2.キョリ約50メートル
転校生の騒ぎは少し鎮まり、やっと日常が戻ってきた頃…
私は、担任に呼び出しを食らった。
「それで、美木。今日からラミア君と一緒に図書委員をやってもらいたいんだけど…」
…え?
「あの、先生。図書委員は私だけでも充分回ってますし、それに、ラミアくんはまだ学校にも慣れていません。ましてや、本の場所など覚えられるはずが…
本の場所を覚えていない、それだけで、仕事にかなり時間がかかってしまうんです。正直言って、足手まと…」
そこに運悪くラミアがやって来た。
弁解は、我ながら苦しかったと思う。
『さっきの話』をラミアは聞いていたのだろうか、?
「足手まとい、と言われても仕方ありません。先生、本の場所を覚える時間を僕に頂けませんか?3日で覚えてみせます。」
…やはり、聞こえていたようだ。
このぐらいの歳の男子なら、すぐに怒って言い返してくるようなものなのに、ラミアは落ち着いている。
彼はとてもおおらかな性格なのだろう。
「3日か…本当に3日で覚えられるんだな?」
担任も少し面白半分に問いかけているが…
「はい、もちろんです。必ず覚えてみせます!」
と、思いもよらぬ真面目な返答が返ってきたので、
「3日で無理なようなら、1週間でも大丈夫だぞ」
と慌てて付け足した。
そして担任は、その場を逃げるかのように「頼んだぞ」と私の肩に重りを乗せた。
「あ、えっと…僕はラミア。よろしくね…ミキさん…?」
驚いた。
先程、陰口まがいの事を言われていたのにラミアは全く動じていなかった。
私の図書委員ぼっち大作戦は失敗に終わったが、相手がこのような態度ならやりやすい。
ラミアに「ミキ…さん?」と呼ばれ、自己紹介をしなくてはいけなくなった。
頑張れ、私。コミュ症封印!!!
「美木…桐梨」
「ト、ウリ?よろしくね!桐梨!」
一瞬、ラミアの目が赤く見えた気がした。
気のせいか…今はコバルトブルーで澄んだ色をしている。
「さぁ、行こう。桐梨」
「あ、うん」
階段を降りる2人の後ろからポチャンと何かが滴る音がした…