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2/承 - 上1

この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです。

これは、ゲームセンターに青春を捧げた男の、ちょっと頭の悪い妄想劇


 季節は巡った。

 冬であった気候はいまや一変し、初夏の雰囲気が漂う。

 世間一般的には、GWなどと浮かれていたようだった五月だが、我が家ではそんなことは一切なく、寧ろ質素な生活を送っていた。主に、オレが被害をこうむるだけなのだが、まぁ、その辺は仕方ない。なので、GWはかつての友人たちとのゲームに勤しみ、外食などをするワケもなく、ただただ、毎日を規則正しく怠惰に過ごしたと言っても過言ではない。

 節約ってのは基本的にしているものだけど、大体一年の頭、正月を終えた辺りから、節約の度合いは強くなっていく。なお、今年の正月は珍しく、ふたりでそれぞれの実家に顔を出していたので、アイツと顔を合わせなかったときでもある。まぁ、正月と夏のお盆ぐらいはね。

 んでもって、色々とやってきた結果として手に入れた金はどうするかと言うと、この夏の時期に一気に使う羽目になる。ゆえに珍しく、千代もバイトとかして、微力ながらお金をためてくれていた。たまには働け。

 察しの良いゲーマーにはわかっているだろう。

 七月にある祭典を。



 ―――…………。

 …………。

 飛行機で揺られて、別の空港を経由して。そんな頭の痛くなるような経路を通って、やっとこさたどりついたときには、頭がぐわんぐわんしている。こんな状況で起きているのも難しいし、時差ボケを直す為にも速攻でホテルの部屋で眠ること、数時間。

 ……やっとこさ、頭がすっきりして、約束どおり、ホテルのロビーで待ち合わせ。本当は部屋でも良いんだけど、折角だからホテルのカフェでゆっくりとお茶でもして、お喋りでもしてから部屋に戻ろうかな、と画策した次第。本来なら、そうじゃなくて、もっと外に出て観光地を巡るとかするんだろうけど、今回は特別いきたい場所があるワケじゃないし、それに、なにかあっても困るから、ホテルでゆっくりしようと思っている。ちょっともったいないケドね。

 この地区での観光客もゼロじゃない。名前だけはよく知れているし、噂どおりのドリームをつかめる場所でもあれば、その逆もまた然り。有り金をすべて持っていかれて途方に暮れる人間もいる。そんな希望と絶望の町であり、眠らない町。

 ラスベガス。

 米国のネバダ州に存在する同州最大の都市―――ネット調べ―――であり、一般的にはカジノなんかが有名な場所。

 けど、格闘ゲーマーからすれば、それとは別の側面もまた持ち合わせている。

 史上最大の格闘ゲーム大会が開かれる場所。毎年七月~八月にかけての時期で行われる最大規模の格闘ゲーム大会は、多くのゲーマーの注目を集めている。

 そこで行われるのはまさにトップレベルの戦い。各国から訪れる有名プレイヤー、プロゲーマーが会する場所でもある。無論、ゲーム業界のメディアも注目してるし、開発者たちが足を運ぶほど、その規模は大きくなっている。―――と、言うのも、もともとは小規模な大会だったんだけど、だんだんその規模を大きくしてきたと云う経緯があって、最初からこんな大規模な大会じゃなかった経緯がある。

 今日、私がこのラスベガスに居るのも、今週末に行われるその格闘ゲームの祭典に出場・観戦する為。

 最大規模の大会、と言われて、大会に出る為には色々と大変なんだろうと思うかもしれないけど、実際はそうじゃない。この大会は、参加料さえ払ってしまえば出場できるようになっている。もちろん、対戦するのは腕に自信のある参加者ばかりだし、それなりの腕がなければ優勝を狙うなんてことはできない。記念参加、と云う言葉があるぐらいだし、結構、現地のひとたちは気軽に参加していたりする―――らしい。まぁ、日本は地理的に遠いし、気軽に記念参加、なんてことは言えないんだけどね。お金があって、大会の観戦に来ました、ってひとぐらいじゃないかな。まぁ、第三者から見れば、私もそうなのかもしれないけど。

 ―――コーヒーを一杯飲み終えたあたりで、見知った顔を見つけて、片手をあげる。やっとこさ、ここまでたどり着いたみたいね。気づけば、約束の時間を少しオーバーしてた。

「すみません、遅くなりました……」

「いいのよ。別に急いでいるワケでもないし。朝ぐらいはゆっくりしたいでしょ? コーヒー、飲む?」

「あ、じゃあ紅茶で……」

 メニューを開いて、二杯目のコーヒーと、目の前の彼女の紅茶を注文する。

「昨日は眠れた?」

 海外に来るのは初めて、と彼女は言っていたので、もしかすれば上手く寝付けなかったかも知れない。

「いえ……特にそんなことはありませんでした」

 当人はそう言っているけど、眼の下に若干の隈を見つける。

「少し隈ができてるわよ」

「え……」

 どうやら鏡を見ていないらしい。休日だと思って気を抜いていたのかも。

「うぅ……まったく眠れなかったワケじゃないんですけど、寝付くのに少し時間が掛っちゃいましたね」

「あぁ、なるほど。じゃ、寝てないワケじゃないんだ。安心安心」

 それで体調を崩してもらっても困るし、ちゃんと睡眠できたならいいか。

 それだけ会話すると、見計らっていたかのように、コーヒーと紅茶が運ばれてきた。先に一杯飲んでたんだけど、まぁ、彼女が紅茶を飲んでいる間に何もせずに見ているってだけもちょっと居心地悪いし、このあと外出するワケでもないから、気にしなくてもいっか。

 さて、どうして今回こんなことになっているのかと言うと、元々は、アイツと一緒にくるハズだったんだけどなぜかこの子と女ふたり旅になってしまったのかの理由は―――さかのぼること、半月前になる。

 ラスベガスへの旅行は一年以上前から予定、計画していたもの。だからこそ、節約を重ねて、そこそこの金額を貯金して、ラスベガスでの大会に出ることを目標にしてきていた。それが私の目的でもあるし、アイツはそれに協力してくれたし。で、結果として、去年のラスベガスでは思ったような結果は出せなかったワケで、私は次の、つまり今年の大会を目指していた。もちろん、その間にも国内では大会はあったし、そっちのほうにも力は入れていたけど、注目度でいえばやっぱり海外の大会のほうが上。そしてその中でも、やはり今回ラスベガスで行われる「AVO」は別格。海外に頻繁にいくことのできない私からすれば、海外で大会に出られるなかで一番なのはこのAVOに掛かっている。

 ……だと言うのにアイツは……

『悪い! 急に仕事が忙しくなっていけそうにない! 別の人間連れてってくれ!』

 あろうことか目前でそんなことを言い出してきた。呆れてものも言えない。けど、それは仕事だから仕方ないし、ぶっちゃけ、あのひとの稼ぎで私は好き勝手できてるから文句を言える立場でもない。

 かと言って、突然すべてをキャンセルできるワケでもないし、突然再来週にでもラスベガスに行かないかと言われても都合があるだろうし、皆首を縦には振らなかった。それに、幾ら知り合いだからと言って、アイツ以外の男と海外に旅行とか…………いやいや、ダメでしょ。そんなこともあって、誰を連れていくか悩みに悩んだけど、ひとりだけ、時間があって同じ女である人間がいることに気づいた。

 それが、今、私の目の前で紅茶を啜っている、吉崎奈々さん。

 ゲームセンターに女が居ることは少ない。そもそも、テレビゲームとか云う代物に女が興味を示さないこともあるし、当の男たちも、子供の遊びだと大半が捨ててしまうからだ。もちろん、世の中にはどれだけ歳をとっても、変わらずに好きでいる人間もいるし、それを生きがいにしている人間だっている。私はただ、そのなかのひとりで、特殊な事例に過ぎない。

 奈々はどちらかといえば現代的なタイプの人間だ。私と違ってインターネットの世界をよく知ってるし、アニメとかゲームとかに詳しい類の人間。ゲームに打ち込むことしかしてこなかった私とは違って、別のところからゲームを知って入ってきた人間。アイツ曰く「イマドキのソッチ系の女子」とかなんとか……

「……あの……今回は本当にありがとうございました……。こんなところにまで連れてきていただいて……」

「え、あぁ。いいのよ。どうせ、このままだとひとりキャンセルするハメになってたし。それだったら、誰か連れて行ったほうが無駄もないし」

「けど、移動費とか、宿泊費とか、全部出して頂いて……」

「元々使うはずのお金だったし、特に問題ないわよ。それに、あなたも格闘ゲーマーのはしくれなら、AVOは気になるところでしょ?」

「え、あ…………はい」

 今回のAVOには、私がメインにしてる「アル5」もそうだけど、サイドトーナメントで奈々さんのやってる「ブラッドブルー」の大会も行われる。今回はアル5に注力したから、ブラッドブルーのほうには出ないけど、そっちのほうも有名なプレイヤーが何人か出るみたいだし、気にならないってのも嘘になる。

「それよりも、お姉さんのほうは大丈夫だったの?」

 奈々さんにはお姉さんがいて、何でも、お姉さんとふたり暮らしをしているらしい。今回の渡米は、両親よりも、そちらのお姉さんのほうを説得するのに非常に手間が掛るとの話を聞いていただけに、今回こうしてともにラスベガスに行けたのは、そのお姉さんを説得できたからなんだけど。

「……え、あぁ……。前日までグズってしましたが……なんとか……」

「結構ギリギリだったのね……」

 世の中には過保護すぎる姉妹って居るわよね。うんうん。まぁ、私はあんまりそんな記憶ないんだけど。女同士の旅行だし、そんなに反対されるとは思ってなかったから少し意外だった。海外ってこともあるし、万が一、ってことなのかな。

 ……そんな他愛のない会話をしつつも、私は二杯目のコーヒーを飲み終えて、奈々さんも紅茶を飲み終えた。そこからは、またホテルの部屋に戻る。先も言ったけど、今日は外出する気もないし、特に観光をしようと云う気分でもない。正直な話をすれば、AVOの本戦に出るとき以外は外に出たくはない。海外だから外に出るのがちょっと嫌ってこともあるけど、それ以上に、いまは少しでもゲームに打ち込んで、心を落ち着かせたいと云う気持ちがある。折角、奈々さんが一緒に来てくれているんだし、少し、相手してもらう予定だった。

 ホテルの部屋には最初から大型のテレビが配置されていた。接続する方法は特に変わりはないけど、海外ってこともあって、コンセントの電圧が色々と違っていたりするから、そこは変換機を使用する。持ってきたゲーム機は日本製だから、日本のコンセントに合わせて作ってあるから、同じゲーム機でも、国によって細かいところが違う。―――って、アイツが言ってた。私は初めてラスベガスにくるまで知らなかったけど。ローカルで対戦するだけだから、特にネットとかに繋ぐ必要はないから、その手のものは持ってこなかった。元々、調整はアイツとふたりでやる予定だったから、用意もしていなかった。

「今年は誰が優勝するんですかね?」

 ゲームをする前、キャラクターを選択する画面でふと、奈々さんがそんなことを口にした。AVOには有名な人間も多いし、ゲームをあまり触れていない人間でも、どこかで聞いたことのある名前ぐらいはある、って云うプレイヤーも参加する大会。誰が優勝するのかを予想するのも楽しみのひとつだ。もちろん、どのゲームで、と云うのもまた重要な部分。

 私はしばらく考えて、自分の持ちキャラを選択しながら、こう答える。

「……ブラッドブルーなら、ジッさんかな。あのひとの、バーストの使い方とか、コンボ精度とか、見習いたいところ」

「あぁ……今年は、ブラッドブルーのタイトルが変わった時期でもありますしね……そういった、今まで知らなかったひとが出てくるって云うのも、面白いですよね」

 タイトルの変更。バージョンが変わった、などと云う小さなものじゃなくて、ナンバリングが変わるぐらいの大きな変更。ゲームのシステムすら変わってしまうようなもの。そんな変化があったゲームでは、やはり、そこから大きく頭角を現してくるプレイヤーが数多く出てくる。私がいま挙げたプレイヤーもまた、最近になって伸びてきた人物だ。

 ブラッドブルーはいわゆる「コンボゲーム」―――途切れず、技を繋げる。技が繋がっている間は敵は反撃もできない。長いコンボを覚えて、とにかくコンボを入れる格闘ゲームのこと―――で、バージョンが変わると、大きくコンボルートも変わったりする。いち早く、強いコンボや技を持っているキャラクターを探すのは、どのゲームでも一緒。このゲームの良いところは、始めたばかりの人間でもコンボを覚えれば勝てる可能性があること。悪いところは、コンボゲームはコンボを覚えなければ始まらないこと。そこにハードルの高さを感じてしまう人も多いし、コンボを入れられているときの何もしていない感覚が嫌いなひともいる。もちろん、逆もまた然り。ブラッドブルーはそれ以外にも、キャラクターやストーリー性に惹かれて参入してくるライトユーザーも多く、いまかなりのコミュニティ規模を持つ格闘ゲームのひとつになってる。

 先も述べたけど、今回、私はブラッドブルーのトーナメントに参加するつもりはない。本当でいえば、アル5のほうに注力したいところだけど、もうここまで来たらやっても大して変わらないし、それだったら、別のゲームでもいいからゲームして、リラックスできたほうがいいのかな、って思ってる。奈々さんとブラッドブルーをするのもそんな理由。そうじゃなかったら、アル5始めちゃうところだし。使うテクニックも、ゲーム性も違うけど、それでも別のゲームで得られるものもゼロじゃない。

「奈々さんとやるのも全然珍しいことじゃなくなっちゃったわね」

 アケコンをいじりながら、私はそんなことを口にする。最初こそ、好奇心で話しかけた仲だったけど、そのあとも同じゲームセンターに何度も顔を出してくれて、奈々さんとは次第に親しい関係になっていた。まぁ、ゲームセンターではよくある光景でもあるけど、そんなに簡単にうまくいくものでもない。だから、私と奈々さんの関係が続いているのは、奇跡的。同じ女って云うのも、あるのかもしれないけどね。

「そうですね。最初のうちは全然勝てなくて…………」

 けど、奈々さんは私とやり始めて急速に腕を上げ始めた。吸収がいいのか、元々センスがあったのか。否、恐らく後者なんだと思う。現に、初めてこの子と会ったとき、あの時間帯とはいえ、二〇連勝を記録してたワケだし。

「勝てるようになったのは、やっぱり、強い人とやり続けられるって云うのが一番だと思います。わたし、こんなにゲームに真剣になったの初めてでした」

 レベルの高い場所に居続けること。

 そうね、それも確かに強くなるのに重要なこと。たとえ、そのとき最強と呼ばれている甘えキャラを使ってでも、トップ領域に一度立つこと。そうすることで、そこにいる人間たちとの戦いを通じて自分に足りないもの、いますぐにでも必要なものを考え、手に入れることができるから。

 ゲームはひとりのもの。一般的には、そう言われているけど、私はそうは思わなくて、ゲームだって、競う相手は必要だ。

「けどそれは努力もあったのよ。私としても、すぐ後ろから追いかけてきているひとがいると、やっぱり練習には気合い入っちゃうし」

「そんな……わたしなんて、まだまだですよ……。下手の横好き。趣味でここまで来てしまいましたし」

「……それが良いのよ。下手の横好きこそが、一番上達するのよ」

 ―――強いけど嫌いよりも、弱いけど好きってひとのほうが最高の組み合わせである。

 私の尊敬するプレイヤーの言葉。強くなるのに一番必要なのは「好き」と云う気持ちである。

 けどそれは私にとっての言葉でもある。私は、好きだし、努力もするけど……

 なにか、多分、普通のひととは、違う。


 Rags Win!


 モニターに表示されたキャラクター勝利演出。このゲームは特に、このキャラクターらしさ、って云うものを追及しているゲーム。んー、アル5とかみたいなゲームとはちょっと違った方向性で、アニメとか漫画みたいな見た目のキャラクターが戦っている。なんというか、オタク向け? って言われているらしいけど、私はそんなのは気にしない。ゲーム性が面白ければ、それで。

 ……女の子ふたりが、ホテルで、ひきこもりながらゲームをしている。

 私からすれば別になんでもないけど、世間一般の目から見れば、ちょっとおかしな光景かもしれないわね。まぁ、けど、私は本気だし、これも練習の一環。明日からのAVOで勝つためにも、必要なこと。あとは、ほら、時差ボケとかもあるしね、うん。

 時差ボケはいや本当にね、早いところこの国の時間に慣れておかないと、いざ、大会になったときに眠い目をこすってゲームをするハメになる。当然、そうなるとパフォーマンスは落ちるし……良いことはないよね。

 というか、昔、初めてAVOに出るためにアメリカに来たとき、時差ボケで眠い目をこすって実際にゲームしたからであって。いや、あのときは本当にまずかった。結果は散々だったけど、あのときは、とにかくAVOに出れたことだけが嬉しかった。

 多分、いま、奈々さんはそのときの私と同じ気持ちだと思う。

 すごく楽しみ! ―――とかではないかもしれないけど、いつもやっている環境とは違う、一流もいれば、そうじゃないひとも居る。真剣で居ることも、ライトでいることも、すべてが許される。名誉もある、楽しい時間もある。

 すべてが、AVOに詰まってるんだ。

 …………うん、それは、多分、すべてがそうであれば良いと思う。

 ゲームは楽しいものなのか、真剣に向き合うものなのか。それは、ゲーマーにとっては永遠の課題。

 ある人間は、ゲームは楽しめれば良いと言う。

 ある人間は、ゲームとは真剣に打ち込むものだと言う。

 多分、私は後者だと思う。

 ゲームとは、私にとって―――


 ―――…………。

「休憩しましょうか」

 また一戦、終わったところで、そう提案する。さすがにちょっと、やりすぎたかも。私は全然、問題ないんだけどね……そもそも、アイツとは、本当に一日中やってることだってあったワケだし。

 けど、今回の相手は奈々さん。ゲーセンではよく遊んでるけど、こうして、ふたりきりで、面と向かって一緒にゲームするのは初めて。

 あぁ、なるほど、私がちょっとはしゃいじゃったんだ。

 同じ女の子とゲームする。ゲーセンでは珍しい光景で、多分、普通に生きていればゲーセンじゃなくても珍しい光景だと思う。そんな空気にあてられてたのかも。

「そうですね。……っわっ! もうこんなにやってたんですね!」

 朝から始めて、もう四時間ほど経過してる。

 互いにマシーンのように、戦っては、再戦を繰り返してたし、時間を見ないのは仕方がなかった。などと言い訳。

 時刻は既に一三時半を過ぎていた。見事、昼飯をぶっちしたワケで。

 昔ならいざ知らず、昼食も忘れてゲームするのは本当に久しぶりかも。ゲーセンでゲームしてても、アイツが昼時になるとお腹減ったって、まるでアラームのように言うし。

「あ、それともご飯でも食べに行く? この辺の地理、あんまり知らないけど」

「あー……すっごく気になるんですよね! アメリカ、しかもラスベガスですよ?」

 それね。私も、凄く解る。

 気持ちはあれども、それを実行に移したことはあまりない。一番は、英語がしゃべれないことで、一番致命的なヤツ。さすがにボディランゲージじゃ無理あるわよ。辞書片手に行くワケにも行かないし、面倒だし。一度、アイツと一緒に出かけたことあったけど、アイツがなんか適当にしてて、横から見てて面倒だって感じちゃったんだよね……。それ以来、来てもホテルにこもりっきりになっちゃった。

「あー、なるほど。確かに、それはありますね」

 あ、折角、盛り上がってたのに余計なこと言っちゃったかな。ちょっと、奈々さんの声のトーンが下がる。

「でも、外に食事行くと、参加者の有名なひとと会えたりすることも、まぁ、ごく稀に? あるかも知れないわよ」

「え、そうなんですか?」

「まぁ、ホテルは限られてるし、会場に近いホテルは、AVOに参加するとか、観戦するとかの人間で溢れてるし」

 女ふたり旅。少しくらい、女の子らしいことをしても良いかもしれないけどね。ブランドバッグ? とか、ほら、色々とあるじゃない、海外に来ると。私は特殊な環境で育ったから、知ってはいるけど、あまり詳しくはない。

「そういうのは、お姉ちゃんが詳しいですね。ブランドとか、ファッションとか」

 なるほど……まっとうに女性としての人生を歩んでいると思える。確か、奈々ちゃんのお姉さんって、大学生だっけ?

「そうですね。たまーに、わたしとのゲームに付き合ってくれるんですけど……もう、最近はダメですね」

「あははは。興味のないひとにはちょっとね……」

 ワケ解らないうちに、空中に飛ばされて、そのまま下に落ちてくる間に致命的なダメージ受けて、なにもしないまま、終わってしまって唖然としてるゲーム初心者の姿が思い浮かぶ。

 解らないうちにすべてが終わってしまって、ツマラナイものだと判断するのは、よくあることだけどね。特に、ゲームとか、勝負事は。私もかつてはそうだったワケだし。

 あのころを思い出す。あのころ、って言うほど昔ではないけどね。けど、いま、もう二〇も過ぎてる歳だし、一〇代のころを「あのころは……」って語るようにはちょっとなったかもしれない。

 あれ、老化……?

 ぶんぶん、と首を横に振って、とりあえず、現実逃避する。



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