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1/起 - 中

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです。

これは、ゲームセンターに青春を捧げた男の、ちょっと頭の悪い妄想劇


 かつて、オレの職場の上司と飲み会に行ったときの上司の言葉を思い出す。

「恋人と趣味を合わせるべきではない」

 その理由は正直解ったような、そうでないような、不思議な感覚であった。少なくとも、オレが千代と付き合う前だったら否定していたであろう持論だったと思う。やっぱり、長く共に過ごすんだから、共通の趣味は持っておくべきだと、思っていたからだ。まぁ、いまでも同じ気持ちはあるけどね。あのころに比べたら、ある一定の理解も示せる、ってところかな。

 ゲーム、と云う共通の趣味を持っているオレたちにとって、その言葉はクリティカルヒットだったのかもしれない。うん、というか、オレにとってしてみればグサリ見事に心を貫いているカンジだ。心当たりがあったからだろうと思う。そう、付き合う前には感じたことも、想像すらしていなかった事象だ。

 男ってのは無駄にプライドが高い生き物だ。それは、男であるオレですら感じる。悪い意味ではプライド、理想が高すぎる。良く言えば負けず嫌い。そんなカンジ。男であることを、主張したがる存在だ。特に、自分のやっていることに関しては、それなりの自信を持って、それを行っている。負ければ腹が立つし、勝とうと思う。

 問題は、その負けた相手だ。普通、ゲームだろうとスポーツだろうと、男が戦うのは男だ。野球もサッカーも、基本的に女子と混同で試合を行うことなんてない。体格差、体力差などがあるしな。けど、ゲームはそうじゃない。男同士が主な戦場になるのは変わらないが、それはゲームと云うものが基本、男が行うものだっていうからだ。もちろん、女子だってやるのは知ってるけど、女子はなんかこう、ふわふわした育成ゲームをしている雰囲気。ガチガチの格闘ゲームとか、FPSとか、ドンパチするゲームはしないイメージ。だから、ゲームは男のものだって、男は思っているんだ。女子に負けることなんて、あり得ないと思っている。―――だからこそ、負けた相手が女子だと、プライドを叩き折られた気がするし、想像以上に腹が立つ。惨めな気持ちになる。

 なるほどなぁ、男と女の軋轢がなくならない理由ってのはそういうところから出てくるんだろうなぁ。互いに譲れないなにかがあって、かつ、同じ人間でも全然違う感性をもっているからなぁ。そりゃ、ぶつかりもするわな。

「いまのダメだって、何度も言ってるでしょ」

「…………」

 無言のオレ。目の前の画面には「You Lose」の文字が出ている。つまり負け。格闘ゲームならず、様々な対戦ゲームではよく目にする光景だけど、格闘ゲームのこの文字の重みは他のジャンルのゲームよりも重い……気がする。

「……いや、待ってくれ、話を聴いてくれ」

「なにが見えたのかな?」

「……スーコン」

「ぶっぱする? 勝ってるときに?」

「……」

 こういう対戦格闘ゲームの画面には、大体勝利数とか、勝率とかが出てくるもん。家庭用ゲームでも、その辺はゲーセンと一緒で、画面には最大連勝数とか、累計勝利数とか、出てるワケで。ちな、オレの勝利数は2で、千代の勝利数は20を過ぎているワケであって。

「はー。毎回思うけど、根拠のないぶっ放しとか、甘えた技振りは辞めたほうが良いって」

 彼女の指摘はもっともな意見だ。格闘ゲームに置いて、根拠のない技振りは、エサにすらならない。相手に技を認識させるのは重要だけど、問題はその場面。振って良い場所と悪い場所があるのは解ってる。

「解ってるっての。撃ったと思ったの、スーコンを」

「だーかーらー。なんでそこで相手が撃つって云う発想が出るワケ?」

「んなもん解んねぇだろ」

「画面中央にいるときに、しかもあの距離で移動『千極殺』はないでしょ……」

「けど、前中K振ってたろ」

「それこそエサでしょ。何回やったと思ってるのよ。どうせ、同じ手でくると思ったんでしょ」

「ええい! クソ! そうだよ! 完全に釣られたんだよクソったれ!」

「釣られただけならまだしも、何度も何度もそれ振ったらダメっていう技を振るのに私は怒ってるのよ、意味わかんない」

「ちくしょうめ」

 ―――ご覧の通り。オレたちで、ゲームが強いのは男であるオレじゃない。

 恋人である千代のほうが圧倒的にゲームが強い。

 世の中、男のほうがゲームごとには強いとかいうのはウソだ。いや、多分、やる機会の多さとか、好きになる具合を考えれば、ゲームはいまだ男のやるものだとオレは思っている。が、もしも、女にもこういうゲームをする理由とか機会があるのだとすれば―――まぁ、こうなる人間も居るだろうなぁ、と云うのもまた素直な意見である。

 長いこと―――と云うのも、どれぐらいからがそれに該当するのかは解らないけど―――付き合っているオレたちだけど、ついには同居するぐらいには仲が進展しているワケであって、現状を見れば、完全に結婚しているのと大差ない。互いに、支えあいながらひとつ屋根の下で暮らしている。っつても、安アパートだけどな。オンボロ、とまではいかないし、そこそこキレイな物件ではある。新宿とかにも電車一本でいけるしな。居住スペースとしては都会へのアクセスがいい上に、安い。破格の場所だと思っている。

「んで?」

「あん?」

「キャラ変え。しなくていいの?」

「いいよ」

 ふたりの仲は良好。

 っていうのも、無理がある状況であるのは認める。けど、ウソじゃない。こんなことをほぼ毎日繰り返しているのに、別れることはないし、長いことこんな生活している。昔と違うのは、彼女がずっとオレの家に居るってだけで、それ以外はやっていることは変わらない。

 険悪ムードになるも、互いに真剣にゲームをしているからだ。もう、ふたりとも解っている。どれだけ無言になっても、機嫌が悪くなっても。目の前のゲームに真剣だからこそ、そうなっちまう。

「あーくそ……。そいつの下中どうなってるんだよ……」

「連ガ確定だからね。あ、でも超先端あてだと繋がらないときもあるとかなんとか」

「それどこ情報よぉ」

 ガッ、ハドォ、ガッ、ハドォ―――シュン―――ベキッ。

「ほらぁ。それ一発入るだけでその超火力コンボに繋がるじゃねぇか」

「そんなのずっと前からそうでしょ。対策しないのが悪いのよ」

「ウルになってから強くなりすぎだろ」

 まぁ、とはいえ……この技と、次の技への繋ぎは猶予1F。んでもって、こいつは……

 ガッ―――タツマ―――、ショーリョーケェーン。

「あ」

 思わず、千代の声が上がる。

 コンボとコンボの間には、必ず難しい「目押し」―――攻撃のモーション終了を見てから次の攻撃のコマンドを猶予時間までに成立させること―――がある。そしてこのキャラの最大火力コンボは、さっきも言ったみたいに1F―――つまり、1/60秒―――の猶予しかない。無敵のある技をその1Fの隙に割り込ませることが可能だ。無論、それは相手がその1Fの目押しをミスった場合に限る。

 んでもって、千代はそういうコンボが苦手なタイプになる。ここまで、その高火力コンボが成功した試しは無い。まぁ移動『千極』は結構練習してたみたいだけど、それでも出るのは稀だしな。しかも時折攻撃が当たってるのに技を入れて特大の隙を晒したりする。

 まぁ―――

「甘い」

 ガッガッ―――タツマ―――ショーリョーケェーン!

 ―――それでも負けるんだけどね。

「いけませんねぇ」

 にんまり、特大の笑顔でそんなことを言う。殴りたい。

「あー、イラッときたわぁ。凄く腹パンしたいわぁ」

「戦争かなぁ?」

「あぁ、大戦争だこんちくしょう!」

 こうして、夜は更けていく。オレたちの、世間一般からするとあまり恋人らしくない時間の過ごし方。オレたちにとってはイチャつくよりも、こっちのほうが楽しい。


 ―――………………。

 時刻は二三時を回ったところ。置かれていたアケコンとか、ゲーム機を片して、物が合った場所にはふたつの布団。並べるようにふたつの布団を置くと、すっぽり丁度、部屋の行動スペースを埋め尽くす。そうなるように計算して、布団は買った。なにせ、千代の寝相が悪いからな。

 いつも大体、この時間には就寝する。家に帰ってきて、ゲーム三昧なのは二二時過ぎまでで、そこからは就寝前の部屋の片付けとか、オレがシャワー浴びたり、明日の準備をしたり、PCで調べものをしたりする時間。んで、二三時になると、もうお互い寝る準備は万端になっている。

 布団の上で雑誌を読みながらぐうたらしているフリーターは、明日も別段なにも気にせず生きている。ええい畜生。オレは明日は朝七時には家を出ると言うのに。

 あくびをしながら、オレは自分の布団の上に腰を降ろす。千代もそれに気づいたらしく、雑誌を閉じて、あくびをひとつした。どうやら、つられてしまったらしい。

「さてと、寝ますか」

 そう言うと「んー」と気の抜けた返事。帰ってきたときに昼寝していたのにも関わらず、よくもそんな眠そうな声を出せるなぁ、と感心。実際、眠いのだと思うけど。

「明日は新宿で待ち合わせればいいのか?」

「んー……」

「それは肯定か? 否定か?」

「んぁー」

 額に手を当てて、わざとらしく首を振る。

「……どっちなんだ」

 少し声を低くすると、さすがに彼女も体を起こして、こっちを向いた。

「そうだね。明日は新宿。とりあえず、いつもの場所で」

「りょーかい。仕事終わったら連絡するよ」

「ん」

 最後にぎゅっ、と彼女から抱きついてくる。んー、よしよし。まるで猫のように、甘えるときと、そうじゃないときがコイツは極端だ。一切甘えてこないときもあるし、かと思ったら、一日中甘えるときだってある。気まぐれすぎて、女ってのはみんなこうなんじゃないかと思ってしまう。

 頭を撫でることはしない。抱きしめている千代はそのままに、オレはずっとそこに居るだけでいい。ぶっちゃけ、頭撫でられることがあんまり千代は好きじゃないみたいだし、甘えているときに、千代のリクエストに応えるだけでいい。

「ほれ」

 指を千代の布団のほうに向けると「もーちょっと」とだけ返ってくる。やれやれ、ゲームしているときの『魔女』っぷりはどこへやら。

 もうちょっと、の発言から文字通りもうちょっと。つまり一〇秒ほどで、千代はオレから離れて、自分の布団に戻っていった。

「おやすみ」

 それだけ言って、今度はそっぽを向いて、自分だけ寝てしまう。まったく、なんてヤツだ。こっちは抱きつかれてまだドキドキしてるってのに、コイツは……。ため息をついてもどうしようもないし、とりあえず、オレも寝ることにする。明日も仕事だし。

 ぱち、と電灯のスイッチを押して、部屋は暗闇に包まれる。携帯電話のアラームを設定して、手探りで電波時計を枕元に持ってきてから、オレも布団のなかに潜る。睡魔は、すぐに、やって……くる……―――


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