それぞれの時の流れと対価の違い
ミルは、自分に後輩が出来たのが嬉しいのか、身振り手振りを入れながら丁寧に教えてくれる。
「まず、お店にお客が来たら、カーテン越しに『いらっしゃいませー』って言うの。それで、棚に紙があるからそれを書いてもらうの。」
「紙って?」
「あーえーっとね。質問用紙みたいなもので、書いてもらった方が何かといいみたい!」
ちょっと面倒くさそうにミルが答えると、リークが書類に目を落としたまま、
「説明はちゃんとしないと先輩失格だぞ。」
と注意した。ミルは慌てて説明し始めた。
「えっとね!すぐにじゃあ、寝てくださいって怪しいでしょ?
それに人間は、悩みとか質問とか好きみたいで、カウンセリング?って言うらしいんだけど、何かを始める時に自分のことを見つめ直したり、相手に知ってもらうことが大切だと考えてるから...だから、書いてもらうの!」
知ってることを全部教えようという気持ちは伝わってはきたが、早口だったから内容を整理するのが大変で、私の頭の中は、フリーズ寸前だった。
ミルは伝え終わるとすぐにリークの方をみて、先輩の姿見せてやったぜ!と言わんばかりに、ピースサインを送っていた。
リークは、それをみて軽くため息をついていた。
「やれやれ、先輩の道はまだ遠いな」
と軽く笑って、手元の書類をファイルにしまった。
そして、私の方へ近づいてきて、
「簡単に言うと、俺たち的にはストレスを貰えればそれでいいんだが、一応お金も貰ってる。そのお金を貰うためには、ちゃんとそれなりに段階を踏んで、その金額に似合ったサービスを提供しなきゃいけないんだ。そのためのカウンセリング用紙ってわけさ。」
「オレ的には、タダでやってもいいと思ってはいる。こっちはちゃんと対価は貰ってるわけだし。」
「けど、それだと怪しまれるし、この場所の維持も難しくなる。」
すると、黙ってたミルが話に入ってきた。
「そーそー!アロマとかこのタオルを洗濯する洗剤とか。あ!あとここの家賃も必要だしね!人間って本当お金に振り回されてるよね。お金ないと何にもできないんだもん。大変だよね~」
「でも、どうやって?これ全部揃えたの?お金があっても人間のいるところに買いに行くことはできないでしょ?まさか...盗んだの...?」
起きている人間のところに行くなんて、自殺行為と同じだ。目が合えば何が起きるかわからない。だからこそ、これらを揃えるには、盗むしか方法はないのでは?と完璧な推理をして犯人を見るかのように2人を見ると、
「そんなことしないよ!犯罪者になっちゃう!!」
っと笑いながら言うと、パソコンを指して「これ!凄いんだよ!」とまた知ってることを全部まとめて教えてくれた。
「クリックするだけで、なんでも手に入るの!」
ミルは魔法の道具を手にしてるかのように、嬉しそうに話していた。
すると、リークがパソコンを撫でながら話し始めた。
「ここの契約とか、必要なものがある場合は、このパソコンで済ませているんだ。顔を合わせる必要もないしな。超便利!ちなみにこのパソコンはここに最初からあったもので、一時、気に入った獲物がいてそいつから毎日のように食事していたんだが、その獲物が寝る前に必ずパソコン使ってて毎日見てたらなんか使い方覚えちゃったんだよな。天才だろ?」
さっきのミルより早口で、熱意が込められていて、聞いてて少し圧倒された。
今までこんな生き生きしているリークを見たこと無かったから、どう答えていいのか分からず、
「そうなんだ。」
と、相づちを打つのがやっとだった。
「便利だよねー!頼んだ次の日に洗剤が届くんだよ!しかも、ちゃんと時間どおりに!すごいよねー!」
「そりゃ、そうだろ。その分会員登録して会費払ってんだから。」
「そうだ!今日の午前中に新しいアロマ届いたんだった!」
「お!そうか!じゃあ、さっそく今日はそれをセットしよう。」
2人はとても楽しそうに、箱からアロマを取り出して、開店準備を進めていた。
その様子を見て、2人の話を整理していた。
また初めて知ったことばかりだ。
カウセリングをするのは、お金を貰うために必要不可欠。
人間はお金に振り回されてる。
パソコンでなんでも手に入る。
そして最後に2人は人間とは違う時間を過ごしていても、人間の世界に普通に溶け込んでいるという事実。
パソコンやお金の話よりもこのことが一番、驚いたことだった。
2人の中では、妖精の時間と人間の時間の両方が流れているのだ。
そのため1分1秒の流れ方が、まだ私と少し差がある。
午前中から起きていたら、きっと今の私では午後には倒れて、食事ができなくなってしまう。
けれど、今日の午前中にアロマを届いたのを確認できたミルは全然眠そうではない。むしろ元気だ。
私も2人のようになれるのだろうか。
両方の時間を過ごせる者に。