山田家の呪い
こちらは百物語八十九話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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私はとあるオカルト系雑誌の編集長をやっている者です。
アンダーグラウンドなジャンルということもあり、若手時代はかなり過激な取材も行ってきました。
今年で編集長を引退することになったので、最後に私が取材してきた中で唯一雑誌に掲載することなく「封印」したお話をここに書き残そうと思います。
とある神社にある呪物について取材していた時の事です。
先輩の記者から突然携帯へ電話がかかってきました。
「今から俺の代わりに取材へ行ってほしい。取材する人は男性で『呪われた家の最後の男』になる人だ。場所と時間は…」
正直、かなりゾクゾクしましたよ。
先輩に詳しく聞いてみると、取材する男性は自称呪われた家系の人間で、自分が体験した出来事を誰かに伝えたいということで連絡をくれたそうです。
私はすぐに準備を整えると、急いで取材現場へ向かった。
場所は近所の喫茶店。指定したテーブルにその男性はいました。
「どうも、山田(仮名)です」
男性は20代くらいで、少し暗そうな感じの青年でした。
ここからは、青年が話してくれた内容をそのまま書かせてもらいます。訳あって「細かい部分」は修正していますが、理由は最後に説明します。
一応書かせていただきますが、かなり「衝撃的な内容」になっているので、くれぐれもご注意ください…
「俺は呪われた一族の最後の生き残りなんです」
青年はそう話すと、自分が今まで体験してきた出来事を話し始めた。
「いきなりですけど、俺は両親のことが大嫌いでした。父親はイライラするとすぐに手を出すし、母親もクソみたいな性格の人間でした。俺が本当の家族と認めるのは、爺ちゃんと兄貴の2人だけでした」
青年の名前を山田圭一(仮名)としておく。
圭一さんの両親は所謂「毒親」という奴で、幼い頃から家庭環境はとても悪かったらしい。
「兄貴は高校を卒業した後、すぐに就職のために家を出て行きました。俺も高校を卒業したらすぐに家を出る予定でしたが、自分のことを大切にしてくれた爺ちゃんのことだけが気になっていたんです」
圭一さんのおじいさんは圭一さんたちと一緒に暮らしており、両親とは違いとても優しい人だったそうです。
「最初の事件は、俺が高2の時に起こりました。爺ちゃんが家で急死してしまったのです。爺ちゃんの葬式が終わると、俺は色々考えた末に兄の暮らしているアパートへ行くことにしました。もうこの家にいる意味はなくなったので…」
圭一さんが家を出ようとした時、お父さんがこんなことを圭一さんに言い放ったそうです。
「お前がこの家を出て行ったら『酒神様』の管理は誰がするんだよ!?」
お父さんが言う「酒神様」とは、おじいさんが信仰していた土着神のようなものであり、山田家は何十年も前から家に「神棚」を作って祭っていたそうです。
『酒神様へのお供え物を忘れてはいけないよ。新鮮な酒と紙で作った人形をこの小さな箱の中へ毎日欠かさず入れておきなさい。これを忘れなければ、酒神様は怒らないからね』
圭一さんは、おじいさんから毎日そう教えられていたそうです。
これは一族の子どもたちが代々受け継いでいく予定だったのですが、圭一さんはこの役割を無視することにしたのです。
「当たり前でしょ。爺ちゃんのことは大好きだったけど、あの家は大嫌いだったし。両親が滅ぼうが苦しもうがもうどうでもよかった」
圭一さんはそう言うと、私に向かって携帯に保存された1本の動画を見せてきた。
「燃やしたんです。あの箱も人形もね」
その動画はどこか静かな路地裏で、小さな箱と人の形をした紙を燃やす様子を記録したものでした。
「次の事件はこの動画を撮影してから数ヶ月後に起きました。親父が自殺したんです」
お父さんは家の中で首を吊って自殺していたそうです。その後、お母さんも若年性認知症を患い、家庭は一気に崩壊しました。
数年後、圭一さんはとある会社へ就職した後、会社の寮で生活することになりました。
家族のことはお兄さんに任せていたそうですが、家の遺産や母親を預ける施設の相談で再び実家へ戻ることになります。
「正直両親のことはどうでもよかったのですが、兄貴がどうしても来てほしいと言ってきたので、仕方なく俺はあの家へ数年ぶりに向かいました」
実家はボロボロになっていたそうです。壁には悪戯で描かれたと思われる落書き、庭は手入れされておらず雑草が伸びっぱなし。
「おーい、兄貴…いるか…?」
圭一さんは玄関を開けると、すぐにリビングへ向かいました。
そこには…
「ふふふ…ふふふふふ…」
圭一さんの母親が椅子に座っていました。
「顔も見たくなかった母親ですが、あの姿を見た時には思わず絶句しました。髪も服もボロボロで、身体からは排泄物のような異様な臭い。そしてニヤニヤと俺を見て笑っていたんです」
圭一さんはお兄さんを探して家の中を歩き回っていました。そしてかつてお兄さんが生活していた兄弟の部屋の前で、圭一さんは何か気配を感じたのです。
「兄貴、いるのか…?」
ゆっくりとドアを開けると、こちらに背を向けてベッドの上に座っているお兄さんの姿があった。
「おい、何やってんだよ。ふざけてんのかよ」
圭一さんがゆっくりとお兄さんに近づくと、お兄さんが何かボソボソと呟いていることに気がつきました。
「もや…お……せい……で……おれ……じ………おわ…」
何を言っているのか聞き取ることが出来ず、圭一さんはお兄さんの肩を掴んでゆっくりとお兄さんの顔を覗き込みました。
「へへ、えへへへへへへへへっ!!」
圭一さんは思わず息を呑んだ。
「笑ってたんですよ。兄貴が…」
お兄さんは口からヨダレを垂れ流し、白目を剝きながらゲラゲラと笑っていた。そして…
「いひひひひひっ!おま、お前の…いひひっ!お前のせいで…こんな、こん…こんなことに…いひっ!な、なっちまったんだ…ぞひっ!」
恐怖を感じた圭一さんは、家の外に出ようとすぐに部屋を飛び出した。玄関に向かう途中、母親がいたリビングを覗くと、そこには何故か親戚のおじさんや従兄のお兄さんが集まっており、圭一さんを見てゲラゲラと不気味に笑っていたそうです。
「ひははははあっ!お前のせいだぞっ!」
「ふひひひひひひっ!どうして…くれるのぉ~!?」
「はっははははははははっ!お前もそのうち…ははっ!」
圭一さんを見てゲラゲラと笑い続ける親戚たち。そしてその奥に見えるボロボロになった「酒神様」の神棚。全体からカビのようなものが生えており、所々にゴキブリが這いずり回っている。
「そこからの記憶は曖昧で、とにかく全速力で逃げたのだけは覚えています。兄貴からの連絡はその後一切なく、親戚にも会っていません」
圭一さんは話を終えると、すぐに席を立ちました。そして帰り際、私に向かってこう言ったのです。
「俺たち、酒神様に呪われちゃったんだと思います。たぶん次は俺の番なんです。俺がまともでいられる間、この話を誰かに伝えたかった。今日はありがとうございました」
そう言い残すと、圭一さんは店から出て行きました。
これでこのお話は終わりです。
私はこの取材後、圭一さんとは一度も会っていません。
そして…最後に皆さんへ「謝罪」をしなければなりません。
私は圭一さんから聞いたお話をありのままここへ書いているのですが、訳あって細かい部分を修正して書かせていただいています。
これは仕方のないことで、これをやらないと「とてもじゃないけど最後まで聞いていられない内容」だったからです。
これは圭一さんのお話を録音したテープです。
私は昔から取材の様子を必ずテープレコーダーで記録するようにしています。
とにかくこれを聞いてほしいのです。
私が修正した理由がよくわかると思うので…
それでは聞いてください。
「こんにちは。今日取材をさせていただく○○と申します。本日はよろしく…」
「ひぇっへへへへへっ!俺は…ふへっ!呪われた一族のぉ…ひへへっ!さ、最後…最後のぉ!いき、生き残りなんですよぉ!ひ、ひひひひひひひひひひっ!」
こんなのまともに書けないですよ。
酒神様とは一体何だったのか。
圭一さんの一族はあの後どうなったのか。
調べようとしましたが、当時の編集長からきつく止められました。
「気になると思うが、あの取材はもう中止だ。俺たちでも関わらない方がいいこともあるんだよ」
これで私の話は本当に終わりです。