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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イツナリ

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふう~食べた食べた。久しぶりならバイキングもいいものだね。

 つぶらやくんはどうだい? いい具合に食べられたか? 君はいつも真っ先に野菜を持ってくるからなあ。ここのところナイーブさを覚えるというか、なんというか。

 野菜。健康を維持する栄養が蓄えられている食物の一種で、そのサイコはひよこまめやタイガーナッツなどへさかのぼるのだとか。

 人間と同じ動物を相手にする猟、あるいは漁はどうしても命の危険が高い。その点、植物を相手するのは気が楽だ。もちろん、中には毒となるものもあるから絶対に安全などというつもりはないが、

 広く知られた野菜であれば、その効も毒もよく分かっていよう。しかし、とある地域にしかないものならば、まだまだ共有されていない知識もあるかもね。

 ひとつ、私の地元にある野菜について聞いてみないか?


 私の実家が離島だということは、以前に話したと思う。

 小さい島で、満潮になると高台になっている島の中央部以外は、ほとんどが海の下に沈んでしまうんだ。自然、家々も島の中央部へ集中していく。

 しかし中央部のみならず、その潮の中に沈んでいってしまう地面たちにも畑は多く存在している。

 たいていの野菜の生育にとって、塩は害だ。塩は水分を吸収してしまう性質を持ち、こいつがあると植物には満足に水が行きわたらない。くわえてナトリウムや活性酸素種の蓄積によって植物がダメージを受け、品質の低下につながる。

 大丈夫なものといったら、耐塩性の強いもの。オカヒジキとかマングローブなどであればイケるかもしれないが、地元にもまたひとつ。塩の中にあって育つもの、いや塩の中だからこそ育つ野菜があるんだ。


 イツナリ、とわたしたちは呼んでいる。

 こいつは島へ渡ってくる鳥たちのご先祖がたまたま種を落としたことで、ここに成るようになったシロモノといわれているな。

 タネはひまわりのそれに酷似している。しかし、よその土地へ持っていってもこいつが芽を出すことは、まずない。調整を重ねて海水を浴び続けたような土壌を再現しても、実をつけるまでには至らずに枯れ落ちる。

 どうやらあの島そのものに、からくりがあると見える。土か押し寄せる潮か、あるいはそれらが合わさったうえで、何かしらの要素があるのか。おそらく、まだ結論は出ていないはずだ。


 イツナリ自身の話に戻ろう。

 こいつは芽を出してから20日以内に成人男性とおおよそ同じ背の高さにまで成長し、星型を描くように花をつける。その形はペンタグラムそっくりだ。その中央を囲む5つの三角形の間に、赤い実をひとつずつ。合計5つつけるところが「五つ成り」の由来と伝っている。

 わたしたちは野菜の一種とみなしており、家によってはこの実が毎日の食卓へ並ぶことになるな。漬けても、ゆでても、火であぶっても問題はないその実は、甘みとジューシーさがぎゅっと詰まったものだ。

 バランスそのものはいいのだが、極上というレベルではないのがミソだ。甘さもジューシーさも上を目指そうと思えば、専門店が出すそれには及ばないだろう。

 だが、そこがいいのだ。ひとつでは済まず、ふたつみっつと続きが食べたくなってしまう。

 ヘタに美味しすぎるものを食べると満足感も一緒に育んでしまい、量を食べたとしてもそれは贅沢の域だ。本当に味わえているとはいえない。

 反して、飢えや物足りなさというのは極上のスパイスとなる。身体や神経が本能的に求めてしまう危機感排除への気持ち。それを乗っけられるこいつらならではの特徴だ。

 うまい、まずいかでいったら、間違いなくうまいの部類だろう。


 ただ、注意ごとがある。

 こいつらを食べたのなら向こう2時間は水分摂取を控えることが推奨されるんだ。

 増える、というか育つかもしれないんだ、こいつらは。身体の中でね。水をダイレクトに受けることにより、成長が促される。

 腹痛などの不調で済むならまだ軽い方だ。悪くすると、身体を突き破って星型の花を咲かせてしまう。

 花そのものに害はないとはいえ、身体を内側から破られているんだ。重傷は免れない。

 いかなる薬も効果を示さない。ただ水を与えないことのみがシンプルで唯一の対策なんだ。

 そうでなくとも、ふとイツナリを食べたくなってしまうあたり、わたしたち島民もいい具合に毒されているのかもしれない。

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