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0/起よりも前

ゲームセンターに青春を捧げた男の、ちょっと頭の悪い妄想劇

 熱い時代はどこにだって存在している。場所を探せば、色んなものがある。

 それは世間一般で言うところの野球だとかサッカーだとかのスポーツ。中学とか、高校のときに憧れるバンドだとかの音楽活動。大学生にまでなるとスポーツカーだとか、バイクだとか、もっと高価なものに人間は気を引かれる。もちろん、それは男のモノであって、女が手を出すかと言われたらまた別の話。男にとってしてみれば、女たちのそういった流行ものは、ファッションだとか、変身願望とかに集約されているんじゃないかな、とか思っている。とにかく、そんな「熱い」ものっていうのは、オープンで、かつ評価されるべき代物なのだ。

 足を止めて、横を見てみれば、駅前でギターを振るう若者たち。そこにできる人だかり。ダンサーのパフォーマンス。カッコイイだろうな。他にも、昼間に外をぶらつくと見える野球の試合や、サッカーの試合、ネットに囲まれた公園で行われているバスケットボール。マイナーな種目であろうと、スポーツ選手たちは輝いて見える。

 世間一般。「普通」と呼ばれるものに、それらは入っている。健全な精神で、健全なルールな下で行われているそれらは「趣味」「生きがい」と呼ばれるのに相応しいものと認識されていた。


 ―――くっだらねぇ。


 オレにしてみれば、そんなものは「クダラナイ」代物だった。

 昔はそう、野球なんかは結構「熱く」なれたと思う。中学の二年生までは、野球部に所属して、野球だけの生活を送ってきた。けど、そんなものは「流行に乗った」に過ぎない。昔いた、大衆を纏め上げるガキ大将は〝自分のやることこそが評価されるべき、すべての友人と思っている連中がやるべきもの〟だと無言の主張をしていた。彼が野球部に入れば、他の連中も続かなければならない。そうじゃなければ、グループから外されて、良ければそのまま疎遠か、悪けりゃイジメが待ってる。要するに、ガキなんだ。

 あのころから、知っていた。見分けなんてついていた。自分が「そっち側」だったから解る。要するに、イジメの対象っていうのは、自分と違うことをしているスカしたヤツをとっちめて、自分の優位性を保ちたいだけのクズがやることだって。ある日、野球に本気じゃなくなったからと言って、その存在すら否定する。時代が時代なら大問題だけど、あのころは特にそれ以上のものはなかった。誰しも知らないフリをして、誰しも同情はしても助けてはくれなかった。

 熱くなれるものの違いがひとを迫害する。そしてそれは、どれだけ歳をとっても同じだ。

 一般大衆にそぐわない、いわゆる「ダサい」ヤツは、迫害の対象になる。自分の好きを主張できない時代になったんだ。世の中には選択肢が溢れている。やりたいこと、趣味は幅を広げている。そこで、一般大衆とやらは、それらを幾つかのカテゴリーに分別して、自分の理解が及ばないもの。もしくは、かつてやっていたけど、大衆意見に飲み込まれてかつての自分を「ダサい」と定義して、否定しているもの。それらにたいする風当たりは強くなっていく。


 だけど、だとしても―――


 その「熱い」気持ちは本当は否定されるべきものじゃない。



 どぅっ、どぅっ、どぅっ、どぅっ!


 リズミカルな音。耳障りな音。大音量で鳴り響くそれらは、雑音にしか聴こえない。様々な音が混ざり合ってできているそれらは、遠くから聴けば単なる音に過ぎない。


 がちがちがち、かちかち、かちゃかちゃ、しゅんしゅん。


 音を書き分けていくと、そんな音も聞こえる。ざわつく空気のなか、乾いた音は聴きやすい。


 ドゥケン! ドゥケン! ディバイドゥ!


 ……そんななかに混ざるのは、声。ひとの声じゃない。いや、本当はひとの声なんだけどさ。そこのなかに入っている声は、既に彼らからすれば現実のものではなくて、そのなかに入っている物語の声だった。


 ンダヨォ! バッカジャネェノ! ハハハハハハハッ!


 そして次に混ざるのは、紛れもない人間自身の声。

 それらの様々な音は、混ざって、この空間を作り出している。ひとが集うこの場所には、そんな談笑、罵声、すべてがある。人間の喜怒哀楽がある。それは良い意味でも、悪い意味でも、人間味を感じる場所だ。そんな無法地帯にも、社会地位なんてのは存在しているから不思議なものだ。もちろん、近年ではあまり年齢は感じさせないぐらいには軟化しているけど。

 彼らはこれをどう思っているかは解らない。合間の暇つぶし程度に思っているかもしれない。本気でやるものではない、とか思っているかもしれない。けど、ここに集う連中は基本的に変わらない。だから、同じ顔を見るたびに思うのは、彼らはここが、そしてここにあるものが「好き」なんだと。口でどう言っていても、ときには「クソ」と罵ることがあったとしても、また、そこに来てしまう。だから彼らはどうしようもなくそれにハマっていて、それに情熱を注いでいる。つまり「熱い」んだ。

 そしてそれはオレも同じこと。

 それはオレを熱くさせる。それはオレに喜怒哀楽をもたらす。それはオレに、生きていることを実感させてくれる。それはオレに他人よりも優れている箇所を教えてくれる。

 熱い。

 熱い。

 熱い。

 ひたすらに、熱い。

 好きなんだ。これが。

 だから、オレは今日もここにくる。そして、百円を入れるんだと思う。



 たかがゲーム、真面目にやるもんじゃない。

 世間一般からの認識。世間から外れてしまったテレビゲームってヤツは、ブームを作り出し、社会現象すら作ったというのに、誰にも理解されない代物であった。どこに行っても、なにを行っても、彼らはその言葉を撤回するつもりはない。そしてそれはオレも同じこと。

 健全な趣味としてサッカーを例に挙げられる。ゲームと比べるな、と言われる。だが、それならこっちとしても、サッカーと比べるな、と言える。

 娯楽や、遊びとして作られた経緯は同じはずだ。それがなぜか違うといわれる。同じ人間によって作られたものだってのに、ルールだって存在している。人間の努力だって求められる。ずっと、不満だった。一番は自分のやっていること、「熱く」なっていることを否定されるのが嫌だったから、と言うのもある。そして、それ以上に、居場所を失ったオレがやっと見つけた居場所だったから。だったら、自分の安息を守るために意地を張るのは当たり前だ。

 オレにとって、ゲームは「娯楽」の領域を超えていた。もはや、それは「戦い」。ある程度のセオリーを互いに持ったまま、しかし、それをいかにして押し通すか。崩すか。作るか。そんなものが、たった99カウントのゲームに詰まっている。そして、その土台となるゲームは様々なものが用意されている。時には、一対一のサシだったり、四対四のチーム戦だったり……。人間同士が格闘技をするゲームであったり、ロボットがビームを撃ちながら戦うゲームだったり、果てはパズルで戦うゲームであったり。様々なルールや土台が用意されている。そして、セオリーはゲームごとに違う。

 ゲームとひとくくりにしても、そこには人間同士のドラマもあるし、戦いをするに相応しい舞台だって用意されている。けど認知されず、卑下され続ける。オレたちはそんななかでも、ゲームをし続ける。戦い続ける。


 ただ、それを考えているのは当然、オレだけじゃないし、最近の世の中ではゲームを生業としている人間も居るぐらいだ。まぁ、つい最近の話だけどな。けど、世の中の大半の人間はそんな芸当はできないし、彼らが一種の特別であると思う。強い人間は世界に出ていく。

 けど、そうじゃない人間。この極東の地のいたるところにあるそこでも「熱い」戦いはずっと繰り広げられていた。


 ―――オレと、そして「彼女」もまた、そんな人間のひとりだ。


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