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夢売りの妖精  作者: ちょこみんと
6/10

時間と仲間のヒミツ

次の日の夕暮れ。


私は初出勤をするため駅前に向かっていた。


街ゆく人々は、仕事が終わり自分の家に帰る人、仲間と待ち合わせをしている人などで駅前は溢れかえっていた。


人間には私たちの姿は見えない。


人間とは違う時の流れの中で生きているからだ。


妖精の時の流れはゆっくりで、活動時間はたった6時間だが、起きて食事をするくらいなので、充分長く感じる。


でも今日からは違う。食事するためだけに目覚めるのでなく、リークやミルと一緒に働くのだ。


退屈だった時間がワクワクする時間に変わる。



人間と妖精の時間の流れ方も生まれた時から、知っていることだ。


誰に教えて貰ったわけではないが、人間とは違う時間を生きている、そして自分は見えていない。


なぜ、同じ場所にいるのに違う時間を過ごして生きているのかはわからない。


(…これも呪いのひとつなのだろうか?)


今までは、自分の知っている知識がすべて正解で呪いに支配されているなんて思っても見なかった。


でも昨日リークに呪いの話を聞いていくつか、そう言われてみればおかしい…ということがある。


当たり前だったことも、少しでも疑問が生まれたら考えることも大切だと思った。


(…リークなら時間のことも知ってるかもしれない。聞く暇があったら聞いてみよう。)


いろいろなことを考えながら昨日の記憶を頼りに小さな路地の入口を探す。


一歩路地を入ると、違う世界に来たかのように、当たりは静まり、安心する。


暗闇で行動する私たち妖精に取っては、とっても落ち着く空間だ。


目の前にぼんやりとランプが光っているお店がある。


ランプの光は当たりの暗闇を優しく包み込んでいるように見えた。


ここがリークとミルがやっているお店。


「ラ*ファータ」


今日から私が働くお店だ。


近づくたび、ドキドキする。





ドアノブに手をかけた瞬間、ドアが空き、中から声が聞こえた。


そしてすぐに、ミルが駆け寄ってきてきた。


「ラピ!!おはよう!リーク!ラピ来たよー!」


ミルはぎゅっとまた少し強い力で私の腕を掴んで中に入れようと引っ張ってきた。


可愛い顔をしてミルはとっても力が強い。


「ミル、おはよう。あの…腕…」


と、言うとミルはハッとして、急に泣きそうな顔をして私から離れた。


「ごめん!ミルは力の加減が苦手で、いつもリークにも怒られちゃうの。ごめんね。痛かった??


痛かったと言えば痛かったが、怪我をするほどでもないし、そんな泣きそうな顔をされるとも思ってもいなかったから驚いた。


「また馬鹿力が発動したのか」


優しい声が聞こえてきた。


「あ、リーク」


リークは優しくミルをなだめていた。


「何泣きそうな顔をしてるだ。これから仕事するって言うのに。それにラピは別に怒ってないし、怪我もしていない。大丈夫だ。」


「本当?」


「ああ、本当だ。お前は少し力が強いだけだ。それはお前の個性だ。それを否定するつもりは無い。ただ、その個性をちゃんと理解すること。わかったな?」


ミル安心したのか、またいつものように笑顔に戻ってお掃除を始めた。


そして、リークは振り向くと私に


「ラピ、おはよう。」


と挨拶をしてきた。今日も深い緑色の目はとっても優しく見えた。


「おはようございます」と返すと、リークは


「まぁ、もう夜だけどな」


と笑って何も無かったように書類に目を落していた。


さっきのミルのことがきになり、リークに話しかけた。


「あの、リーク」


「うーん?」


「ミルのことなんですけど、」


と言いかけた瞬間、すぐにリークから返事が返ってきた。


「その事は後で話すから今回は許してやってもらっていいかな。」


ずっしりとした声だが、ミルに聞こえないよう配慮したのだろう。とても小さな声だった。


そして、私の目を見ることはなく、ずっと手元にある書類だけ見つめていた。


けれど、その目はとても遠くを見ているように寂しそうだった。


(…何か理由があるのかな?)


「はい、わかりました。」


「仲間同士、本当は秘密はいけないんだけど、」


「いえ、いずれ教えてくれれば大丈夫です。」


「そうか、ラピは物分りが良くていい子だな。

助かるよ。さぁ!仕事の準備をしようか。」


「はい。」


ミルのこと気にならないと言ったら嘘になるが、今はふたりと一緒に居られることだけで十分だ。


私たちの時間はゆっくり流れている。


その時間のようにゆっくりいろんなことを知っていけばいい。



「ミル!ラピに開店準備を教えてあげてくれるかな?」


「うん!!もちろん!!」


ミルはいつものように笑顔で返事をしていた。










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