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7.多勢に無勢

「く、来るな! そこを動くな!」

 悲鳴のような命令を叫んだのは、星羅から最も遠い位置にいた影だった。奏を人質に取っているらしい歪な影だった。

「来たら、お前の友達――」

 ヒュゥ

 頬をなにかが掠めた。直後に、後ろで金網がやかましくがなり立てる。

 ぎこちない動作で振り返ってみると、先ほどまで星羅が手にしていた大鎌が金網に刺さっていた。

「彼女を開放しろ」

 沈黙の中で、低い声が鼓膜を撫でる。

「じゃないと、この首……切るよ?」

 するりと滑った冷たい指先が、刃物のようだった。

「ひ、ひぃぃぃいいいいい‼」

「わっ⁉」

 影が二つに分かれる。奏が突き飛ばされたようだ。

「柳内さん!」

「逃げろ!」

 だが、振り返った奏が見た時には、すでに大鎌を手に残っている影へ躍りかかるところだった。

 あの大鎌に当たったら無事では済まないだろう。奏の能力は戦闘向きではないから、足手まといになるのもわかる。

 でも、アリーナの鍵が壊されて出られない中、自分になにができる?

「ねえ、大丈夫⁉」

「ひゃっ」

 真後ろからかかった声に飛び上がる。振り返ると、上級生が膝をついて奏がいるだろう場所へ声をかけていた。

「すぐに先生たちが来るから。それまで一緒にいるから。大丈夫だからね」

「……はい」

 優しい声音に涙が出そうになる。奏はポケットの中にあったスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを開いた。クラスメートもこの野次馬の中にいたらしく、すぐに異常事態を知らせるメッセージがグループアプリに届いていた。

 奏もまた、アリーナに閉じ込められていること、星羅が一人で上級生たちに立ち向かっていることを伝える。細切れに伝えることで通知を増やせば、異常に気付きやすくなる。

『おねがい』

『だれか』

『はやくきて』

 スタンプやメッセージが次々に返ってきた。


「うおおおおおおっ‼」

 影が渾身の力で放った拳は空を切り、ガラ空きになった脇腹に星羅の回し蹴りがめり込んだ。

 姿が見えないことに驚いたのは最初だけだった。影で位置を把握し、煽り、誘い込み、挙動を確認して急所を突く。

 まるで見えているかのような反撃の仕方に、影たちは自然と距離を置いた。

「っしゃあ! 行けー!」

「天罰じゃー!」

「やったれー!」

 周りの歓声も完全に星羅の味方である。

 すでに半分が戦闘不能になっていた。圧倒的だった数の有利が崩れていく。

「チッ、じっくり可愛がってやろうって思ったのに……。死なねえ程度に痛めつけりゃわかるだろ」

 一人の言葉に頷き合う。

 影が一つ、手を伸ばす。星羅は大鎌を持つ手に力を込めた。

 プラネタリウムのようなドームが展開され、見えないなにかが弾かれる。

「なっ、バリア⁉」

「てめえズリーぞ!」

「「「お前らが言うな‼」」」

 思わず出た声は大音声に叩き落とされた。

「ブーメランじゃねーか!」

「大勢で襲って恥ずかしくないのー?」

 野次馬の何人かはスマートフォンを構えている。動画でこの事件を記録する気だろう。いくら自分たちの姿が見えないとはいえ、星羅の動きと声を聞けばなにが起こっているかは一目瞭然である。

(さっき、あたしたちを引きずり込んだ奴か)

 その中で星羅は冷静に見極め、バリアを展開したまま突進する。

「く、来るな、来るなぁ!」

 がむしゃらに能力が放たれるが、バリアにことごとく弾かれる。

 くるん、と大鎌を反転させる。

「え」

「あ」

 恐怖で棒立ちになっていた一人と、能力の行使に集中しすぎて逃げそびれた一人が、

「っはぁ!」

「うぎゃっ!」

「ぐえっ!」

 フルスイングされた大鎌によってフェンスまで吹っ飛ばされた。柄でかっ飛ばされただけなので、骨折はしていないだろう、たぶん。

「ホームラーン!」

「たーまやー!」

 生徒たちが歓声を上げる。

 残った影は三つ。鎌を振り抜くために一時解除したドームを再び展開しようと力を籠める。

 バンッ‼

 やけに大きく重い破裂音と共に、視界が白と黒に染まった。

「――っ、あ?」

 全身がひどく痙攣する。足に力が入らない。うつ伏せに倒れる。耳が痛い。甲高い耳鳴りに支配され、周りの音が届かない。

 視界が、緑色の気持ち悪いマーブル模様で埋め尽くされる。しかも体と頭が反対方向にぐるぐる回る。強烈な眩暈に吐き気がする。

 何者かが、星羅の首を掴み上げた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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