バイト帰りに入ったバーで、女社長に人生を変えられた話
その日、俺は知らない店の扉を開けた。
理由なんて、たいしたものじゃない。
大学の講義が終わって、バイトも休みで、友達と遊ぶ予定もなくて、家に帰っても動画を眺めて寝るだけだと分かっていたから、いつもなら通り過ぎるだけの細い路地に、なんとなく足を向けてしまっただけだった。
駅前の喧騒から一本外れたその道は、夜になるには少し早い時間でも薄暗く、表通りのチェーン店の明かりとは違う、落ち着いた色の看板がぽつぽつと並んでいた。その中に、小さなバーがあった。
木製の扉。
磨かれた真鍮の取っ手。
黒い看板に、白い文字で店名だけが書かれている。
俺のような大学生が、ふらっと入っていい場所には見えなかった。
「……帰るか」
そう呟いたくせに、足は動かなかった。
二十歳になったばかりで、酒の味なんてまだよく分からない。飲み会で出てくる安いサワーを何となく飲んだことがあるくらいで、バーなんてテレビや漫画の中の場所だと思っていた。
それでも、その日は少しだけ日常から外れてみたかった。
就活の話をする友人たち。
将来のことを聞いてくる親。
特別な夢もなく、だからといって何かに本気で打ち込んでいるわけでもない自分。
そういうもの全部から、ほんの一時間だけでも離れたかったのかもしれない。
俺は取っ手に手をかけた。
扉を開けると、小さなベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から、落ち着いた声がした。
店内は思っていたよりも狭く、照明は暗すぎない程度に落とされている。カウンター席が八つほど。奥に小さなテーブル席が二つ。客は三人だけで、誰も大きな声を出していない。
俺は一瞬で場違いだと分かった。
スーツ姿の男性が静かにグラスを傾けている。年配の女性がテーブル席で本を読んでいる。そしてカウンターの端に、ひとりの女性が座っていた。
最初に目を引いたのは、その女性だった。
派手な服を着ているわけではない。
むしろ、黒いジャケットに白いブラウスという落ち着いた格好で、髪もきれいにまとめられている。ただ座っているだけなのに、周囲の空気が少しだけ整うような雰囲気があった。
大人の女性。
その言葉が一番しっくりきた。
俺は視線を逸らし、空いている席に座る。
「お飲み物は?」
バーテンダーに聞かれて、メニューを見る。
知らない名前ばかりだった。
ジントニックくらいは聞いたことがある。カシスオレンジも分かる。でも、それ以外はほとんど分からない。何を頼めばいいのか分からず、無駄にメニューを眺め続ける。
その時だった。
「初めて?」
横から声がした。
振り向くと、さっきの女性がこちらを見ていた。
年齢は二十代後半か、三十代前半くらいだろうか。顔立ちは整っているが、それ以上に目が印象的だった。相手を見透かすようでいて、責めるような強さはない。静かで、少し疲れているようにも見える目だった。
「……分かりますか」
俺が苦笑いで答えると、女性は小さく笑った。
「メニューを見ている時間が長かったから」
「すみません。こういう店、初めてで」
「謝ることじゃないわ。最初は誰でも分からないもの」
女性はそう言うと、バーテンダーに目を向けた。
「彼に飲みやすいものを。強すぎないやつ」
「かしこまりました」
俺は慌てて言った。
「あ、すみません。勝手に頼ませちゃって」
「嫌だった?」
「いえ、助かりました」
正直に言うと、女性は少しだけ楽しそうに目を細めた。
「素直ね」
そう言われて、少し困った。
素直と言われたことは、あまりない。優柔不断とか、流されやすいとかなら何度もあるけれど。
出されたグラスには、淡い琥珀色の液体が入っていた。
恐る恐る口をつける。
思っていたより飲みやすかった。甘すぎず、苦すぎず、喉を通ったあとに少しだけ温かさが残る。
「……おいしいです」
「よかった」
女性は自分のグラスを傾ける。
その仕草が自然だった。
無理に大人っぽくしているわけではなく、その場所に馴染んでいる。俺とは違う世界の人だと思った。
「学生?」
「はい。大学三年です」
「就活の時期ね」
その一言に、思わず表情が固まった。
女性はそれに気づいたらしく、少しだけ笑う。
「ごめんなさい。嫌な話題だった?」
「嫌というか……最近そればっかりで」
「分かるわ」
「分かるんですか?」
「分かるわよ。私にも大学生だった頃くらいあるもの」
冗談のように言われて、少しだけ肩の力が抜ける。
「就活、うまくいってないの?」
「まだ始めたばかりですけど、何をしたいのか分からなくて」
口にしてから、初対面の人に何を話しているんだろうと思った。
でも、不思議と止まらなかった。
「周りはもう動いてるんです。自己分析とか、インターンとか、業界研究とか。でも俺は、何を見てもピンとこなくて。別にやりたいことがあるわけでもないし、かといって何でもいいってほど割り切れてるわけでもなくて」
女性は黙って聞いていた。
否定も、励ましもしない。
ただ聞いてくれる。
それが、思っていた以上に楽だった。
「すみません。初対面なのに」
「いいのよ。バーって、そういう場所でもあるから」
「そういう場所?」
「知らない人に、普段なら言わないことを少しだけ話す場所」
その言い方が、やけにしっくりきた。
俺はグラスを見下ろす。
「あなたは……何をしてる人なんですか?」
聞いてから、失礼だったかもしれないと思った。
でも女性は気にした様子もなく答えた。
「会社をやってるの」
「会社?」
「ええ。小さいけど、一応社長」
「……社長?」
思わず聞き返してしまった。
女性は困ったように笑う。
「そんなに驚く?」
「いや、驚きますよ。社長って、もっとこう……」
「もっと偉そう?」
「いえ、そういう意味じゃなくて」
慌てる俺を見て、女性は少しだけ笑った。
「冗談よ」
そう言ってから、グラスの中の氷を揺らす。
「でも、偉いわけじゃないわ。会社をやってるといっても、毎日問題ばかり。お金、人間関係、取引先、社員の生活。気づいたら、自分のことなんて一番後回しになる」
その声は、さっきまでより少しだけ低かった。
完璧に見えた人の、ほんの小さな隙間を見た気がした。
「大変なんですね」
「大変よ」
即答だった。
「でも、やめられないんですか」
「やめたいと思う日もあるわ」
女性はグラスを置いた。
「でも、私が投げたら困る人がいる。だから続けてるだけ」
その言葉に、何も返せなかった。
俺は、自分の進路すら決められずにいる。
でもこの人は、誰かの生活を背負っている。
比べるものじゃないと分かっていても、何となく自分が小さく見えた。
「そんな顔しなくていいわ」
女性が言った。
「え?」
「自分なんて、って顔してる」
図星だった。
「若い頃に迷うのは普通よ。むしろ、何も迷わずに進む人の方が怖い」
「でも、迷ってるだけじゃ何も変わらないですよね」
「そうね」
あっさり肯定される。
「でも、迷っていること自体は悪くないわ。問題は、迷ったまま何もしないこと」
その言葉が、妙に残った。
迷うことは悪くない。
でも、何もしないのは違う。
そんな当たり前のことを、今までちゃんと考えたことがなかった気がする。
「……俺、何から始めればいいんですかね」
自分でも情けない質問だと思った。
でも、女性は馬鹿にしなかった。
「明日、一つだけ何かを調べなさい」
「一つだけ?」
「そう。業界でも、会社でも、資格でも何でもいい。一つ調べて、気になったことをメモする。それだけでいいわ」
「それだけで変わりますか?」
「一日では変わらないわ。でも、何もしない自分からは少し離れられる」
俺は、その言葉を何度か頭の中で繰り返した。
何もしない自分から、少し離れる。
それならできるかもしれないと思った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
女性は静かに笑った。
その笑顔は、さっきまでより少しだけ柔らかかった。
「名前、聞いてもいいですか」
俺がそう言うと、女性は一瞬だけ迷ったように見えた。
「玲奈」
「玲奈さん」
「あなたは?」
「悠真です。佐倉悠真」
「悠真くんね」
名前を呼ばれただけなのに、少しだけ胸が変な感じになった。
その日は、それ以上深い話はしなかった。
店を出る時、玲奈さんはまだカウンターに座っていた。
「また来る?」
そう聞かれて、俺は少し考えた。
本当はすぐに「来ます」と言いたかった。
でも、それだと軽すぎる気がした。
「……多分、来ます」
そう答えると、玲奈さんは小さく笑った。
「多分なのね」
「絶対って言うと、嘘っぽいので」
「そういうところ、嫌いじゃないわ」
店を出ると、夜の空気が冷たかった。
でも、少しだけ軽かった。
何も解決していない。
就活のことも、将来のことも、何一つ決まっていない。
それでも、明日一つ調べることだけは決まった。
たったそれだけなのに、自分が少しだけ前に進んだ気がした。
次の日、俺は本当に一つだけ調べた。
最初に調べたのは、玲奈さんの会社だった。
名前だけで検索しても出てこないかと思ったが、意外とすぐに見つかった。
神崎玲奈。
二十九歳。
小さな広告企画会社の代表取締役。
インタビュー記事も一つだけあった。
そこには、仕事に向き合う真面目な言葉が並んでいた。けれど写真の中の玲奈さんは、バーで見た時よりもずっと硬い顔をしていて、少しだけ遠い人に見えた。
俺は記事を最後まで読んだ。
そして、ノートに一つだけ書いた。
「人の言葉を形にする仕事」
広告企画会社が何をするのか、正直まだよく分からない。
でも、少しだけ興味が湧いた。
それから三日後、俺はまたあのバーに行った。
扉を開けると、玲奈さんは前と同じ席に座っていた。
「来たのね」
「多分、来ました」
「変な日本語」
玲奈さんは笑った。
その笑顔を見ると、なぜか安心した。
「調べました」
「何を?」
「玲奈さんの会社」
玲奈さんの手が、一瞬だけ止まった。
「……そう」
怒られるかと思った。
でも、玲奈さんは少しだけ困ったように笑った。
「見られるの、恥ずかしいわね」
「すみません」
「いいのよ。公開されてるものだし」
俺はノートを取り出した。
「広告企画会社って、人の言葉を形にする仕事なんですか」
玲奈さんは少し驚いた顔をしたあと、ゆっくりと頷いた。
「それだけじゃないけど、近いわね」
「少し、面白そうだと思いました」
そう言うと、玲奈さんはしばらく黙った。
そして、少しだけ目を細める。
「ちゃんと調べたのね」
「一つだけですけど」
「一つで十分よ」
その言葉が嬉しかった。
子どもみたいだと思った。
でも、嬉しかった。
そこから、俺は少しずつ変わった。
大きく変わったわけじゃない。
急に意識の高い大学生になったわけでもない。
ただ、何かを一つ調べる。
気になったことをメモする。
分からないことを次に聞く。
それだけを続けた。
バーに行くたびに、玲奈さんは俺の話を聞いてくれた。
時には笑い、時には厳しいことも言った。
「それは調べたとは言わないわ。ただ見ただけ」
「……厳しいですね」
「仕事ならもっと厳しいわよ」
「ですよね」
「でも、前よりは良くなってる」
その一言で、また頑張れた。
そんな日が何度か続いたある夜、店に入ると玲奈さんの様子が少し違った。
いつもの席に座っているのに、背筋が少しだけ疲れて見えた。
グラスにも手をつけていない。
「玲奈さん?」
声をかけると、玲奈さんは少し遅れて顔を上げた。
「ああ、悠真くん」
「大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
その答え方が、大丈夫じゃない人のそれだった。
俺は隣に座る。
「何かあったんですか」
玲奈さんは少し黙った。
いつもなら、うまくかわされるところだった。
でもその日は違った。
「大きな案件が、一つ流れそうなの」
「仕事の?」
「ええ。社員にも期待させてしまった案件だったから、少し困ってる」
少し困ってる。
その言い方が、たぶん本当の重さを隠しているのだと分かった。
「俺にできることは……ないですよね」
言ってから、馬鹿みたいな言葉だと思った。
大学生の俺に、会社の案件をどうにかできるはずがない。
でも玲奈さんは、笑わなかった。
「そうね。仕事をどうにかすることはできないと思う」
「ですよね」
「でも」
玲奈さんは少しだけこちらを見る。
「今、聞いてくれていることは助かってる」
その一言で、胸が詰まった。
俺は何もできない。
でも、何もできないなりに、ここにいることはできるのかもしれない。
「聞きます」
俺は言った。
「何も分からないですけど、聞くことはできます」
玲奈さんは、ほんの少しだけ笑った。
「ありがとう」
それから、玲奈さんは少しずつ話してくれた。
取引先の都合で案件が止まりそうなこと。
社員たちに期待させてしまっていること。
自分が代表として平気な顔をしなければいけないこと。
誰にも弱音を吐けないこと。
俺はただ聞いた。
途中で何か良いことを言おうとしたけれど、やめた。
きっと、この人は正解が欲しいわけじゃない。
ただ、少しだけ荷物を置ける場所が欲しかっただけだ。
話し終えた玲奈さんは、少しだけ疲れた顔で笑った。
「ごめんなさい。大学生相手に何を話してるのかしら」
「大学生でも、聞くくらいできます」
「そうね」
玲奈さんはグラスに口をつけた。
「あなた、最初に会った時より少し変わったわ」
「そうですか?」
「ええ。前は、自分は何もできないって顔をしてた」
「今もそんなにできませんよ」
「でも、何かをしようとはしてる」
その言葉は、バーの薄暗い照明の中で、静かに胸に残った。
俺はその日、初めて玲奈さんを「すごい人」ではなく、「一人で踏ん張っている人」として見た。
そこからまた、関係は少し変わった。
俺は相変わらず大学生で、玲奈さんは会社の社長だった。
年齢も立場も違う。
簡単に近づける相手ではない。
それでも、バーで隣に座って話す時間だけは、少しずつ自然になっていった。
ある日、玲奈さんが言った。
「悠真くん、うちでインターンしてみる?」
「……え?」
本気で声が裏返った。
「無理にとは言わないわ。学生向けの短期インターン。雑用も多いし、楽ではないけど」
「俺でいいんですか」
「あなたがいい、というより、今のあなたが何を見るのか興味がある」
その言い方は玲奈さんらしかった。
優しいのに、甘くはない。
俺は少しだけ考えた。
怖かった。
社長本人に誘われるなんて、普通に考えて重い。
失敗したらどうしようと思った。
役に立たなかったらどうしようとも思った。
でも、最初にこの店に入った時と同じように、ここで引いたら何も変わらない気がした。
「やってみたいです」
そう答えると、玲奈さんは満足そうに頷いた。
「じゃあ、明日詳細を送るわ」
それからの二週間は、今までの大学生活で一番忙しかった。
玲奈さんの会社は、思っていたより小さかった。
社員は八人。
大企業のような華やかさはない。
でも、一人ひとりが自分の仕事に真剣だった。
資料作成。
打ち合わせのメモ。
リサーチ。
雑用。
何をしても、自分の未熟さが分かった。
最初の日、俺が作った資料は真っ赤に直された。
「これは誰に向けた資料?」
玲奈さんに聞かれて、答えられなかった。
「情報を並べるだけなら誰でもできるわ。読む人が何を知りたいのか考えて」
厳しかった。
でも、嫌ではなかった。
ちゃんと見てくれている厳しさだった。
俺は直した。
何度も直した。
終電近くまで残った日もあった。
帰り道、体は疲れているのに、不思議と気持ちは沈んでいなかった。
自分が何かをしている。
そう思えたからだ。
インターン最終日。
俺は小さな企画案を出した。
学生向けの商品広告の案だった。
大したものではない。
でも、今の自分なりに考えたものだった。
会議室で発表すると、社員の人たちは真剣に聞いてくれた。
終わったあと、玲奈さんが言った。
「粗いわね」
やっぱりと思った。
でも、次の言葉で息が止まった。
「でも、悪くない」
それだけだった。
けれど、十分だった。
その日の夜、俺はまたバーに行った。
玲奈さんもいた。
最初に会った席。
同じ照明。
同じ空気。
でも、俺は少しだけ違っていた。
「お疲れさま」
玲奈さんが言った。
「ありがとうございました」
「どうだった?」
「大変でした」
「でしょうね」
「でも、面白かったです」
それは、本心だった。
玲奈さんは少しだけ嬉しそうに笑った。
「ならよかった」
俺はグラスを見つめながら言った。
「俺、まだ将来何をしたいかは分からないです」
「うん」
「でも、何かを作る仕事は、少し好きかもしれません」
「それが分かっただけで十分よ」
静かな言葉だった。
俺はその時、ようやく気づいた。
この人は、俺に答えをくれたわけじゃない。
ただ、考える場所をくれた。
動くきっかけをくれた。
それだけで、人は少し変われる。
「玲奈さん」
「何?」
「最初に会った時、俺に言いましたよね。明日、一つだけ調べろって」
「言ったわね」
「あれ、たぶん俺には必要でした」
玲奈さんは少しだけ目を細める。
「そう」
「ありがとうございました」
そう言うと、玲奈さんは少し困ったように笑った。
「お礼を言われるほどのことはしてないわ」
「俺には、してもらいました」
今度は、ちゃんと言えた。
玲奈さんは黙る。
しばらくの間、氷の音だけがした。
やがて玲奈さんは、静かに言った。
「私も、少し助けられていたのかもしれないわ」
「俺にですか?」
「ええ」
意外だった。
「あなたと話していると、自分が最初に仕事を始めた頃を思い出したの。何も分からないのに、何かを変えたくて必死だった頃」
玲奈さんはグラスを見つめる。
「最近は、守ることばかり考えてた。会社を守る、社員を守る、仕事を守る。それは大事だけど、いつの間にか前に進むことを少し怖がっていたのかもしれない」
その言葉は、たぶん玲奈さん自身に向けたものだった。
俺は黙って聞いた。
「だから、ありがとう」
小さな声だった。
でも、ちゃんと届いた。
その瞬間、最初にこの店に入った日のことを思い出した。
場違いで、何を頼めばいいかも分からなくて、ただ逃げるみたいに日常から外れたあの夜。
あの時の俺は、何も持っていなかった。
でも、何も持っていなかったからこそ、ここに来られたのかもしれない。
「また来てもいいですか」
俺が聞くと、玲奈さんは少し笑った。
「多分?」
「いえ」
今度は迷わなかった。
「また来ます」
玲奈さんは、少しだけ驚いた顔をしてから、穏やかに笑った。
「そう。じゃあ、待ってるわ」
それから俺たちは、いつものように少しだけ話した。
仕事のこと。
大学のこと。
くだらないこと。
将来のこと。
何もかもが劇的に変わったわけじゃない。
俺が急に有能になったわけでもないし、玲奈さんの会社の問題が全部解決したわけでもない。
それでも、確かに変わったものがあった。
俺はもう、何も決められない自分をただ眺めているだけではなくなった。
玲奈さんもまた、誰にも弱さを見せずに立ち続けるだけの人ではなくなった。
帰り際、店の扉を開けると、夜風が頬に触れた。
振り返ると、玲奈さんがカウンターからこちらを見ていた。
「悠真くん」
「はい」
「次に来る時までに、また一つ調べてきなさい」
最初と同じような言葉だった。
でも、意味は少し違って聞こえた。
俺は笑って頷く。
「はい」
外に出る。
駅へ向かう道は、最初に来た日と同じはずだった。
けれど、見えている景色は少し違った。
将来はまだ決まっていない。
不安もある。
迷いもある。
それでも、明日やることが一つだけある。
たったそれだけで、人は少し前に進める。
俺はそう思いながら、夜の道を歩き出した。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この話、まだ手探りで書いている部分も多いので、
もしよければ一言でも感想いただけるとすごく嬉しいです。
特にこのあたり気になってます。
・バーの雰囲気、ちゃんと伝わってましたか?
・玲奈というキャラ、どう感じましたか?(好き/普通/苦手 どれでもOKです)
・悠真に共感できましたか?
どれか一つでも、単語だけでも大丈夫です。
いただいた感想は全部ちゃんと読んで、
これからの話に活かしていきたいと思っています。
ブックマークもめちゃくちゃ励みになります。
「ちょっと良かったかも」と思っていただけたら、
また次も読みに来てもらえると嬉しいです。
本当にありがとうございました。
短編か続きを書くか迷っているので、どちらの方がいいかコメントしていただけると幸いです。




