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2/承 - 上2

この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです。

これは、ゲームセンターに青春を捧げた男の、ちょっと頭の悪い妄想劇


 殺人的な暑さ…………

 夏。七月。ビールのおいしい季節…………

 まー、あんまり酒、飲まないけどね。別に嫌いじゃないんだ、けど、ほら、酒飲むと、ゲームできないし。それに、オレは酒を飲むと眠くなるタチ。それで失敗したことはないけど、備えあればなんとやら、だ。

 しかし、今日は珍しく、酒が目の前にある空間に居る。

「あああああああ……一体いつまで続くんすかこの地獄は……」

 手前でそんな愚痴をこぼすのは、一応、オレの後輩に当たる。二年年下の、一年目から二年目に昇格。二年ほどの付き合いになるが、あんまり趣味とかは合わないし、どっちかと云うと手前の後輩はかなりアウトドアな性格をしている。そんなだけど、配属された職場も一緒で、苦楽を共にしていたこともあって、まぁまぁ良好な関係を築いている。

 そんな後輩クンのため息は、正直、オレも同じ気持ちではある。

 本日、土曜日。

 世間一般で言えば、休みに当たる。そんななか、スーツを着ているオレたち。

 ま、休日出勤ってヤツですわ。それも、今日が初めてじゃなくて、先月ぐらいから、忙しくなってずっとこんな感じだ。日曜日はさすがに休みになっているけど、土曜日が仕事で、一週間の保障されているはずの二日の休みをないがしろにされている精神的ダメージはでかい。

 さすがに可哀そうになったのと、丁度誘われたのと、あと家に帰ってもアイツがいないこともあって、久しぶりの居酒屋で酒を飲むことになっている。

「そのうち終わるって。いくらなんでも、いつまでもこんなんじゃないと思うけどな」

 と、希望的観測。正直、オレとしても、ゲームする時間減ってるし、勘弁してほしい。今年はAVOも行けなかったしなぁ……

「土日ですよぉ? 普通休みじゃないですかぁ」

 ジョッキを叩きつけるようにテーブルの上に置いて、後輩クンはそう言う。確かにその通りだ。

 土日すら使わないとこなせないスケジュールや、仕事量を押しつけるのは、クソだ。日本人はなんで残業や休日出勤をすることを「美徳」とするのか、意味が解らない。

「そこなんですよ! そこ! あー、先輩だけですよぉ、こんな話してくれるの!」

「当たり前だと思ってるんだけどなぁ。ま、他の人間からすれば不真面目の一言だけどな」

「そんなこたぁ、ないんですよねぇ。普通に頑張って、こなしているだけなのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないんですかねぇ……」

「まぁまぁ。だからこうして、今日は酒に付き合ってるだろ?」

 オレとしては、早いところ帰って休みたいところではあるが、まぁ、これも、可愛い後輩のためだと思うと、全然大丈夫だ。なんだかんだ言っても、年下はついつい甘やかしてしまう。

 うー、と低いうなり声をあげながらも、メニューに目を通す後輩クン。

「先輩、卵焼き食べます?」

「いやいいよ」

 別に嫌いじゃないけどね、ただ、卵焼きで酒が飲めるものかどうか。

「飲めますよ。全然いけますって」

「そうなのか……。オレは酒飲むなら、さっぱりしたやつが良いなぁ」

 唐揚げとか、ビールと合うらしいけど、オレはちょっち無理だな。腹いっぱいになっちまう。

 しかし、良く食うな。ビールとか炭酸じゃねぇか、腹が膨れちまう。よくも、そんなにたくさん食えるもんだなぁ。などと感心しながら、ちびちびとビールを飲んでいく。あんまり一気に飲んでも良いことないし。

 ふと、店内をぐるりと見渡してみると、やはり、土曜日ともあって私服姿の人間も多い。休みの最初は、明日のことも考えずにどんちゃん騒ぎときた。それはオレたちも一緒だけどな、仕事はしてきたけど。

 ―――……おっと、そろそろかな。

 ふと、腕時計に目をやって、時間を確認する。

「悪い、ちょっとスマホを……」

 人との食事中に携帯電話をいじるのはどうかと思うけど、今日は勘弁してもらいたい。見たいものがあるんでな。

「むぐ。あれ、先輩……あ、もしかしてまぁたゲームですかぁ?」

 こいつはオレのことをよく―――とまではいかないけど、そこそこ知っている。

 ちなみにこいつはゲームとかやっていない。スマホのゲームぐらいはやっているらしいけど、それ以外はやっていないらしい。真面目にゲームをしていたのは小学校ぐらいで、中学校に上がってからは部活に、バンドに……色々とやっていたらしいとは本人談。

 本心のところ、どう思っているかは解らないけど、いまのところ、莫迦にしたような口調とか反応はあまりない。こいつの良いところは、他人のやっていることには文句は言わないところだ。

「丁度、いま海外でデカイ大会やっててな」

 オレも行く予定だったんだけどなぁ。

「あ、前言ってたアレですよね? アホだったか、アバだったか……」

「AVOな」

「そうそう、それです、それ。先輩も行く予定だったんですよね、アメリカ、でしたっけ?」

「まぁなぁ。今回の仕事でおじゃんになっちまったけどよ」

 本当にオレの代わりに行く人間が見つかってよかったわ。正直なところ、女ふたりで行かせるのは不安があったんだけど、ま、大丈夫だろう。アイツももうガキじゃねぇし、年下の面倒ぐらいは見れるだろう、といまは思っている。

 正直、休もうとも思ったけどな。けど、どーしてもって言われてたし、仕方なく、仕事に出ることにした。プライベートを犠牲にする仕事なんてクソ喰らえだ。

 スマホを横に置いて、試合の状況を確かめる。まだ、アイツの出番じゃないらしい。そこそこ有名な人間が戦っているので、そのまま視線をそちらに向ける。

「なんか……俺たちが知ってるゲームとはちょっと違うなぁ」

「ん? お前、格ゲーやったことなかったのか?」

「いえいえ、そんなことはないんすけど、その、動きとか、色々と……」

 まぁな。それは確かにそうかもしれないけど、オレたちからすれば、これだけやるのは当たり前で、そこに求められるのは精度とか、状況判断とか、そういうところなんだよな。

「ゲームにそこまで求めるんですか」

「まぁな。つか、ゲームだけじゃないだろ? お前のやってたバンドとかも、ひとりずつの技術とか、ほら、演奏を合わせるときとか。色々とあるだろ?」

 途中から言葉が解らなくなって、詰まったけど、相手には伝わるだろう。

「そりゃまぁ、そうですね……」

 その反応を見て、かつての言葉を思い出した。


 ―――たかがゲームごとき。


 あぁ、確かにそうかもしれないけどさ。

 なにかにマジになるのは、そんなに悪いことかよ。

 …………考えている間に、試合が終わった。居酒屋で見ていることもあって、音声は出していないが、観客の人間が拍手している映像が映し出される。

 さてと、そろそろのはずなんだけど。

 すぐに、見慣れた姿が画面に映し出される。持参したアケコンをゲーム機の本体にセッティングする姿は、いつも横でやっている彼女の姿とは違う。

 かつて、彼女と戦い続けていたあの頃の姿と、ダブって見える。

「女子じゃないですか!」

「テンションたけぇな」

「だって、女子ですよ! しかも日本人の!」

「そうだな」

 どこに行っても、女子に反応する男はいるもんだな。

「女子もやってるんですね、格ゲーって」

 どっちかと言えば少ない部類だと思うけどな。『ガンライ』とかなら話は別だけど……あれは女性プレイヤー多かった。

「有名なひとなんですか?」

 スマホに映るアイツを指さして、後輩はオレに問う。

「そう、だな。うん。結構有名だよ。オレたち界隈ではな」

「へぇ……。ショコラ……、って読むんですかね? これ」

「あぁ、それであってる」

 理由はなんだったかな、どうしてそんな名前にしたのか、随分前に聞いたような気がするけど、忘れちまった。

 試合が始まる。

 アイツがこういう大会で試合するのは別に珍しいことじゃない。まぁ、決勝トーナメントまで続くことはないけどな。けど、最近は少しずつ結果も残してきてるみたいだし、ベスト8ぐらいなら、国内であるなら圏内に見える。AVOでは、組合せの問題もあるかもしれないけど、運が良ければ―――

「……先輩って、どうしてゲームにそんな真剣なんですか?」

 ―――徐に、彼がそう問いかけてきた。

「他にも楽しいことなんていっぱいあるじゃないですか。ゲームじゃないものとかだって、あるんじゃないんですか?」

 もっともなことを言う。

 世の中には多種多様な趣味がある。それはスポーツであれ、芸術であれ、堂々と口にしても嘲笑われることはない。けど、テレビゲームはどうかと言われれば、それは一般的には嘲笑の対象になるべきものである。

 どれだけ活躍しようと、どれだけゲーマーに賞賛されようと、どれだけ賞金を稼ごうと。

 それは一般大衆からすれば「たかが、ゲーム」なのだ。

「…………まぁ、色々とな」

 それを語るには時間も足りないし、正直、面白い物語でもない。オレにとっては熱かった日々、そして屈辱の日々、そして苦痛の日々でもある。そういった、ネガティブなことばかりが積み重なって、結果、今のオレを形作っている。

 そしてそれには当然、アイツも関わっている。

「ひとのこれまでの人生を語ってもらうのって好きなんですよねぇ」

「お前は聞き上手だからな」

 そういうヤツほど、やっぱり他人の話す姿、話す物語に好意を抱いたりしてる。

 はぐらかしてるってのに、こいつはこっちを見て、いつ話し出すのかを待っている。話さない雰囲気を作っていたってのに、いつの間にか話す流れになっているのが、こいつと話をしていると怖いところだ。

 酔いさましの水を一口飲んで、オレは食事に手を出す。居酒屋って、酒のつまみばっかりだけど、どれもこれも味が濃い目で、ご飯が欲しくなる。食べたあとに水を飲むのもまたおいしいよなぁ。

「先輩だけじゃなくて、この放送でゲームしてるひとたちの人生ってやつも、どうだったんですかねぇ」

 ―――恐らく、良いことばかりじゃなかっただろう。辛いこともあっただろうし、楽しいこともあっただろう。それは、ゲーマーだけじゃない。この世に存在している様々な人間に言えることだ。

「と、云うワケで、そんなゲーム好きな先輩に語っていただきたく!」

 すすっ、とビールのジョッキをオレの手前に置いて、そう言う。

 ……諦めてなかったか。

 ため息をついて、オレは受け取ったビールを一口飲む。一応、渡されれば飲む。

 っつっても、お前の聞きたい物語って―――

「本当に―――」


【/数時間前/】


「どうして、ゲームしてるんです?」

 ―――あまりにも、突然な言葉で、私は少し思考停止。

 よく聞かれる言葉。それは前にも言った通りで、女性プレイヤーのひとに会うたびに「どうしてゲームしてるのか」とか「どうしてそんなに強いの」だとか、本当によく聞かれる。男のプレイヤーに聞かれることもあるけど、女性のほうが多い。

 何度も繰り返すようだけど、女性がテレビゲームに熱中するなんてことは、あまり、ない。ゼロではないけど、やらない人間のほうが圧倒的に多数であると、私は認識している。

 色々と理由はあると思う。私の短い人生のなかで、それをあげればキリがない。まとめれば多分、本当に、根幹に存在しているのはたったひとつの出来事なんだと思う。けど、それはきっと、普通すぎるから、私はこう言う。

「なんとなく?」

 それは理由にすらならない言葉。けど、普通なら笑って終わってしまう冗談。会話を強制的に終わらせるための言葉。

「そうなんですか」

 予想に反して、彼女は笑うこともなく、ただ、それだけを返した。

「なにか理由とか、あるのかと思ってたんですけどね」

「…………まぁ、あるけどね。あんまり面白みのない話だから、とりあえず近しい言葉である「なんとなく」を選んで解答してるの」

 いろんなひとに聞かれるから、そのたびに過程を口にしていると疲れる、って云うのも理由のひとつ。

「けど、わたしが知らないときの話とかもありますよね。わたしが、ショコラさんを知ったのって、それこそ、ブラッドブルーの大会でしたし」

「あぁ、それもう何年前だっけ……」

「それ以前のショコラさんって、知らないんですよね。まぁ、単なる好奇心なんですけど」

 好奇心って、他人に嫌われることもあるけどね。私は、あんまり経験ない。これまで、私を突き動かしてきた好奇心って、良くも悪くも、ゲームのことが多かったし。それで他人にとやかく言われることもなかったしね。ま、珍しい、女プレイヤーってこともあったかもだけど。

 私の人生は口にするほど分厚いものじゃない。ゲーマーとしての人生も、有名プレイヤーほど濃厚なものじゃない。

 だからあなたの聞きたい物語って―――

 本当に―――

「―――ツマラナイ話よ?」



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