優しさは、見えないところに出る
前回、刺されて気がついたらおっさんになっていました。
しかもどうやら、私の体には別のおっさんが入っているようです。
……冷静に考えても意味が分かりません。
とりあえず、このままでは色々とまずいので、
なんとかすることにしました。
夜の街。
ネオンの明かりの中を、一人の男が歩いていた。
――元・美女、美南である。
(ちょっと待って)
(なんで私、おっさんの姿で普通に歩いてるのよ)
まだ現実を完全には受け入れられていない。
だが、足は止まらない。
(……まあいいわ)
(まずは状況整理ね)
そう思いながら歩いていると、前方に男女の姿が見えた。
「でさ、俺って結構どこ行っても目立つんだよね」
男が楽しそうに話している。
いかにもモテそうなイケメン。
その隣には、綺麗な女性。
「……そうなんですね」
女性は笑っている。
だが。
(無理してるわね)
一瞬で分かった。
歩き方。
重心の取り方。
足の運び。
(ヒール、合ってない)
(しかもあのスピードで歩かされてる)
(完全にアウト)
即座に判断する。
(まあ、恋人同士っぽいし)
(私が口を出すことじゃないわね)
そう思って通り過ぎようとした、その時だった。
「ごめんなさい、今日は帰ります」
女性が立ち止まる。
「え?」
イケメンが振り返る。
「なんで?」
「ちょっと体調が……」
「えー?大丈夫でしょ」
軽い口調。
「まだこれからじゃん」
(ああ、これはダメなタイプ)
美南の内心が即座に結論を出す。
(気づいていない)
(完全に自分のペースだけ)
「……無理です」
女性の声が少しだけ硬くなる。
そのまま、踵を返して去っていく。
「ちょ、待てよ!」
イケメンの声が後ろから飛ぶ。
だが、女性は振り返らない。
(……やっぱりね)
美南はその場を通り過ぎた。
……はずだった。
「……っ」
少し先で、女性が足を止める。
そのまま、しゃがみ込む。
(やっぱり限界ね)
完全に予想通り。
(放っておくのも後味悪いわね)
一瞬だけ迷う。
(……仕方ないか)
足が自然に動いていた。
「……大丈夫ですか?」
声をかける。
女性が顔を上げる。
「えっ……誰ですか?」
(まあ、そうなるわよね)
(見た目、完全に怪しいもの)
「心配しなくていい」
少し視線を逸らす。
「怪しい者じゃない」
(どう見ても怪しいんだけど)
内心で自分にツッコミを入れる。
「……足、痛めてますよね」
「え?」
女性の表情が変わる。
「歩き方で分かります」
淡々と告げる。
「ヒール、合っていませんよね」
「……!」
当たっている。
一瞬で。
(やっぱり)
内心で頷く。
「無理をすると悪化しますよ」
距離は詰めない。
触れない。
ただ伝えるだけ。
「……なんで」
女性が呟く。
「なんで分かるんですか?」
「分かりますよ」
あっさりと返す。
「無理している歩き方でしたから」
それだけ。
(これが違いなのよ)
(“優しさ”じゃなくて、“気づき”)
「そこのベンチ、使ってください」
軽く指し示す。
「座った方がいいです」
命令でも、押し付けでもない。
ただの提案。
「……ありがとうございます」
女性は素直に座った。
(いい子ね)
内心で評価する。
「少し待っていてください」
美南はその場を離れる。
数分後、戻ってくる。
手には小さな袋。
「これを」
差し出す。
「これ絆創膏です」
「……え?」
「靴擦れだと思いますので」
当然のように言う。
「応急処置くらいはしておいた方がいいです」
(ここで触らない)
(距離感、大事)
内心は完全に女性目線だった。
「……すごい」
女性が呟く。
「初対面なのに……」
(でしょうね)
(分かるのよ)
心の中で静かに頷く。
「……優しいですね」
「違います」
即座に否定する。
「気づいただけです」
(そう、それが一番大事なの)
少しだけ満足する。
「無理をしないで帰ってください」
それだけ言って、背を向ける。
そのまま去っていく。
大きな背中。
無骨で、無愛想で。
なのに。
女性は、その背中から目が離せなかった。
「……なんか」
ぽつりと呟く。
「安心する」
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