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強さは、見せつけるものじゃない

※第六話です。


 人はよく、強さを誇示したがる。


 見せつけて、ねじ伏せて、優位に立とうとする。


 でも――本当に強い人は、少し違う。


 無駄にぶつからない。


 必要な分だけ動く。


 ただ、それだけで結果がついてくる。


 これは、そんな「静かな強さ」の話。


 そして、その強さが、思わぬ形で人の心を動かす――そんな一幕です。

 ドラッグストア。


 ネイルコーナーの空気は、すでに張り詰めていた。


「なんだテメー!」


 高田が一歩踏み込む。


「俺の彩花ちゃんに近づいてんじゃねえよ!」


 周囲の視線が集まる。


 だが。


 美南は、ほんの少しだけ目を細めた。


(このタイプね)


(距離感が分からない人)


 冷静に判断する。


 高田の足の位置。

 肩の向き。

 重心のかかり方。


(……前に流れてる)


 読める。


 完全に。


 次の動きが。


「おい、聞いてんのか!」


 腕が伸びてくる。


 その瞬間。


 ――スッ。


 ほんのわずかに体を引く。


「……は?」


 高田の手が、空を切る。


(遅い)


(動きが大きすぎる)


「チッ!」


 苛立ったように、もう一度掴みにくる。


 今度は。


 ほんの少しだけ。


 手首に触れて――流す。


「うおっ!?」


 バランスが崩れる。


 足がもつれる。


 そのまま。


 ドンッ、と鈍い音を立てて尻もちをついた。


「……」


 一瞬、静寂が訪れる。


(……弱い)


(これで営業エース?)


 内心で淡々と評価する。


 息は乱れていない。


 体もぶれていない。


 ただ、避けただけ。


 それだけだった。


「な、なにしやがった……!」


 高田が顔を真っ赤にして睨みつける。


(何もしてないわよ)


(ただ避けただけ)


 その時だった。


「……すご」


 誰かの声。


 次の瞬間。


 ――パチパチパチ。


 周囲の女性たちから、拍手が起こる。


「え、今の何?」


「全然触れてないのに……」


「かっこいい……」


 ざわめきが広がる。


「……え?」


 美南が固まる。


(ちょっと待って)


(なんで拍手されてるの?)


 完全に想定外だった。


 視線が一斉に集まる。


 アタフタする。


「いや、あの……」


 言葉が出てこない。


 一方で。


「……ふふっ」


 彩花は、思わず笑ってしまった。


(なにこの人)


(強いのに、全然自覚ない)


 おかしくて。


 でも。


 どこか、安心する。


 そして。


 ふと、疑問が浮かぶ。


「……あの」


 彩花が声をかける。


「どうして、あんなに強いんですか?」


 素直な問いだった。


「……え?」


 美南が一瞬、考える。


(ああ、そういえば)


「ボクササイズを少し」


 何気なく答える。


「……ボクシング、やってたんですか?」


「いいえ」


 首を横に振る。


「ダイエット目的です」


 あっさりとした返答。


「……」


 彩花が固まる。


(ダイエットであの動き?)


 理解が追いつかない。


 だが。


 なぜか納得してしまう。


(……この人なら、あり得る気がする)


「……危ないですよ」


 美南は、ようやくそれだけ言った。


 たった一言。


 それだけなのに。


 その場の空気は、完全に変わっていた。


「……チッ!」


 高田が舌打ちをする。


 だが、立ち上がることもできずにいる。


 周囲の視線。


 空気。


 すべてが、自分に向いている。


「……覚えてろよ」


 捨て台詞を吐いて、その場を離れていった。


(ああいうタイプは長引くのよね)


 内心で冷静に処理する。


 だが。


 それよりも。


「……あの」


 彩花が声をかける。


 少しだけ、ためらいながら。


「さっきの……ありがとうございました」


「別に」


 短く返す。


(本当に、それだけなんだけど)


 だが。


 彩花の目は、少しだけ違っていた。


「……やっぱり」


 ぽつりと呟く。


「すごい人ですね」


「違います」


 即答だった。


「気づいただけです」


(それが一番大事なの)


 内心で付け加える。


 少しの沈黙。


 そして。


「……あの」


 彩花が、もう一歩踏み出す。


「よかったら……ご飯、行きませんか?」


 まっすぐな視線。


「……は?」


 美南が固まる。


(ちょっと待って)


(なんでそうなるのよ!?)


 内心が混乱する。


 だが。


 何かが、確実に動き始めていた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 強さって、見せるものじゃないんですよね。


 ただ“分かっている人”が、ほんの少し動くだけで、周りの景色が変わってしまう。


 美南にとっては当たり前のことでも、周囲から見ると“とんでもないこと”に見えてしまう――そんなギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです。


 そして、彩花との距離も、少しだけ動き始めました。


 ……この人、絶対普通じゃない。


 そう思いながらも、惹かれてしまう。


 さて、この先どうなるのか。


 引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


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