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#9 シンプルに焼肉定食

「なぁ、シュージー?」


「どうしました、ガルさん?」


「晩飯は何作んだー?」



 ギルド内の掃除や新たに追加でライスなどの買い出しを済ませたシュージは、キッチンで晩御飯の用意をしようとしていた。


 そこへ、暇なのか戦闘員のガルがやって来て、カウンター席からシュージに話しかけて来た。


 ちなみに、ライスに関しては家畜の餌として精米済みのものがとても安く売っていて、それらを自費で大量に購入してキッチンの端に積み上げておいた。


 ただ、このギルドは人数が多いので、それだけ買っても恐らく1週間くらいで底をつきそうな気はする。



「うーん、まだ決めてないんですよね。 ライスを使った献立にしようかなとは思ってるんですけど」


「へぇー、ライス食うんだな?」


「ガルさんは食べたことありませんか?」


「食べる地域があるってのは知ってるけど、実際食ったことはねぇなぁー」


「美味しいですよ。 色んな料理に合いますから」


「お、シュージがそう言うなら信用できるな」


「そうしたら、ガルさんは何か食べたいものとかありますかね?」


「肉!」


「おお、即答ですね……」


「そりゃ、肉だろー。 ガッツリしたやつだとなお良いな」


「では、バッファロー肉を使ってシンプルに焼肉定食にしましょうか」


「焼肉! ん? 定食ってなんだ?」


「僕の故郷では、何品かを1人分として提供するメニューを定食というんです。 今回は主食、主菜、副菜、汁物といった感じで作ろうかと」


「なるほどなー」


「味付けはいくつか種類を持たせましょうか。 ガッツリしたものだけだと、胃がもたれる方もいるかもしれませんし」


「肉食って気分悪くなるって、よく分かんねーけどなー」


「はは、若い内はそうかもしれませんね。 でも、歳を重ねた方や、体が弱い方、女性の方は結構そういう人もいるんですよ」


「そうなのかー。 そういう奴にも気を遣って料理すんの、大変そうだな」


「そうでもないですよ? やっぱり、美味しいと言って食べてもらえるのが何よりも嬉しいですから、そのための工夫は苦になりませんね」


「シュージは良い奴って事だ!」


「はは、ありがとうございます」



 ガルとそんな感じで雑談しつつ、シュージは大鍋で大量のライスを炊いていく。


 今日はライスにしようと思っていたので、あらかじめ水に浸けて水を吸わせておいた。


 こうする事で、うまく炊きあげることができるのだ。


 メイによると、炊飯器も魔道具としてあるらしいので、その内手に入れたいとは思っている。


 そのためには、ライスの魅力を伝えなければならない。


 そんな使命感に内心燃えつつ、メインの料理も作ることにした。


 ちなみに今日はシュージが1人で作る事になっている。


 シュージが来た事で、元々見習い組がしていた料理を作る時間を、一部鍛錬や勉強にあてる事にしたそうだ。


 元々そういう日もあり、そんな時は手が空いている者が交代で作るようにしていたそうだが、シュージが来た事でその辺を任せられるようになって大変感謝された。



「ん? そのスープなんだ、シュージ」


「これは味噌汁ですね。 味噌という調味料を溶かして作ります」



 やはりライスには味噌汁という事で、あらかじめ昆布を浸しておいて出汁を取った鍋に味噌を溶かしていく。


 そこへ乾燥わかめと、豆腐があればよかったのだが無かったので、今日は玉ねぎを入れた。


 味噌汁のいいところは、具材を変えればいくらでも楽しめるところだとシュージは思っている。


 玉ねぎも玉ねぎで、甘味と食感があって結構美味しいのだ。



「うーん、見た目はなんかあんま美味そうじゃねぇなー」


「良ければ少し味見してみますか?」


「いいのか!? する!」


「では、どうぞ」


「さんきゅー! ……んっ! おぉ、思ってたよりなんか優しい味だな?」


「悪くないでしょう?」


「ああ!」


「ライスにも合うんですよ。 実際、味噌汁とライスだけで完結するぐらいには」



 日本には猫まんまというものもあったくらいだ。


 はしたないと言われる事もあるが、あれはあれで結構美味しいので、したくなる気持ちは分かる。



「野菜はキャベツの千切りにしましょうか。 お肉と一緒に食べれば美味しいでしょう」



 更にシュージは、味噌汁の面倒も見つつ、キャベツを大量に千切りしていく。



「うおお…… シュージの手の動きが見えねえ……」


「はは、こういうのは慣れですよ」


「そういや、シュージって強いんだろ? ブラックウルフを素手で倒したって聞いたぜ?」


「まぁ、ある程度はって感じですかね」


「いやいや、普通にすげーよ? 俺もブラックウルフには一対一なら負けないけど、何匹もいたら結構きついし」


「ガルさんこそ、まだ若いのに凄いですよ」


「なぁ、良かったら今度手合わせしてくれよ! もちろん、急所狙いとかは無しで、拳を合わせる感じでいいからさ!」


「訓練の範疇であれば構いませんよ。 相手になるかは分かりませんが」


「いやー、ガチでやってもシュージの方が強そうな気するんだよなー」


「僕がやってた格闘技はあくまで対人用ですし、日々魔物と戦ってるガルさんとは強さの方向性が違いますから」


「確かになー」



 ガルもそうだが、獣人の戦闘職の者は割と戦いを好む傾向があるそうだ。


 その分、体も動かすしエネルギーも使うから、大食いの者も多いとのこと。



「よし、あとは皆さんが来る直前に肉を焼きましょう。 それまでに味付けのタレとポン酢を作りますか」


「塩胡椒だけじゃないんだな?」


「もしそちらが好みであればそれで良いですよ。 ただ、味に変化があった方が楽しめる気がしますから」



 今回作るのは、生姜とニンニクを少量すりおろし、そこに醤油、酒、砂糖を加えたオーソドックスな焼肉のタレと、醤油と酢とレモン汁に、味噌汁で使った昆布出汁を少量合わせたあっさり目のポン酢だ。


 ガッツリ食べたい面々には焼肉のタレで、ちょっと胃もたれが心配な面々にはポン酢をかけてもらえば、双方美味しく焼肉が食べられるだろう。




 *




 そんなこんなで、夕食の時間となった。


 一人一人の前に、焼肉と千切りキャベツが乗ったお皿と、ライスがよそわれたお椀、そして味噌汁のお椀が並べられた。


 焼肉の皿以外、馴染みのないものだったので、最初は少しずつ口に運んでいた面々も、焼肉がライスとすこぶる相性がいい事に加え、そこへ味噌汁を流し込むと、優しい味が広がって口の中がリセットされて、また肉に箸が伸びるというループが完成し、そこからはライスのおかわりが続出した。



「久しぶりにライス食べましたけど、シュージ様の料理と合わさると格段に美味しいですね」


「メイにも気に入ってもらえてよかったです」


「美味ぇ! 特にこのタレがすげぇ!」



 やはり、焼肉のタレは牛肉に似たバッファロー肉との相性が良く、男性陣やシャロなどはこっちを好んで食べていた。


 メイやキリカにアンネリーゼ辺りの女性陣にはポン酢の方が好評で、曰くさっぱりしていて、油っぽさをあまり感じないから食べやすいそうだ。


 ただ、どちらかじゃないと食べられないというわけでもなく、男性陣+シャロも味変としてポン酢でも美味しそうに食べていたし、女性陣も油っぽさを全く受け付けないわけではないので、焼肉のタレでも何枚か食べていた。



「それにしても、シュージの故郷の料理は味付けにこだわっているな」


「ジルさんからしても珍しいですか?」


「ああ。 地方では独特な調味料があったりするが、どれもかなり癖が強い。 その点、シュージの味付けは大衆向けなものが全てだ。 このタレやポン酢も商業ギルドに登録するのがいいだろう。 きっと売れる」


「調味料系は広まって、その辺りで買えるようになると僕としても楽ですね」


「ふむ、確かにな。 なら、俺の知り合いに商会をやっている者がいるから、今度そいつらを呼ぼう。 少し癖のある者達だが、商人としては信頼できる。 そいつらに製造などを任せれば、流通もそう遠くない内に実現できるだろう」


「いいんですか、そんなにしてもらって?」


「シュージもうちのギルドの一員だからな。 お前がしたい事があるなら、いくらでも応援しよう」


「ジルさん…… ありがとうございます。 これからも精一杯頑張りますね」


「ああ、よろしく頼む」



 荒くれ者が多い冒険者の中で、謙虚で誰もやりたがらない掃除や料理を高いレベルでしてくれるシュージは、2日目にして既にギルドメンバーに受け入れられているのであった。


 

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