着陸と邂逅
・地球という星を、知識では知っていた。人類発祥の地であり、1500年余前、人類が捨て去った星だ。なんでも、戦争が起きたとかで、地表に住めなくなってしまったのだそうだ。
人類が光速航行を開発して1年。人類発祥の地を最初に踏むのが、まさか自分だとは思っていなかったが。
なんとか陸地に着陸はできたものの、大気の状態がわからないため、宇宙服を着て外へ出てみる。
「っ!!これは・・・」
視界いっぱいの青だった。火星に海はない。岩石の星だからだ。コロニーに人口湖はあるが、視界いっぱい、どこをみても360度水に囲まれた光景は見たことが無かった。柄にもなくその光景に感動していると、遠くに何かが見える。完全にエネルギー切れで、宇宙船は動かないので、波に任せて漂っているだけなのだが、その何かは段々と近づいてくる。
もう後数十メートルというところまで近づいて止まった。見たことも無い船だった。その船から人の声がして驚愕した。
「聞こえますかー?誰か乗ってますかー?」
「っ!?誰かいるんですか!?助けてください!」
まさか、人がいるのか・・・?すでに人類は地球への帰還を果たしていたのだろうか。特異な形状の船から、美しい金髪の少女が手を振っていた。
「私はクロエ・ホワイト。あなたは?」
「僕はヒロシ。姓はありません。」
「そう・・・。ところで、どうしてあんなところで漂流していたの?あなたが乗っていたあの船は何?」
「あの船は宇宙船で僕の船です。漂流していたのは船の故障が原因で、この星に着陸したからです」
「で、あの船動くの?宇宙船って何?見たところあなた人間みたいだけど、宇宙人なの?」
「あの船は、エネルギー切れでもう動きません。宇宙船とは宇宙を航行できる船のことです。そして俺は人間です・・・というか、クロエこそ人間なのか?」
「人間以外の何に見えるっていうのよ!」
宇宙船を知らない・・・?火星の人類で宇宙船の存在を知らない奴なんていないはずだ。光速航行が発表されて1年だが、その存在は既に、大多数の人が知っている。・・・という事は、火星の住民ではない?原住民ということか。
だがしかし、地球は人が住める環境ではなくなったはず・・・。僕がクロエの発言をスルーして黙考していると、
「あんた、いい度胸してるわね。漂流していた分際でお礼も無いわ、あまつさえ救助してもらった人間をスルーするとかどういう神経してるの?」
「すいません。ちょっと混乱していて・・・」
「まぁいいわ。とりあえず陸にあがりましょう。話はそれからよ」
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クロエの船へ移り、数分で陸へ到着した。ちなみに、宇宙船は放置してきた。クロエ一人の動力で、宇宙船を曳航できなかったからだ。
船を下りたクロエは、肩で息をしながら言う。
「はぁ・・・。あんた、男の癖に驚くほど力がないわね。ひょろひょろだし」
名誉のために言うが、最初からクロエ一人に漕がそうとしていたわけではない。どうやってもオールが動かなかったのだ。それに、最初は混乱していて気づかなかったが、体がやけに重い。・・・そうか重力が違うのか。またもクロエをスルーして黙考していると、腹の虫が鳴った。
「・・・ほんといい度胸してるわね。ちょっと待ってなさい」
そういってクロエは森の方へ走っていった。果物でも探しにいってくれたのだろう。ちゃんとお礼を言わないといけないな。10分程待っていると、遠くからクロエの焦った声が聞こえてきた。
「そっちに、グリズリーが行ったわ!逃げて!」
グリズリーとは何のことだろうか?焦った声から察するに危ない物なのだろう。僕は急いでその場を離れようと、浜辺を走ろうとして、ズッコケた。重力の違いのせいで、体が重いのだ。思うように動けない。僕がもたついていると、木々の間からもの凄い速さで、大きな動物が迫ってきた。