#4 異世界初日の終わり
「なぁ、ギルマスー?」
「なんだ?」
「どっかで飯食って行かねー?」
「ギルドに戻ればあるだろう」
「いや、だって今日月末だろ? どうせろくなもんじゃねぇしさ」
「……まぁ、そうかもしれないが、お前の責任でもあるだろう」
「まぁ、そうだけど……」
「そうよそうよ。 どちらかと言えばあの子達に教える側なのに、なんでアンタが悪いこと教えてるのよ」
ヤタサの街の大通りを、3人の男女が歩いていた。
1人は若くて活発そうな顔立ちに、オオカミのような耳と尻尾を生やした獣人の男、ガル。
もう1人は勝気な性格をした、狐のような耳と尻尾を生やした獣人の女、シャロ。
そして、その一歩前を歩くのは、綺麗な金髪を携え、腰に剣を差した男。
この人が何を隠そう、シュージが所属する事になった冒険者ギルド、蒼天の風のギルドマスターであるジルバートだ。
彼らは自らの拠点であるギルド、蒼天の風への帰り道を歩いていた。
朝から今まで、彼らは依頼を受けて魔物の討伐に行っており、当然かなり腹が減っていた。
だが、ここにいるガルとその他数名のヤンチャな者たちが、見習いのリックをそそのかし、先日大量に肉などの食材を消費した事で、ここ数日、ギルドの飯は中々に質素なものとなっている。
当然、リックとガル達にはきついお叱りが入ったが、それでなくなった食材が帰っては来ないし、新たに買ったりすることもしなかった。
新たに買ったら、今回のような事があっても許されると思われてしまうかもしれないので、ギルドの全員が不満を漏らすような食事にあえてさせている。
それもあってか、リックやガル達は物凄く反省しているので、もうこんな事にはならないだろう。
だが、そう決めたのはジルバート本人であっても、きついもんはきつい。
今日はガルとシャロの指導が主だったので、自分はそこまで運動をした訳では無いのだが、一日中立ちっぱなしでそこそこ疲れているのは事実だ。
こういう疲れている時こそ美味いものを食べたいのだが、恐らく待っているのはふかし芋と単純なサラダとパンくらいだろう。
ジルバートでそれなのだから、若くて食欲がある上に、今日一日戦い続けたガルとシャロはもっときついだろう。
「やっと着いた~…… って、なんか騒がしくねぇか?」
「そうね? 食堂に集まってるみたい」
そうこうしている内に、ギルドに着いたのだが、耳のいい獣人の2人は、何やら食堂に人が集まっている事を感知したらしい。
ギルドに入り、とりあえず荷物と武器などはエントランスの机に置いておき、真っ直ぐ食堂に向かった。
食堂に入ると、そこには今日いるメンバーが勢揃いしていて、キッチンの方には見慣れないめちゃくちゃガタイのいい男が立っていた。
「あ、ギルマス。 おかえりなさい」
「ああ、今戻った。 キリカ、これは何の騒ぎだ? それと、あそこにいる男は?」
「あの人は今日、用務員として雇う事になったシュージさんです。 騒いでたのは、シュージさんが作ったご飯が美味しかったからですかね?」
「戦闘員ではないのか?」
「戦える力はありますけど、本人はあまり戦いが好きじゃないそうですよ。 まぁ、そういうのは後にして、今はご飯を食べてみてくださいよ」
「……まぁ、そうだな」
「おお! なんか美味そう!」
「見た目はじゃがいもとベーコンとサラダだけど、何でか美味しそうね」
それからあれよあれよという間に見習い組達が料理を運んできた。
運ばれてきたのは、じゃがいもにベーコンが入った一品に、レタスの上に何か薄茶色の物体と白い液体がかかっているサラダだった。
それを見て、まずはジルバートもガルもシャロもじゃがいもの料理から手をつけた。
「……! これは……」
「これ美味いな! じゃがいもなのに、肉食ってるみたいだ!」
「胡椒が丁度いい感じにピリッとしてて美味しい!」
ガルの言う通り、じゃがいもからは肉の風味がしっかりして、シンプルな味付けながらかなり美味しいものだった。
続けて、サラダにも手をつけてみる。
「ほう…… これも美味いな」
「生の野菜食うの苦手だけど、この液体のおかげでめっちゃ食える!」
「このサクサクしたのもいいわね。 これだけでも食べれそう」
サラダにかかっているシーザードレッシングは、自家製ながらかなり上手く出来ており、クルトンもオリーブオイルで焼き上げて塩を軽く振ったので、これだけでもお酒のつまみとかに出来そうな感じに仕上がっていた。
そんな美味しい料理は、腹が空いていたジルバート達の胃袋にあっという間に吸い込まれていった。
「お気に召しましたか?」
と、しっかりと完食したジルの元へ、先程見たガタイのいい男がのしのしと近寄ってきた。
「ああ、とても美味かった。 シュージと言ったか?」
「はい、シュージと言います。 えっと、貴方はギルドマスター様ですよね?」
「様など付けなくていい。 俺はジルバートという。 ギルマスかジルとでも呼んでくれればいい」
「では、ジルさんとお呼びしますね」
「この料理はシュージが全部作ったのか?」
「いえ、僕は少し手伝ったのと、指示を出しただけです。 ほとんどリックとカインとメイが作ったと言っていいと思います」
「そうなのか?」
「おう! 頑張って作ったぜ!」
「まぁ、ほとんどシュージさんの教えのおかげかな」
「シュージ様はとても優しく丁寧に教えてくださりました」
「そうか。 シュージ、これから用務員として働くそうだな」
「はい」
「キリカのお眼鏡にかなったのなら俺からは文句はない。 むしろ、これだけ美味い料理が作れるなら、こちらからお願いしたいくらいだ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「恥ずかしい事に、しっかりと料理を教えることのできる者がいなくてな。 用務員をこなしつつ、見習い組…… 何ならその他の希望する者にも料理を教えてやってくれ」
「分かりました。 精一杯努めさせてもらいます」
「よろしく頼む」
ジルとシュージはしっかりと握手を交わし、晴れて正式にシュージは蒼天の風の一員となった。
*
「ここがシュージさんのお部屋ですね」
「おお、広いし綺麗ですね」
ギルドの3階。
そこは構成員の居住スペースとなっていて、各自に部屋が割り振られていた。
案内された部屋は、ちょっといいアパートくらいの広さがあり、今はベッドとクローゼットくらいしかないが、色々と物を置けそうなスペースもある。
「新しい家具などは自己負担ですけど、好きに置いたりもしていいですよ」
「何から何までありがたいです」
「いえいえ。 皆さん、シュージさんのご飯をとても気に入ってて、これからの食事が楽しみだって言ってましたから、もっと待遇よくてもいいぐらいですよ」
「十分過ぎますよ。 行く当ても無かった僕を拾ってくださって、こちらこそ感謝しかありません。 明日からのお仕事、頑張りますね」
「一緒に頑張りましょう! 分からないことがあったら遠慮なく聞いてください」
「わかりました、ありがとございます」
「では、今日はお疲れ様でした。 おやすみなさい」
「おやすみなさい、キリカさん」
案内をしてくれたキリカと別れ、部屋にはトイレとありがたいことにシャワーが備え付けられていたので、シャワーをパパッと浴びてベッドに寝転がった。
ベッドは少し硬めだったが、硬めのベッドが好きなシュージからするととても快適で、大きな環境の変化によって知らぬ間に疲労が溜まっていたのか、すぐに眠くなってきた。
(明日からも頑張ろう)
そう心の中で誓いつつ、眠気に素直に身を任せるシュージだった。
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