#3 料理を教える
「こちらが鍛冶場や解体場があるエリアです」
蒼天の風というギルドで世話になる事になったシュージは、キリカの案内でギルドの一階にあるかなり広いエリアに来た。
夕食まではまだ少し時間があるそうなので、先にギルド内を粗方案内してもらっていた。
「ジンバさん、お疲れ様です」
そこにはかなり低身長で筋骨隆々とした、立派な茶色の髭をたくわえた男の人がいた。
「む? おお、キリカ嬢どうした?」
「解体を頼みたいのと、今日から新しい用務員さんが入る事になったので、紹介に来ました」
「シュージと申します。 よろしくお願いします」
「そうか。 儂はジンバという。 このギルドの鍛冶場や解体場の責任者じゃ。 それにしても、お主は戦闘員じゃないのか?」
「そうですね、あんまり戦いは好きではなくて……」
「ふむ? ガタイはいいのにの? まぁいい、その肩のやつはこっちに置いとけ」
「あ、はい」
言われた通りシュージは、ブラックウルフの死体を指定された場所に降ろした。
「ほう、こいつはすごいの。 ブラックウルフが殴り殺されておる。 本当に戦闘員じゃないのかお主?」
「あはは…… まぁ、もし戦闘が必要ならば頑張ります」
「大丈夫ですよ、シュージさん。 戦いを好まない人には、非常時にもしかしたらお願いはするかも知れませんが、絶対無理強いはしませんから」
「そう言ってもらえると助かります」
「まぁ、用務員が来てくれるのは助かる。 先代の爺さんが辞めてから掃除が面倒での」
「任せてください。 体力と丁寧さには自信がありますので」
「頼もしいの。 後で報酬は振り込んどくぞ」
どうやらこのギルドでは、依頼や討伐報酬、そして給料は各自の口座に振り込んで管理するシステムらしい。
「あれ、そういえばミノリさんはいないんですか?」
「ああ、あいつは欲しい鉱石があると言って、ダンジョンに行った。 数日は帰って来んな」
「そのミノリさんというのは?」
「ここの鍛冶場を使うメンバーの1人じゃ。 儂が武器、あやつが防具を主に担当しとる」
「なるほど。 その内挨拶したいですね」
「となると、今日は見習い3人に私とジンバさん、あと夜にはギルマスと数人が帰ってくるくらいですかね?」
「このギルドには何人の人がいるんですか?」
「20人いないくらいですよ。 うちは少数精鋭なんです」
「普通のギルドはもっと多いんですか?」
「そうですね。 大きなところだと100人超えたりします。 ギルドによってどういう活動方針かはまちまちですね」
「なるほど」
「うちのギルドは割と自由な方針なので、各々がするべきことを自分達でする感じです。 リック達見習いの3人には、それぞれ戦闘技術であったり、座学だったりを教えていますね」
そんな風にギルドのことをしばらく教えてもらい、ジンバもキリカもまだ少し仕事が残っているそうなので、シュージは鍛冶場を後にし、食堂へと向かった。
食堂は鍛冶場とは反対側の一階にあり、いくつかの長机が置かれていた。
更に、風通しの良さそうなかなり広いオープンキッチンに、料理してるところが見えるカウンター席もあった。
あと、服装はともかく、靴は先程スニーカーのようなものを貸してもらった。
もしもの時のための備品だそうで、使う人はあんまりいないから気にせず使っていいそうだ。
流石にいつまでも裸足という訳にはいかないので。
「おっ、シュージ!」
「お疲れ様です、3人とも。 これから夕食の準備ですかね?」
食堂のキッチンを覗いてみると、そこにはリック達が既にいた。
「そうなんだけど……」
「どうしたんですか、カイル?」
「食材があんまり無くて……」
「これは、冷蔵庫かな? 見てもいいですかね?」
「あ、うん」
かなり大きな冷蔵庫を開けてみると、そこには沢山のじゃがいもとレタス、あとは少しベーコンが入っていた。
そして、調味料系は塩、胡椒、砂糖、などの基本的な調味料に、牛乳、サラダ油、オリーブオイル、酒に酢があり、後は卵や野菜や果物がまちまちといった感じだった。
そして、主食として食パンが大量に籠の中にあり、これが今ある食材の全てなようだった。
「やっぱり月末は食材が尽きますね……」
「カイン様がこの前、盛大にお肉とかを焼いちゃうから……」
「だ、だって美味そうだったし……」
「ふむ、3人ならこの状況で何を作りますか?」
「うーん、しょうがないからふかし芋とか……? 後はサラダ……」
「ベーコンは使わないんですか?」
「これだけしかないと、全員にはちょっとしか行き渡りませんから、中途半端になってしまいます」
「なるほどなるほど」
(うーん、この世界ではあまり料理が発達していないのか? リック達があんまり得意じゃない可能性もあるが)
「シュージ様だったら何を作るんですか?」
「そうですね…… そうしたら、作るものは僕が教えますから、色々と3人にも作ってもらいますね。 まず、私とカインはじゃがいもの皮剥きをしましょう」
「うん、分かった」
「メイはまず、食パンを指に乗るくらいのサイコロ状に切り分けてください」
「はいっ」
「リックには少し力仕事をお願いしますね?」
「え、料理なのに力仕事?」
シュージは手頃なサイズのボウルに、卵黄と酢と塩を入れたものをリックに渡した。
「はい。 ボウルに入れたこちらのものを、泡立て器で素早くかき混ぜてください」
「よく分かんないけど、分かった!」
「液がもったりとしてきたら教えてくださいね」
とりあえず、各自のやる事を指定し、作業に取り組んでもらう。
夕食まではまだまだ時間はあるようなので、少し手間がかかっても大丈夫だろう。
「わぁ…… シュージさん、すごいな……」
「あはは、慣れですかね、この辺は」
とりあえず、カインとシュージは沢山のじゃがいもの皮を剥いているが、カインはピーラーを使ってるのに対し、シュージは包丁でくるくるとすごい速さで剥いていっている。
日本にいた頃、食堂での仕事はもちろん、シュージは基本的に自分の食事は全て自分で作っていた。
格闘家という側面もあったので、体作りのために栄養バランスを考えてそうしていたが、もっと色々作りたいし食べたいなと常日頃から思っていて、レシピ本やネットのレシピなどをよく眺めていた。
本業の料理人としても、それらの知識は大いに役立った。
「シュージ様、これくらいでいいですか?」
「はい、そのくらいあれば大丈夫です。 そうしたら、切った食パンをオリーブオイルを加えて炒めてもらえますか?」
「パンを炒めるんですか?」
「はい。 お願いします」
メイには今回はクルトンを作ってもらっている。
ただのサラダでも、クルトンが少し乗っているだけで、かなりアクセントにはなるので。
「うおお…… 腕が痛い…… これくらいでいいのか、シュージ……」
「うん、いい感じですね。 ありがとうございます。 まだ混ぜる作業があるんですけど、いけますか?」
「うえっ!? んー、ちょっときついかも……」
「はは、全然いいですよ。 そうしたら、僕と交代しましょうか。 じゃがいもも粗方剥き終わったので、リックはじゃがいもをフライパンでこまめに転がしながら柔らかくなるまで温めておいてください。 カインはベーコンをこれくらいのサイズに切って、別のフライパンでカリッとするまで焼いてください」
「はーい!」
「分かったよ」
とりあえず、今回作ろうと思っているのはジャーマンポテトだった。
ふかし芋よりは味に変化があり、量も作れてお腹も膨れるのでいいと思う。
そして、サラダの方にはクルトンを加え、ドレッシングにシーザードレッシングを加えるつもりだ。
マヨネーズは案外自家製でもそれなりのものができるので、それと冷蔵庫に少し残っていたレモンとチーズのカケラを使えば、いい感じになるのではないかと思う。
本当は汁物も作りたかったが、顆粒出汁のようなものは当然ながらなさそうだったので、今回は断念だ。
ただ、美味しい食事には出汁は必要不可欠なので、明日にでも作れたら作ろうと思っている。
「シュージ様、この後はどうすればいいですか?」
「ああ、そうしたら……」
その後も見習い組の3人に手伝ってもらいつつ、シュージは夕飯を作り続けるのであった。
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