#7 ギルドの掃除
買い物から帰ったシュージは、キッチンで軽く仕込みをしつつ、ギルド内の掃除に取り掛かる事にした。
仕込みと言っても、先程手に入れた骨…… オークとビッグコッコ、グレートバッファローの3種類を、お湯で軽く火を通したり、水で洗ったりしてから、それぞれ鍋に長ネギと生姜などと共に放り込み、じっくり弱火で煮込んでいるだけなので、20分おきくらいにアク取りしつつ、空いた時間を掃除に充てるつもりだ。
先代の用務員さんが残してくれたというマニュアルを見つつ、とりあえずまずはロビーや受付周りを掃除する事にした。
ちなみに、服は用務員用の制服があったので、ありがたくそれを着させてもらっている。
前世で清掃員が着ていたようなつなぎの制服を、しかも何着かもらえたので、掃除する時と料理する時で着替えれば衛生面もバッチリだろう。
という事でシュージは、黙々と掃除を始めた。
バケツとモップを使って床の掃除をし、机などは綺麗な布巾、床や壁の落ちにくい汚れは雑巾でゴシゴシ擦っていく。
こういう細々とした作業の方がシュージにとっては合っていて、格闘技をやっている時より心にゆとりを持ってやれていた。
「ただいま帰りましたわ」
すると、ロビー周りの掃除がひと段落したタイミングで、女性の声が入口から聞こえてきた。
そちらを振り返ると、綺麗な金髪を縦ロールにし、吊り目で強気そうな、恐らくは10代後半くらいの少女が立っていた。
「あら? 見慣れない方がいるわね?」
「あ、どうも。 昨日から蒼天の風で用務員として雇われましたシュージと申します」
「へぇ、昨日の今日で掃除なんて殊勝な心がけね。 私はアンネリーゼよ。 稀代の天才大魔法使いなんだから、敬いなさい?」
「あら、アンちゃんお帰りなさい」
アンネリーゼとシュージが話していると、受付の裏からキリカがひょこっと出てきた。
「アンネリーゼですわっ」
「はいはい、依頼は終わった? 1人だったけど、ポカしてない?」
「私にかかればちょろいものですわ!」
「そっかそっか、偉いね~」
「ふわぁ…… って、頭なでなでするんじゃありませんことよ!」
「えー、嫌なの?」
「い、嫌とは言って無いですわっ。 そんなに私のツヤツヤサラサラな髪を撫でたいなら、好きにするといいわよっ」
口調や雰囲気からして、ちょっと気難しい子かなーと若干思ったシュージだったが、キリカとのやり取りを見て何だか微笑ましくなった。
「全く…… シュージも、気軽に私をなでなでとかしちゃダメですわよ!」
「それはしませんが……」
「その大っきい手でなでなでとか、ダメですわよ!」
「は、はい?」
そう言い残すと、アンネリーゼはギルドの階段を駆け上がっていった。
「えっと、どういう事なんでしょう?」
「ふふ、可愛いでしょう? アンちゃんは褒められたがりなんです。 今の言葉も、本心ではシュージさんの大っきな手でわしわし撫でて欲しいって事ですよ」
「な、なるほど?」
「アンちゃんはまだまだ若いのに、本当に魔法使いとしての腕と才能は特別高いんです。 このギルドでも1番と言っていいくらい。 ……でも、ちょっと過去に色々あって、素直に甘えられない難しい子なんですよ。 だから、アンちゃんの事は存分に甘やかしてあげてください」
「ふむ…… 分かりました」
「多分、泊まりがけでの依頼で疲れてると思いますから、まずは美味しい昼ご飯とかで労ってあげるといいかもしれませんねっ♪」
「はは、そういう事なら任せてください。 沢山食材がありますから、昨日よりも手の込んだものを作れると思います」
「あら、それは私も楽しみになっちゃいますね」
丁度掃除もひと段落したので、早速シュージは昼ご飯を作る事にした。