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カーテンから差し込む光がまぶたの裏に微かな白色を作る。どこかで風と葉が遊んでいる音が聞こえた。少しの眩しさと空腹を感じてベッドから起きる、隣で寝ている同居人を確認する。穏やかな寝顔。
朝ごはんでも作ろうと最低限音を出さないようキッチンに向かった。そういえばもう家族と呼んでも良いのだなと思い出し、勝手に口角が上がる。彼にこの顔を見られるとなんて思われるだろうか。きっとなにか楽しいことでもあったの?と聞かれるだろう。それが嬉しくて、少しだけ笑う声が漏れてしまったかもしれない。まあ、いいか。楽しいとき、嬉しいときにこそ笑うに限る。
さあ、朝ごはんには何を作ろう。
———彼に出会ったのは、去年。
「おばあちゃん、死んじゃった」
お母さんから急に告げられた言葉を理解するのに、そう時間はかからなかった。おばあちゃん自身、もう長くないからね、なんてことを何回も私たちに言ってきていたし、実際、そう長くはないだろうとも思っていた。どれほど大好きでも別れる時は一瞬だし、そのときに立ち会えるとは限らない。そんなことは当たり前で、分かりきったことだった。
遺品整理のためおばあちゃんの家に行った。お母さんはおばあちゃんとあまり仲が良くなく、遺品整理というか、家に行くことそのものをしぶっていたから、私一人で行くことにした。おばあちゃんに対して、そこまで悪い印象はない。何を考えているのかよく分からない人だったけど、優しい人だった。お母さんはそのよく分からない、が苦手だったのだろう。
久しぶりに入ったおばあちゃんの家は、何も変わっていなかった。もちろん小物の位置は変わっていたし、新しい本が買い足されていて棚の中は前見たときよりも狭くなっている。でも、懐かしい、少し甘い香りに包まれると、あぁ、何も変わらない、よく遊びにいていたおばあちゃんの家だなって思う。
カーテンを開け、換気をする。光が反射した埃が綺麗だった。すると、控えめにドアが開けられる音が聞こえた。反射的に振り返ると、そこには、少年が立っていた。