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1/起 - 上

前書き:この作品は「オチなし」「ストーリーなし」の作品です。ただ、文字が羅列してあるだけです。

これは、ゲームセンターに青春を捧げた男の、ちょっと頭の悪い妄想劇


 歳を取ったな、中佐。

 と、思うことは最近よくある。とはいえ、歳としては別に二五過ぎ。同僚や、職場の上司に言うと「若いのになにを言っているんだ」と言われる始末。まぁ、一般的には二十代後半ぐらいまではまだ「若い」の部類に入っているんだろうなぁ、などと思いつつ、しかし、それとはまた別のところで「歳を取ったな」と呟くのであった。いや、なにせ、布団から起き上がると肩が痛いの、マジで。

 就職活動をして、早三年。つまり、社会人三年生となったオレだが、いまだに社会の仕組みに首を傾げつつ、そのなかでもまだまだ安定した職場に入ったもんだなぁ、と、少しの安心感を覚えながら、日々を生きている。普通の同僚と違って、日々の生活はワリと充実しているとも思うけど、毎日八時間以上拘束を強いられるのは、オレだって嫌だ。できれば、毎日家で遊んでいたいとまだ思う年頃だよ。

 プログラマーとして、毎日雑用の数々をしているオレ。つまりこういった職業っていうのは、どうにも、自社よりも他社に赴いて仕事をすることが多い。しかもひとりで。電車のなかで圧死だけはしたくないものだ。

 夕方の報告会を終えると、時刻は一八時ちょっと前、って言ったところ。すぐに支度をして、残業をする人間たちを横目にそそくさと帰る準備。

「おや、仲代さん。今日も〝コレ〟ですか?」

 コレ、と言いながら、隣の席に居るひとつ年上の、別会社の岡本さんが妙なアクションをする。

 先も言ったように、どちらかと言うと自社より他社での仕事が多い分、他社の人間とこうして交流することも多い。とはいえ、職場のみの関係で、プライベートでも一緒になにかすると云うような関係ではないけど。そもそも、自社でもそんなに関係はもたないし。飲み会ですら、あんまり行かないな。人付き合いの悪い人間だと思われているだろうケド、そんなのはひとの勝手だ。強制されるようなものじゃあ、ない。

 話を戻す。コレ、と云うものの動作を、オレはよくご存知だ。オレがそういう人間だってことを、周りの人間は解っている。社会人、大人ってこともあって、態度には出さないし、ガキじゃあるまいしからかうこともない。本心、どう思っているかは解らないけど、直接危害がない分、マシ。

「まぁ、そうですね。とはいっても、今日は家なんで、寄ってくことはないんですけど」

 今日はどちらかと言えば珍しい日。いつもなら、外でやってから帰るんだけど、たまにはそんな疲れを癒す日が必要。一週間に一度ぐらい行かない日があっても良い。ぶっちゃけ、オレ的には一週間に二度はあってもいい気がするんだけどなぁ、それはアイツが許さないからなぁ。好きでやってることだから、不満もなにもないんだけど、疲れを癒す日は必要だと思うんだが。

 片づけを終え、テーブルの上のノートPCを上からパタンと閉じると、「お先に失礼します」とのひと言と同時に、オレは職場をあとにする。ビル二一階に存在している職場なので、当然、エレベーターで下に降り、最寄り駅を乗り継いで、住処に戻る。

 ……ざっと、一時間ってところで、住処の最寄り駅に着く。駅中のショッピングセンターで夕食の買い物をして、腕時計を確認すると、一九時一〇分。今日の夕食当番はオレなので、急いで帰って支度をしないとな。そこから、歩いて一〇分ちょいで、住処のアパートにたどり着く。

「さて、と」

 重い荷物を持ち直して、インターフォンを押す。自分の家だと言うのにインターフォンを押さないといけないとか云うのはちょっちアレな気がしてならないけど、これも全部規則。共同生活において、そう言った規則は必要だからな。つけておかないと、ヒドイ目にしかあわないことは、まぁ色々と解っているからな。

 予想では、インターフォンを押して少しすれば開くはずだったのだが、どうやら今日の予想はハズレ。腕時計を見て、一分が経過した。これもまた規則のひとつで、一分経過して反応がなかった場合は中に入っても良いと云う規則だ。元々は、もうちょい長かったんだけど、冬が辛いとのことで、一分になった。


 がちゃ、ぎぃ。


 乾いた音。このアパート自体そこまで古いものでもないし、そこまで鈍い音はしない。玄関には袋に詰められたゴミが産卵しているけど、それを乗り越えればまぁワリとキレイ。掃除する人間が居るだけで、部屋とはキレイになるものだなぁ、と感心する。

 反応がなかったからシャワーかな、と思ったけど、風呂場の電気は点いていない。ただ、換気扇のまわる音が聞こえるので、シャワー自体は浴びたらしい。もう一九時も過ぎてるし、まぁ、いつも通りか。トイレにも電気が点いていなかったから、トイレでもない。そうなると、部屋のなかで―――

「やっぱり寝てる」

 ―――だと思った。

 電気を点け放しで、畳んで端に置いてある布団の上で寝息を立てている同居人をみて、オレは、ふぅ、とひとつため息を吐く。呆れた、ではなくて、安堵のため息。いつも通りだなぁ、と云う安心感。

 いまのうちに、やることやっておかないとな。夕食も作らないとだし、シャワーも浴びないとだし。さすがに汗臭いままで居るのは、こいつにも、オレ的にもやりたくはない。スーツの上着だけを脱いで、ハンガーにかけると、台所のほうに戻る。ひとり暮らし用の小さな台所だ。

 さて、と。今日は水曜日だし、飯類でここ二日きた、と云うこともあって、飯類を作る気ではなかった。喩え、作るとしてもチャーハンとか、変わり飯だな。だけど変わり飯は今日は作らない。家に居てゆっくりできる以上、そこまで飯を作るのに時間を掛けていると、なんか、勿体ない気分になる。ってなワケで、今日の夕食はラーメンにすることにした。夜ラーメンっていうのはちょっとアレだけどな。それはオレが今日夕食当番なのを恨んでくれ。

 ラーメンは茹でるだけだからな。野菜も、ぱっといためるだけで良いし。ってなワケで、今日の夕食の味噌ラーメンに決定する。

 料理を作る前にシャワーを浴びて、そのあとから料理を作る。野菜をいためるぐらいしかやることはないので、適当に。茹でた麺の上にスープと、野菜を乗せれば完成。楽々だな。これぐらいなら、男のオレでも作れるレベル。

 さて、ラーメンもできたし、そろそろ起こすか。こんなに熟睡して、明日朝起きられなくなるんだよなぁ。夜眠れなくて。あんまりこいつには関係のないことかもしれないけど、こっちは精神的に〝くる〟ものがあるからカンベンしてもらいたい。

 テーブルに食事を並べて、そして、布団の上で熟睡している「彼女」を起こす。

「おい、起きろ。帰ってきたぞ。あと、飯できてるぞ」

 しばらく反応がなかったが、そのあと小さく「うーん」とだけ呻く。早く起きてもらわないと、ラーメンのびちまうし、強硬手段にでるか。

「うり」

 オレは「彼女」のわき腹向けて、指でつつく。すると、すぐに彼女はその場所から飛び起きた。

「うっひぃ!」

 なんて、素っ頓狂な声をあげて。

「起きたか」

「ヒドイなぁ……。思わず飛び起きちゃったよ……」

「起きないのが悪い。ほれ、とっとと飯食っちまえ」

「ラーメンかぁ……」

 折角作ったものに文句をたれやがってこのフリーターめぇ……

「まぁ食べるけどね」

 文句を言いつつも、オレの作る料理はちゃんと口にするあたりはまぁ良いとしよう。こいつ自身そこまで料理が得意なワケじゃないし、正直料理担当はオレになりつつはある。なにかを得意になると、なにかが苦手になるっていうのは、ひとによっちゃあるんだなぁ。そんなことを考えながら、オレもラーメンをすする。

 ……食事は迅速に、かつ効率よくとる。そんなセリフをどこかで聴いたことがあったけど、そのとおり。食事に時間を掛けていいのは、食事がメインになる日だけだ。食事を単なる空腹を満たすためのものだと思っている日は、ゆっくりなんて、食べていられない。食事をすぐに終えて、ラーメンのお椀などを台所に置くと、すぐに、今日の本題に入る。

「さて…………やろうか」

「彼女」のスイッチが入る。先ほどまでの脱力系女子とは違い、目つきも変わる。やっている人間なら解る。コイツは「強い」と云う無言のオーラのようなもの。それすら感じさせる。

 仕事を終えて、家に帰ってきて。既に時刻は二〇時を過ぎている頃合。だけど、オレたちにとっての『熱い』時間はまさにこれから始まると言っても過言ではない。

 部屋の端に設置されたモニターにはコードが幾つか繋がっており、それらの先には家庭用ゲーム機の『PS3rd』が設置されている。でんっ、とした躯体。その足元付近に存在しているUSB端子2スロットは既に埋まっている。埋まっている理由の代物は、そこから伸びて、オレと「彼女」の膝の上にあるそれだ。四角の細長い箱のようにも見えるそれは、天井にレバーと、合計九つのボタンが設置されている。見慣れない人間であろうとも、それが一体どこで見るものなのかは検討もつくだろう。

 がちゃがちゃ、と音が鳴るのが難点だが、やはり、こちらのほうが落ち着く。膝上に置かれたのは『アーケードコントローラー』―――略して『アケコン』などと言われる―――。これで行うものは、当然、解りきっているだろう。

 ゲームだ。テレビゲーム。

「とりあえず、まずはチェックから始めようか。私は今日昼間やってたけど、そっちは違うでしょ」

「お生憎サマ。オレは仕事でした」

「そりゃご苦労」

「以上、ねぎらいの言葉でした……」

 とはいえ、突然動かしても上手くいく自信はないし、ここはお言葉に甘えてトレモ―――『トレーニングモード』の略称。練習のために動かない敵を相手にする主に対戦ゲームに良く用意されているモード・システム―――をさせてもらおう。

 さて、ここまできて、さすがに解っているだろう。

 オレこと、仲代工大と、その恋人である霧島千代は対戦ゲーマーである。



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