突然のプレゼント
「あなたの名前は?」
と問いかけてきた。
「名前?」
「そう名前。あなたは誰かに名前付けてもらったことないの?」
「私は今まで1人で生きてきたから、名前は付けてもらっていないし、必要ない」
「じゃあ、ミルと一緒だね」
「一緒?」
「そう!ミルも今まで名前なかったし、1人でふらふらしてたんだけど、リークが名前つけてくれたんだよ!」
「リーク?」
「そう!この店の店長だよ」
「そーなんだ、でも私はっ…」
べつに名前なんていらない
と、言おうとした瞬間、低い声が聞こえてきて、奥から別の妖精が出てきた。
「いらっしゃい」
その妖精の目は深い緑色で、目が合っただけで吸い込まれそうで、少し危機を感じた。
でも、なぜか優しい気持ちにもなり、安心もした。
貫禄があり、ずっしりとした大きな木のような雰囲気を持っていた。
「君の目の色は、綺麗な青色だな。これは珍しい。」
今まで褒められたことがないため、少し戸惑ったがリークに目の色を綺麗だと言われて嬉しかった。
しかし、リークは何やらずっと考え込んでいる。
私の目の前に立ち、上から下を何度も見ては、ブツブツ独り言を言ってとても難しそうな顔をしている。
もしかして、私のこの目に何かあるのだろうか?悪いものなのか?病気とか?
不安になり
「あ、あの...!!この目、」
なにかまずいんですか!?
と聞こうとした時がまた私の声を遮ってリークが口を開いた。
「よし!決まった!!お前の名前は『ラピ』だ!!」
と、大きな声で唐突に言うと真っ直ぐ私の目をみた。
「ラピスラズリの石のように綺麗な目の色をしてるから、そこからとって『ラピ』いい名前だろ!?」
すると、今までずっと黙っていたミルも話に入ってきて、
「うん!!とってもいいと思う!!」
と言って隣で自分のことのように嬉しそうにしている。
そして、ふたりは腕を組みながら、
「うん、うん。」
と首を縦に降って満足げにしていた。
私はいきなりのことで動揺していると、リークとまた視線があった。
リークの目は不思議だ。
深い緑色の目で見られると、視線を外すことができない。
捕らわれたウサギように。
そして、私は視線を逸らすこともできずただ、呆然とその場に立っていることしかできなかった。
すると、リークは
「名前は、ただ自分のことを分類するためのものではないいんだ。その者の価値や生き方、幸せを祈って付けられているんだ。ラピという名前もそう。ラピスラズリの石には、昔から邪悪なものから身を守ってくれる。そして、正しい道へ導いてくれて、幸せになれると言われているんだ。自分が名付けたヤツには、幸せになって欲しいしな。だから、この名前を受け取ってくれると嬉しい。」
会ったばかりの私のことをこんなに考えてくれていたなんて、正直驚いた。
今まで他人のことも自分のことも深く考えることはなかった。
ただ、近くにいる。生きている。そう認識することしかなかった。
私だけでなく、周りのみんながそうだと思っていた。
でも、リークは違った。私とは全く違う見方をして生きている。
同じ世界に生きていて、こんなに考え方が違うのか。と、驚かされた。
それから、誰かに自分のことを思ってもらえることがこんなにも嬉しいことだなんて初めて知った。
だから、私は迷わず、
「ありがとうございます。大切にします。」
とリークに伝えた。
突然のプレゼントは、私にはたくさんありすぎて受け止めるのに精一杯だ。
ひとつひとつ大切にしていこう。
「名前を人間たちは『名前』と書く。名前の名のいう文字には、夕日に口と書くんだ。夕暮れに活動して食事をする我々妖精にピッタリだ。そして名前を持ったものは、前に進める。幸せになれる...なんてね。」
リークは、ぼっそと独り言かのように言うと窓の外を見ていた。
今日は朝からいい天気だったからか、夕日がとっても綺麗だ。
夕日を見ている深い緑色の目はなんだかとても優しくみえた。