#8 あんかけ
「あ、シュージ様。 お昼ご飯の準備ですか?」
シュージが昼ご飯を作ろうと思っていたところ、近くにいたメイが声をかけてきた。
「そうですね、今からしようかと」
「手伝いますよっ」
「助かります。 リックとカインはいないんですかね?」
「2人は前衛職なので、ジル様に稽古を付けてもらってます。 私は魔法の座学をしてました」
「皆さん頑張ってて偉いですね」
「えへへ…… えっと、今日は何を作るんですか?」
「折角色んな出汁が取れたので、今回は鶏がらスープを使った料理を作ろうかと」
「鶏がらスープ、ですか? あ、このいっぱいある大鍋の中に?」
「そうです。 ちょっと味見してみましょうか」
シュージは大鍋の蓋を開け、鶏がらスープを小さな皿に少し注ぎ、メイに差し出した。
「良ければ飲んでみてください」
「はいっ。 ……んっ! わぁ、すごい美味しいスープです!」
「うん、かなり美味しいですね」
今回、ビッグコッコのガラから作ってみたのだが、やはり魔物食材は地球のものに比べて旨みが強い傾向にあるみたいだ。
「これ単体でも美味しいですけどね?」
「まぁ、そうですね。 ですが、これは色んな料理に使えるんですよ。 そうしたら、メイは白菜を洗って切っておいてもらえますか? 白くて硬い部分はちょっと細めに、柔らかい葉っぱの部分はざく切りでお願いします」
「分かりましたっ」
メイには白菜を切ってもらい、その間にシュージは大鍋の鶏ガラスープを網目の細かいざるでこし、大きめのボウルに移した。
ついでに他の豚ガラと牛ガラも同じようにこしておいた。
それから、薄切りのオーク肉を取り出し、軽く塩胡椒で下味を付けて、一口大にカットしたらフライパンで焼いていく。
粗方火が通ったら、メイに切ってもらった白菜をまずは芯の硬い部分から入れ、硬い部分が柔らかくなってきたら、葉の部分も入れ、更にバラしたエノキも加えて炒めていく。
「よし、そうしたらメイ、調味料を入れていきますよ。 まずは料理酒をざーっとかけてみてください」
「えっと、どれくらいですか?」
「最初はちょっと秘密にしますね。 料理をする時に、結構目分量で入れるというスキルは便利なので、感覚を養っていきましょう。 もしそれ以上はダメだという時はちゃんと止めますから」
「分かりましたっ」
シュージには料理を教えるという役割もあるので、メイに目分量で調味料を入れてみてもらった。
「うーん、これくらいですかね?」
「うん、悪くないですよ。 ただ、今回の料理だと少し多めに入れたいので、これくらいですかね」
「難しいですね……」
「はは、そうですね。 まぁ、困ったら気持ち少なめに入れるのをおすすめします。 後から足すのはいくらでもできますから」
「なるほどっ」
その後もメイに目分量の事を教えつつ、酒とごま油、そして鶏ガラスープをフライパンに投入していった。
「よし、いい感じですね。 そうしたら仕上げに……」
「シュージ様、その白い液体は?」
「これは水で溶いた片栗粉ですね」
「片栗粉を水で…… それも料理に使うんですか?」
「あれ、こちらではあんかけや唐揚げなどはあまり作りませんか?」
「うーん、どっちも聞いた事ないですね」
「そうなんですね。 まぁ、不味くはならないので安心してください」
メイとそんな会話をしつつ、フライパンに水溶き片栗粉を流し入れて、ダマにならないように混ぜ合わせていく。
すると、ここまででの調理で白菜から出た水分や鶏ガラスープが水溶き片栗粉と混ざり合い、とろっとしたあんに徐々に変化していった。
「わぁ…… とろとろしてます」
「これで完成ですね。 味見してみましょうか?」
「いいんですか?」
「味見も調理した者の特権ですよ」
「ふふ、そうですね」
完成したオーク肉と白菜とエノキのあんかけを小鉢によそい、シュージとメイは箸でそれらを口に運んだ。
すると、オーク肉と白菜の旨味があんと一緒に口の中にふんわりと広がり、シャキッとしたエノキの食感もまたいいアクセントになっていた、
「ん~っ! すごい美味しいですっ!」
「上手くできてますね。 これは米が欲しくなるな……」
「コメですか?」
「はい。 僕の故郷ではパンに並ぶ主食だったんです。 白くてつぶつぶとした柔らかい食感の食べ物で」
「ああ、ライスのことですかね?」
「えっ、あるんですか?」
「全く同じかは分かりませんけど、私の故郷とか、食べる所はありますよ。 あんまりメジャーじゃなくて、この辺りでは家畜の餌とかとして売られてますね」
「それはぜひ手に入れたいですね……!」
「私も久しぶりに食べたいですね。 言われてみれば確かに、パンよりもライスの方が合いそうです」
「この後、買いに行ってもいいかもしれませんね」
「シュージ様、朝から動きっぱなしですけど、疲れないんですか?」
「これぐらいなら全然平気ですよ。 何なら、新しい発見が多くてとても楽しいくらいですから」
「そうですか、それなら良かったです」
その後、デザートにりんごを切って、食べたい人はパンも食べれるように食堂の机に運んだ。
その頃には、今ギルドにいる人達がアンネリーゼ以外全員集まっていた。
「おや、皆さん早いですね」
「もう皆んなシュージ様の料理にゾッコンみたいですよ」
「あ、あら? 何でこんなに人が集まってるのかしら?」
と、各自、自分が食べられそうな分を大皿からよそってもらっていたところで、アンネリーゼも食堂にやってきた。
「あっ、アンちゃん!」
「な、なによキリカ、そんなにニコニコして……」
「アンちゃん、シュージさんの料理はとっても美味しいんだよ! 早く食べてみて!」
「シュージの料理? まぁ、分かったわ」
アンネリーゼはよく分からなそうな表紙を浮かべていたが、言われた通りオーク肉と白菜とエノキのあんかけをよそい、キリカの隣に座った。
「見たことない料理ですわね…… なんだかとろとろしてて……」
「んんっ! これ、すっごい美味しいよ、アンちゃん!」
「そ、そんなにですの? では、私も……」
アンネリーゼは上品にナイフとフォークを使って、オーク肉と白菜を口運んだ。
「……! まぁ、これは…… 本当に美味しいですわ」
「お気に召してよかったです」
「このとろとろしたものはなんなのかしら?」
「それは水で溶いた片栗粉を使った餡というものです。 それをかけているからあんかけと呼びますね」
「あんかけ…… ふふ、なんだか親近感がありますわね」
実際、昼間にキリカがアンネリーゼをアンちゃんと呼んでいて、それを聞いて餡かけ食べたいなぁと思ったというのはシュージの心の中に留めておいた。
「とても美味しいですわ、シュージ」
「ありがとうございます」
アンネリーゼを始め、他のメンバーにも餡かけはとても好評で、余分に作っておいた分もあっという間に無くなるのであった。