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15.奇声獣

「助けてー! 殺されるー! 人殺しー!」

 少女が次々と叫ぶ。しかし、最初の悲鳴で飛び上がりこそしたが、駆け寄る人は誰もいない。

 星羅がスマートフォンに呼びかける。

「神崎さん、大丈夫?」

『……スピーカーって音割れ起こすんだな。初めて知った』

「そっちの人的被害は?」

『廊下の突き当りだから俺以外に被害は……』

『神崎さんっ今の悲鳴なんですか⁉』

 スピーカーの向こうで別の人の声が飛び込んできた。

『あー、ちょっと星羅の方でトラブル』

『え、あ、ひょっとしてハナモルの?』

『そうそれ』

『マジで……? なにやらかしたの?』

『相手が首を突っ込んできて自滅しただけだ』

 スピーカーで駄々洩れの会話に星羅が割り込む。

「どうもー、矢代(やしろ)さん。星羅です」

『えっ、あっ、もしかして聞こえてた⁉』

 割り込まれると思っていなかっただろう、矢代と呼ばれた声がひっくり返った。

「ばっちり」

『あっ……なんかゴメン』

「そう思うならこの奇声獣どうにか引き取ってもらえません? 至近距離で叫ばれて耳が痛い」

『ああ、うん、善処する』

「ギイイイイイィィィィィィィ‼」

 会話が丸聞こえだったそこへ、少女の奇声がさらに割り込む。スマートフォンの向こう側で刑事二人が耳を塞いだとか知ったこっちゃない。

「離せ‼ 離せ‼ 人殺し‼」

 支離滅裂なことを叫びながら、少女は両手を振り回す。片手が拘束されていることは忘れているらしい。お世辞にも手入れがされているとは言えない指先。逆に言えば、それだけの殺傷能力を秘めるほど爪が伸びていた。

 スマートフォンをポケットにねじ込もうとして、星羅はいつものジャージではないことに小さく舌打ちする。

「神崎さん、ごめん。スマホ壊れるかも」

『は?』

 スピーカー越しの呆けた声を無視して、星羅はスマートフォンを前方に放り投げた。

「うわわわわっ⁉」

 宙を舞うスマートフォンを、奏が慌てて受け止める。咄嗟に能力を使って上向きにキャッチしたが、誰にもバレなかった。

 もう片方の手も自由になった星羅は、少女がその一部始終に気を取られる隙を見逃さなかった。

「はいよっと」

「いっ⁉」

 ずっと掴んでいた手首を背中に回し、肘を曲げて折りたたむ。もう片方の手も反対側へ回し、背中で十字を作るように重ねた。余計に暴れられないよう、膝裏を軽く蹴って曲げさせ、上から体重をかける。

 ものの数十秒で無力化された少女は、しかしまだ自由な口で喚き散らす。

「痛い痛い痛い‼ なにすんのよ! こんなことして許されると思ってんの⁉ ちょっと聞いてんの死刑囚‼ 返事しろ‼」

 だが、いくら叫んだところで星羅は答えない。少女が逃げないよう、無表情で押さえつけるのみだ。

 そのうち、怒りの矛先は周囲に向く。

「なにボサッと見てんのよ! 早く助けてよ! こいつに殺されちゃうのよ⁉ 助けて、助けろよ‼」

 反応する者はいない。野次馬根性でカメラを向ける者はいても、好き好んで騒ぎの中心に向かう者はいない。

 じわじわと星羅と少女から距離を取りながら、奏は通話中のスマートフォンに呼びかけた。

「あの、星羅の保護者さん」

『うん? ……ああ、同じクラスの人だね? 状況を教えてもらえるかな』

「なんか、星羅がすごい早業で女の子を拘束してて……喚いてるの、聞こえます?」

『聞こえてる。そろそろ警察が到着する頃だろうから、すまないけどもう少し辛抱してほしい。俺もそっちに向かっている』

「わかりました。通話はどうします?」

『このままで頼む。少しでも状況を知りたい』

「はい」

 ――結局、警察が到着し、そしてブルーシートに囲まれて連行される間も、少女の罵倒が止むことはなかった。

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