1.キョリ約100メートル
「ラミアです、よろしくお願いします。」
10月の上旬、定期考査前という慌ただしい時期に『転校生』がやってきた。
ざわざわと教室が騒がしくなる。
先ほどまでは、シャープペンシルを落とした音でさえ響き渡るほど静かだったが、今はもう先生の怒声も聞こえないほどに騒がしい。
突然の転校生の登場に、かっこいいだの、イケメンだの、優しそうだの、女子からは黄色い声が聞こえてくる反面、
体弱そうだの、日本語分かんの?だの、髪染めは校則違反だの、男子からは批判的な声が聞こえてくる。
かくいう私は、どちらかというと後者の方だが。
「では、ラミア君。あそこの空いてる席に座りなさい。」
はい。と返事をし、『転校生』は颯爽と私の横を通り過ぎる。
その瞬間に、ほのかに懐かしい匂いがした。
しかし、その香りを嗅いだ時、明らかに体が拒否反応を示した。
どこかで嗅いだことのある、何となく嫌な匂い…
「ねーねー!」
と、不意に後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り向くと、今まで事務的な内容でしか話した事のない、宮…沢さんが満面の笑顔を浮かべながら、
「ラミアくんってさ、すっごいいい匂いしない?さっき私の横通った時ね!綺麗なブロンドの髪からふわぁ…って!ふふっ、そう思わない?」
無駄に高いテンションで話しかけられ、戸惑うコミュ症の私は、彼女とは真反対の作り笑いを浮かべ、不本意だが同意をしておいた。
クラス全員の自己紹介も一段落し、休み時間の頃。
私は、独りで席に座って考え事をしていた。
『出来る限り、関わりたくない。関わらないためには…どうしたら』
私は、突然のトラブル発生の可能性の解析を始めた。
「転校生」は、廊下際の一番後ろの席。
「私」は、窓際の一番前の席。
「転校生」の周りは、女子だらけ。
「私」の周りは…悲しいかな、誰も寄ってこない。
(トラブルに巻き込まれる可能性は少ないかな。コミュ症って時には役に立つかも…コミュ症で良かった)
と、少し自傷的な笑みを浮かべながら窓の外に目を向けた。