他にも色々と調べてみたが【誕生の玉】を使用する前と何ら変化が見られなかった。
「ぐぅぅ…分からねぇ…確かにアイテムを使ったはずなのに…とりあえず、考えても分からないし…今日はログアウトでもするか。」
男はメニュー画面を開いてログアウトボタンを押した。
突如と目の前が真っ暗になり、普段ならベッドの上で意識が現実世界に戻るはず…なのだが、今回は様子が違かった。
ガタ…ガタ…ガッダン!
「うぅ…痛!?…なんだ?」
そこは、見覚えのない荷馬車の中…ガタガタと振動が体に伝わってくる。
「おう!兄ちゃんすまねーな。起こしちまったかい?」
飄々とした性格のおじさんがこちらを見ながら笑い話しかけてきている。
「ここは…?」
男は、不安そうに話しかける。
「今かい?ほら、見な!もうすぐでストレージ領のカノ村に着くところさ!」
おじさんは、遠くに見える集落を指差して口を開いた。
「何!?カノ村だって!?」
男は、驚いた様子で立ち上がった。