ナガミヒナゲシが駆除できない
今年もこの季節になりました。去年のことを思い出して書きます。
ナガミヒナゲシが駆除できない。
ナガミヒナゲシ、そう、ヒナゲシという可憐な名前、そしてオレンジ色の可愛らしい見た目に反して、やっかいなあの花である。地中海沿岸原産の外来種、綺麗なバラには棘があるではなく、花のオレンジ色を作る茎の黄色い汁には刺激性の物質が含まれていて、うかつに触ると手荒れを起こす。そして、なにより、強烈な繁殖力。ひと粒のタネが育つと、千粒以上の、文字通り芥子粒ほどの小さなタネが詰まった細長い実をつける。一個体にその実がいくつもいくつも。一粒万倍状態で育ったタネは、自動車のタイヤなどにくっついて運ばれ、各地に生息域を広げている。この繁殖力と有毒物質により、日本の在来種と生態系にも影響があるかもしれないという話も聞く。
と、そんなナガミヒナゲシ、私、電子の海の海月の住む町内の歩道、縁石とアスファルトの隙間にも、数年前から生えてくるようになった。最初は、ケシの花だ、最近増えたなあ、エキス (自主規制)でも取れないかなあ、などとのんびり思っていた。しかし、先ほどの性質を持った外来種と知り、これは駆除しなくてはならぬと海月は決意したのだった。
さっそく、花開いたナガミヒナゲシを株ごと抜き取ろうと歩道にやってきた。けれど、ふと手を止める。この歩道は、近所の人の散歩ルート、小学生の通学路なのだ。花を楽しんでいる小学生がいるのに、それを目の前で引っこ抜いてしまっていいのだろうか。海月は躊躇し、その日は撤収したのであった。
そして数日後……、ナガミヒナゲシは花びらを散らし、立派な長い実をつけたのだった。このままでは、数千粒の芥子粒が飛び散ってしまう。そこではたとひらめいた。今生えているこいつを抜くのは可哀そうだが、次の世代が広がらないようにすればいいではないかと。ナガミヒナゲシのナガミの部分、これを摘み取ってしまおう。海月は早速行動に移した。実の部分を、少し下から摘み取り、汁が手に付かないように注意しながら集めて持ち帰り、燃えるゴミのゴミ箱に投入。これで一件落着、となるはずだったのだが……。
ナガミヒナゲシ、何と、また実をつけて、花を咲かせたのである。しかも、前回より数が増えている。生えてきたつぼみが咲いて花が散り、ナガミになったところで再度摘み取る。しかし、再度の摘み取りの後には、さらに増えて花を咲かすのだ。まるで、ギリシャ神話に出てくるヒュドラ――一本首を切り落とすと、新しく二本生えてくる多頭の蛇の怪物のよう。実を摘まれた茎に流れた黄色い汁が赤黒く固まり、ナガミヒナゲシは無残な姿に。そりゃそうだ、ナガミヒナゲシだって、子孫を残すために頑張って咲いているのだ。何回目かの摘み取りで海月が根負けして、ナガミヒナゲシの勝利。
次、もはやこれは引き抜くしかないと決意を固める。ちょうど、歩道の縁石の隙間は草だらけ、草と一緒に片端から刈り取って、みんなまとめて燃やしてしまえと。鎌を持って歩道にやってきた。ところが、縁石とアスファルトの隙間、鎌だと刃が入らず、うまく刈れない。何度か試してもダメなので、一度帰宅。次はハサミを持って戻ってきて、さて刈るぞと始めたのだが……。今度は、アスファルトの割れ目に咲くスミレを見つけた。こちらは在来種。しかも、近所の人、小学生も楽しみにしている。刈り取るわけにはいかない。ここでふと立ち止まる。同じ人を楽しませる花なのに、在来種と外来種の違いだけで、抜く、抜かない、の扱いを変えていいのだろうか。しばらく迷った末、イネ科の何かの地上部をハサミで刈りながら考えることにした。そうこうするうちに雨が降ってきて、その日は撤退。海月の優柔不断!
次の週末こそは刈ってやると意気込むも、予定が入ったり、雨が降ったり、ゴミ袋を忘れたり……。引き抜こうとするたびに、すったもんだ。そうして今日も、
ナガミヒナゲシが駆除できない。
こうして生き残ったナガミヒナゲシですが、近所の一斉清掃のときに、まとめて引き抜かれました。徹底的に駆除されて、今年は数株生えただけです。子供が触ってかぶれてしまう心配もなくなりました。一件落着。




