プロローグ
よくある会議室に通された少女は、長テーブルに鎮座する大鎌に目を奪われた。
死神が持つそれを具現化したようでありながら、どこか気品を思わせる凛とした姿。恐ろしい見た目であるはずなのに、少女はそれを美しいと思った。
「ご両親の〝コア〟から作られたものだ」
テーブルの横にいた、スーツ姿の男が告げる。その声で初めて、少女は人に囲まれていることに気付いた。
「君が学園に編入する条件はただ一つ。〝アーツ〟に適合するかどうかだ」
周りには同じようなスーツを着た大人が大勢。緊張で強張っている彼らが、無表情で自分を見ている。少女はそう感じた。
「〝アーツ〟に適合する非能力者は少ない。だが、能力者の中でも相性のいい〝アーツ〟を見つけるのが難しいのも事実だ。……これは公表されていないが、縁ある者、たとえば家族やご兄弟の〝コア〟から作られた〝アーツ〟は、適合する確率が高い」
スーツの男はそこで一息つく。
「……だから、まずは君にこの〝アーツ〟に触れてもらいたい。触れて、持ち上げられたなら、君は適合者だ。学園に編入できる」
もし適合者でなくても、学園で保管している〝アーツ〟は多数ある。そこから探す選択肢もある。
男がそう続ける前に、少女は手を伸ばしていた。
あっ、と誰かが息を呑む。
少女の手は、大鎌の柄をしっかりと掴んだ。
そして、羽を思わせる軽々しさでそれを持ち上げた。
「…………」
会議室に沈黙が降りる。
全員、ただただ絶句していた。
なんの躊躇いもなく触れた度胸に。あっさりと適合してしまった肩透かしに。
どう声をかければいいのかわからず、思考が停止する。
「星羅ちゃん」
その中で一人、声を出した。
「おめでとう……と、言っていいのかな」
それは、入り口で待機していた刑事だった。無理やり笑顔を作ったことで、どこか悲しそうに顔が歪む。
「うん」
星羅と呼ばれた少女は、大鎌を胸に抱いて振り返る。
「これであいつを殺せる」
花が咲くような、穏やかな笑顔だった。
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