おっさん、なぜか師匠になる
おっさん生活も慣れて来ました。
おっさんになっても、カリスマ発揮です。
ドラッグストア。
女性用ネイルコーナー。
「……それ、そのまま削ると割れるわよ」
ぽつりと、美南が言った。
「え?」
ネイル用品を手にしていた女子高生が振り返る。
「ファイルの目が粗すぎるの」
棚から一本取る。
「こっちの180グリットくらいがいい」
「……グリット?」
「粗さの単位よ」
淡々と続ける。
「あと、往復で削らないで」
「同じ方向に整えた方が爪に優しいから」
「……」
女子高生が固まる。
「……すご」
思わず漏れる。
「なんでそんなに詳しいんですか?」
「別に」
視線を逸らす。
「見れば分かる」
(基本中の基本よ)
内心で軽く頷く。
「……師匠って呼んでいいですか?」
「やめなさい」
即答だった。
◇
「……なにあれ」
少し離れた場所で、彩花は呆然としていた。
(完全に美容ガチ勢じゃない)
(あの見た目で)
おかしい。
明らかにおかしい。
なのに――
おかしくて。
「……ふっ」
吹き出した。
「ふふっ……なにそれ」
笑いが止まらない。
肩が震える。
(なんであんな真剣なの)
(しかも全部正しそうなのが余計に面白い)
「どうしたの?」
隣の高田が眉をひそめる。
「何がそんなに面白いの?」
「……あの人」
指差す。
「あ?」
高田が見る。
「……誰だよ、あのおっさん」
(そうよね)
(普通はそうなるわよね)
だが。
彩花の中では。
すでに違っていた。
おかしいのに。
変なのに。
気になる。
(なんなの、この人)
気づけば。
足が動いていた。
「……あの」
声をかける。
美南が振り返る。
「……あ」
「……あ」
再び、目が合う。
気まずい沈黙。
数秒。
そして。
「……この前はありがとうございました」
彩花が頭を下げた。
「別に」
短く返す。
(相変わらず素っ気ない)
なのに。
(なんでこんなに安心するのよ)
不思議だった。
その時。
「おい」
低い声。
高田が割り込んでくる。
「なんだよそのおっさん」
明らかに不機嫌。
「彩花ちゃん、知り合い?」
「……」
彩花は少しだけ考えて。
そして。
「……知り合い、かもしれません」
曖昧に答えた。
「は?」
高田の眉がピクリと動く。
「なんだそれ」
苛立ちが滲む。
だが。
彩花は、もうそちらを見ていなかった。
「……あの」
再び、美南を見る。
一瞬、迷って。
そして。
「よかったら……ご飯でもいかがですか?」
言ってしまった。
「……は?」
今度は、美南が固まる番だった。
(え、ちょっと待って)
(なんでそうなるの!?)
内心が混乱する。
「はぁ!?」
高田の声が響く。
「ちょっと待てよ!」
顔を真っ赤にする。
「なんだテメー!」
美南を睨みつける。
「俺の彩花ちゃんとどういう関係だ!」
「……」
美南は、少しだけ目を細めた。
(……ああ)
(こういうタイプね)
内心で、静かに判断する。
そして。
小さく、息を吐いた。
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