直接対決
松子は愛想笑いをして萌を見た。
(同じ負け犬なんだから、敵視する必要はないわ)
自分の寛大さに感動をしてしまう松子である。
ところが、どうした事か、萌は松子を射るような目で睨んでいた。
(どういう事?)
全く理解不能な萌に松子は戸惑った。
「唐揚げのバリ辛を一人前ください」
萌は松子を睨んだままで告げた。松子はハッと我に返り、
「畏まりました」
慌てて準備を始めた。
(お客様がご不満をお持ちの際には即座に対応するべきだけど)
松子は店の経営に関わる事だとまずいと判断し、話をしようと思った。
「ちょっと出られませんか?」
唐揚げを渡すと、萌の方から誘ってきたので、店長に許可を得て店の裏で話す事になった。
萌の話の内容が見当もつかない松子は、毛を刈られた羊のように震えながら萌と対面した。
(初めて男の人に告白した時より心臓に負担が……)
ダイエットに成功して内臓への負担が軽減したはずだったが、そんな事を忘れてしまうくらいつらくなった。
「あの……」
松子が声をかけると萌は、
「長谷川さんと出会ったのは私の方が先なんだから、諦めてください」
萌は何も知らないと思ったのだが、何も知らないのは松子だとわかる事になるのだった。